――八ヶ岳山麓から(361)――
2021年の衆院総選挙では、立憲民主党と共産党という野党共闘の中核が敗退した。立憲民主党の枝野幸男代表は不振の責任を取って辞任した。共産党の志位和夫委員長は、いつもどおり「路線が正しいのだから辞任はしない」とがんばった。
衆院選では、ご存じの通り自民党は「立憲共産党」と野党連合を激しく攻撃した。国民民主党や連合などは、日米安保や自衛隊の存廃、天皇制など理念や基本政策が根本的に異なるのだから共闘はできない、共産党とは「閣外協力」でも政権をともにすることはできないと、いまも主張しつづけている。
いま野党連合は進展していない。共産党が立憲民主党に共闘協議を申し入れているのに、立民は煮え切らない。その一方で、両党とも候補者をどんどん決めている。
しかし次期参院選で野党共闘が成立しないとしたら、地方に活動家の少ない立憲民主党のさらなる後退は免れないし、れいわ新選組も社民党も消え、共産党も複数の議席を失うことになりかねない。
共闘がなかなか進展しない政策上の焦点は、日米安保、自衛隊である(天皇制については、反自民野党間に大きな違いはない)。共産党以外の野党は、みな安保体制と自衛隊を容認しているのにたいして、共産党一人が将来これを破棄し解散させるとしている。連合や自民党の右からの批判もここに集中している。
衆院選後、共産党が出した「あなたの『?』におこたえします」というリーフレットを見ると、日米安保条約については「日本を守らない、戦争にいやおうなく参加させられる」といいながら、「緊急課題の解決へ、私たちは“安保条約への賛否”をこえて、皆さんと力を合わせます」という。
自衛隊については、憲法九条に違反するとしながら、「今すぐ自衛隊をなくそうなどと考えていません」「万が一、『急迫不正』の侵略を受けたら……(自衛隊も含めて)あらゆる手段を用いて命を守ります」としている。安保体制についての違いは棚上げにして共闘を進めるとし、自衛隊は違憲の存在だが日本防衛には活用するというのである。
ところが、その一方で、「しんぶん赤旗」にはほとんど毎週日米同盟の強化に反対し、自衛隊の軍備増強を非難する記事が登場している。この共産党のやり方は、2021年衆院選では有権者にはわかりにくく矛盾したものと受け止められた。そして共産党は議席を減らしたのである。
世論調査によれば、いま国民の圧倒的多数は日米安保条約の破棄も自衛隊の廃止も望んでいない。日米安保体制の下、日本国民は数十年を過ごしてきたが、この間自衛隊の海外派兵はあったものの実際に戦争に巻き込まれたことはない。もちろん、これは日米安保があったためではなく、憲法九条による抑制があってのことである。
だが、沖縄を除けば、本土の有権者の多くは、共産党のいうように日米安保体制を戦争の根源だとは考えない。とりわけ尖閣問題登場以後は、人々の日米同盟に頼る気分と自衛隊への信頼は厚くなっている。
共産党は、2015年9月「戦争法(安保法制)廃止の国民連合政府」を提唱するまでは、安保条約の廃棄など基本政策の異なる政党との政権協力はしないという方針であった。日米安保と自衛隊の政策を野党共闘に持ち込まないという転換が行われた時、なぜ転換するかという説明は、安保と自衛隊の容認という画期的な政策転換ではなく、一時的な「よりましな政府」という程度のものだった。
ところが現実に、野党連合政府の可能性が日程に入る段階になると、共産党の立憲民主党主導内閣への「閣外協力」が問題となった。当然首班指名では共産党は安保容認の立憲民主党代表に投票する。その内閣が作った防衛費を含む予算案にも反対するわけにはいかない。予算案が国会を通らなかったら連合政府はつぶれるからだ。
つまり、共産党は今のままの路線では、将来の日米安保の廃棄と自衛隊の解散をとなえながら、現実の行動ではこの二つを容認せざるを得ないという状態に至るのである。野党共闘は、日米安保と自衛隊を容認する政党とそれに否定的な共産党との共闘である。だから矛盾を含んでいて当然である。問題はこれをどう扱うかである。
このさき、1960年の反安保闘争のように世論が圧倒的に日米同盟の解消に動くことはないかもしれないし、あったとしても何十年先かわからない。その間日本は対米従属、目下の同盟者といった屈辱的な地位におかれるのである。
だが、共産党は、当面は基本路線を「日米安保解消と自衛隊の解散は数十年先の話として、日米安保と専守防衛の自衛隊を容認する」方向に転換すべきではないか。そうすれば政策がわかりやすくなって有権者をひきつけることができるうえに、共闘に消極的な立憲民主党の一部は口実を失うし、国民民主党や連合も文句は言えなくなる。自民党などからの「立憲共産党」などという批判も無力になる。
共産党が路線転換を遂げても、なお国民民主党や連合などが共産党とは共闘を拒否するとしたら、有権者の多くから、彼らは反自民ではなく、自民党の一分派あるいは走狗に過ぎないと見られるようになるだろう。
もっとも、志位・小池氏ら共産党指導部も野党共闘の経験の中で、野党連合政府を結成するためには、こうした路線変更が必要であることはわかってきたと思う。
ところが、この転換は党のアイデンティティーに関わる問題である。共産党は長年日米同盟と自衛隊の軍備増強批判にこだわりつづけてきたために、党内にはこの二つを極度に嫌う傾向がある。かつて藤野という政策委員長が防衛費を「人殺し予算」と呼んで非難を浴びたことがあったが、彼の心理と認識は、私の親しい村の党員も同じであった。
だから党中央には、日米安保と自衛隊を容認するという方針を提起したとき、長年の党員や支持者が動揺し、党から離れてしまう懸念がある。基本路線の転換は、これを説明する力量の高さと政治的決断力にかかっている。
参院選で、共闘ができれば野党連合は当選者を増やせるかもしれないが、共産党は独自に画期的な転換をしなかったら、大敗を喫するおそれがある。なぜなら共産党は保守的だというイメージが定着しつつある。しかも2006年には、共産党の足とでもいうべき支部は2万4000あったのに、現在では1万8000支部に減少した。そのうえ最近の幹部会決定によれば、党内の参院選への準備が決定的に遅れているという。党員の大半が動かないのである。
党指導部は、党内外を納得させるだけの理論構築が可能なら、いますぐにでも基本路線の転換を提起して、党員をはげまし、有権者の関心を共産党に向けさせるべきである。(2022・02・21)
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