――八ヶ岳山麓から(352)――
前回私は、衆院総選挙をめぐって立憲民主党に対する批判と注文を述べた。今回はその日本共産党版である。
日本共産党志位委員長は、総選挙直後の同党国会議員団会議で概略こう述べた。
――4年前に比べて、自民と公明は合計で、比例得票では150万票を増やしていますが、議席では19議席を減らしています。次に「与党の補完勢力」はどうか。……4年前の希望、維新の合計と、今回の維新で比較しますと、比例得票では501万票を減らし、議席では20議席を減らしています。
最後に「共闘勢力」はどうか。4年前、共闘してたたかった共産、立民、社民の合計と、今回共闘してたたかった共産、立民、れいわ、社民の合計で比較しますと、比例得票では246万票を増やし、議席では42議席を増やしています。
これがこの4年間の政党間の力関係の変化を示す客観的な数字であります――(議員団の拍手)
これを読んだとき、わたしは今まで応援してきたこの党のさきゆきを案じた。
同党はさる11月27日中央委員会総会を開き、そこで志位和夫委員長が常任幹部会の報告をした。29日の「赤旗」ネットによると、志位氏は、自公政権の交代は実現できなかったが、野党共闘は59選挙区で勝利し、確かな成果を上げたとし、共産党が比例代表で11議席から9議席へ、440万票から416万票に後退したことを認める一方で、「56選挙区で『共闘勢力』の比例票合計を小選挙区候補の得票が上回る『共闘効果』が発揮された」と述べた。
これは客観的分析ではなく、自分の弱点を認めたくない者の数字の遊びである。むしろ、ここは野党共闘と共産党の「閣外協力」が有権者にとって自民党の受け皿となりえたか、それに関連して共産党の比例区得票が大幅に減ったわけ、同じく比例区で立憲民主党に投じられた票が4年前の30%から6ポイントも下回ったわけを分析検討すべきところである。
共産党の議席後退の敗因について、志位氏は野党共闘に対する攻撃が激しかったこと、またこれへの反撃が十分でなかったこと、「共闘の大義、新しい政治の魅力」を広く伝えられなかったこと、共闘態勢の構築が選挙間際まで遅れたことなどをあげた。
また自公政治からの「四つのチェンジ」――(1)新自由主義を終わらせ、命・暮らし最優先の政治、(2)気候危機を打開する「2030戦略」、(3)ジェンダー平等の日本、(4)憲法9条を生かした平和外交――が届かなかったとも述べ、これも敗退の原因とした。
共産党の幹部は庶民の生活を知らない。有権者の多くは毎日の労働と生活に追われ暇ではない。それがどんなに切実な課題であっても、選挙の宣伝で四つも羅列したのでは、有権者の心には届かない。そもそも「憲法9条を生かした平和外交」というスローガンで、野党共闘や共産党が今日の尖閣の緊張や台湾危機に適切に応えているとだれが思うだろうか。
各党の総選挙公約を座標にとってみると、おおかたが「リベラルかつ社会保障を重視」する領域とその周辺に集中しているのがわかる。以前も本欄で触れたが、共産党のポスターの文言は、昔は「老人と子供を大切にする政治」だった。いまは「やさしい政治」で、自民党などとほとんど変わりがない。左派としての政治感覚が鈍くなっている。
なぜ弱い者の立場に立つことを明確にして「臨時工・非正規雇用をなくせ」とか、平和を望む人々に代わって「台湾の武力解放反対」といった、そのものずばりのスローガンをとなえないのか。ここにこそ日本に共産党存在の意義があるのに。
だから「四つのチェンジ」を解説する志位氏の街頭演説は、仲間内の拍手があったとしても、外の人間には頭の悪い教師の退屈な授業のようにしか聞えないのである。
わたしは、以上のほかに、敗北の理由の一つとして、共産党にこれという人物がいないことがあると思う。北陸信越比例区の共産党候補は、いつぞや防衛予算を「人殺し予算」と決めつけて、党政策委員長を更迭された人物である。わが選挙区の候補の演説は自分の考えがないからか志位氏の模倣の域を出ず、高校弁論大会の水準だった。
志位氏は、野党共闘と共産党に対する「支配勢力」の攻撃への反撃が適切に行われなかった責任は、常任幹部会にあると表明した。最高級幹部の責任を認めるのは他党では普通のことだが、共産党ではおそらく初めてではないかと思う。ところが誰にどんな責任があったか一言もない。これはあまりに無責任である。
志位氏は選挙結果が出た直後メディアの質問に、「(野党共闘の)路線は間違っていないから辞任しない」と答えたが、路線が正しかったかどうかは選挙の結果が示しているじゃないか。わたしは、野党共闘は共産党の政治的影響力を維持するための生残り戦術の側面があると思うが、これによって共産党が比例区の得票を減らした可能性もある。その検討なしに「間違っていない」というのは、あまりにずぼらである。
さきの志位報告では、今後衆院比例区での得票を「850万票、(得票率)15%以上」に堅持しつつ、参院選では「650万票、10%以上……比例5議席の絶対確保を必ずやりきる」との提案を示した。また、3月末までを節に「赤旗」読者を日刊紙1万1000人以上、日曜版4万6500人以上を増やすことを掲げた。
共産党はこれを数十年くりかえしてきたが、党勢は上向きにならない。今次総選挙も党勢が減退している中で戦われたのに、3月まで日曜版を毎月1万部余りも増やせるはずがない。目標をこう決めたのは、赤旗の読者を増やさないでは党の台所が苦しいからであろう。そうであれば、政党助成金を受けて党財政の緊迫度を緩め、その分下部党員を休ませたらどうか。いまや活動に参加する党員は限られた数になった。この人々が疲れているのをごらんなさい。
志位氏はさらに、参院選公示までに青年・学生、労働者、30~50代の真ん中世代で1万人の党員を増やすという。いまこれは本当に必要なことだ。ところが共産党はいままで市民運動や労働運動にあまり力を入れてこなかったから、活動家は育っていない。どんな方法で青壮年の党員を増やすというのだろうか。また赤旗紙の拡大のように、党員の「奮闘努力」にたよるのか。それはもうやめた方がよい。
むしろ、青年・学生が置かれている社会的・心理的状況を客観的に分析し、己の思想と行動が若者に受け入れられるものであるか否か検討することから始めるよう勧めたい。さらに、わたしは党員の方々に対し、あらためて党名の変更と党規約の改正を勧める。こうすることは必ず党をよみがえらせ、党勢拡大の役に立つ。世間の共産主義に対する嫌悪感がいかほどのものか、あなた方にはわかっていない。また、民主集中制という組織原則が党員の民主的権利を制限するばかりか、国民からみて党をきわめて閉鎖的な存在にし、近寄りがたいものにしている。このことをぜひわかってほしい。
志位・小池共産党は今後も野党共闘路線で行くという。確かにこれしか存在を示す道はないかもしれない。だが、立憲民主党の新代表は泉健太氏に決まった。泉健太の立憲民主党は必ず右傾化し、革新・リベラル派の影響力を限られたものにしようとするだろう。共産党との距離は開く。野党共闘にこだわっていては、生残る術を失うかもしれない。(2021・12・02)
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