前代未聞のハンガリー国立銀行巨額資産の詐取事件-なぜオルバン・ヴィクトルは沈黙しているのか

事件の重大性と問われる「法の支配」

オルバンとプーチン1 2025年3月、ハンガリー会計検査院は、国立銀行の資産消滅事件を告訴した。国立銀行が設立した公益財団(Pallas Athéné Domus Meriti Alapítvány, PADME,財団と略称)は国立銀行から得た資金の運用を投資管理会社(OPTIMA Befektetési Zrt.、投資管理会社)に委託した。そして、当該管理会社は委託資金の運用をOPTIMA Befeketetési Alapkezelő Zrt.とARCADIA Befeketetési Alapkezelő Zrt.(投資運用会社と略称)に委託した。これらの組織はすべて財団が100%の所有権をもつ会社である。この二つの運用会社は各種の私募ファンド(親ファンド、子ファンド、孫ファンド)を通して資金を運用したが、2024年現在、投資管理会社の資産がほぼ消滅していることが明らかになった。実に、4000億Ft(現在の為替レートでおよそ1800億円)もの資産が、国立銀行総裁マトルチ・ジョルジュとその息子アーダムによって溶かされてしまったのである。会計検査院は犯人不詳のまま、この事件を告訴した。

ワインを飲みかわすマトルチ国立銀行総裁とポルト検事総長(24.hu, 2016.03.10)。ポルト夫人は財団の監査委員に就任。

会計検査院の告訴からおよそ1年の時間が経とうとしているのに、この巨額資産の流出・詐取事件で、逮捕された者は未だ一人もいない。財団や投資管理会社、投資運用会社のボードメンバーはすべてマトルチ・ファミリーに関係する人物で、皆、この事件にかかわっている。この間、首謀者のマトルチ・アーダムはドバイに逃亡したと噂されており、マトルチ前国立銀行総裁の動静も不明である。
2025年春の会計検査院の告発とヴァルガ新総裁の就任によって、詐取にかかわった人物はすべて財団や投資関連会社の役員を解任されたが、警察・検察の捜査は進捗していない。なぜなら、ポルト検事総長(現在は憲法裁判所長官)はオルバンが指名した人物で、オルバンの指示なしで独自の判断を下すことはない。しかも、マトルチは先手を打ってポルト検事総長夫人を財団監査委員に任命し、ポルトとはきわめて親しい関係にある。この事例はハンガリーにおける政権と法曹界の親密な関係を象徴している。ハンガリーの警察も検察も、すべてオルバン・ヴィクトルの掌中にある。だから、独裁政権のたらい回し人事によって、重大事件が見逃されてきた。欧州委員会がハンガリーにおける「法の支配」を問う理由である。

事件が公になってからすでに10か月もの時間が経過しているが、オルバン首相はこの事件について沈黙を続けている。2026年初頭の記者会見で、この事件について質問されたオルバン首相は、「国立銀行の運営に政府は関与しない。詐取があれば、警察が適切に対処するだろう」とまるで他人事のように語っている。しかし、政権与党Fideszは特別の法律を制定して国立銀行財団の設立とその資金運用を支援した。オルバン首相とマトルチ総裁の合意なしに実現しなかったスキームである。政府が関与しないどころか、政府が全面的に支援して実現したスキームによって、巨額の公的資産が溶かされてしまった。ふつうの法治国家であれば、政権が崩壊してしまう公金詐取事件ある。しかし、ハンガリーではオルバン政権が事件の矮小化に努め、被疑者の拘束を妨げている。オルバン・ヴィクトルの責任は重い。

なにゆえにオルバンは巨額詐取事件の首謀者の責任を追求せずに沈黙を続けているのか。もちろん、国立銀行資産の流出だけがFidesz政権の腐敗問題ではない。そもそもオルバン・ヴィクトルがパクシ原発拡張工事発注に際してロスアトムから裏金(賄賂)を取得したことから、オルバン政権の腐敗が始まった。マトルチ・ファミリーが溶かした4000億Ftは、オルバンがロスアトムから取得した裏金に比べて、それほど大きなお金ではないのだ。ロスアトムの裏金で権力維持の旨味を知ったオルバン・ヴィクトルは、その政治姿勢を180度転換した。これがFidesz政権腐敗の原点である。

国立銀行資産流出のスキーム

マトルチ国立銀行総裁は就任して間もない2014年に、国立銀行出資による財団設立を提案し、与党Fideszはそれを可能にする法律を制定した。なぜそのようなスキームを考案したのかついては、「ブダペスト通信」(2025年4月2日、https://www.morita-from-hungary.com/j-07/07-01/2025/250402_012.pdf)を参照されたい。続く2015年に財団が100%所有する投資管理会社OPTIMA Befektetési Zrt.(当初の名称は、Pallas Athéné Domus Optima Zrt.)を設立し、2017年には財団が100%所有する投資運用会社(OPTIMA Befeketetési Alapkezelő Zrt.とARCADIA Befeketetési Alapkezelő Zrt.)を設立した。明らかに、最初から財団設立と投資管理・運用会社設立がセットになったスキームである。

2015年、社会党議員が国立銀行にたいして、財団運営の情報開示を求めたところ、国立銀行は「財団に口出す権限がない」と情報公開を拒否した。このため、情報開示を求めて裁判が起こされ、2016年2月16日に最終判決が出た。それによれば、「国立銀行は専ら公的課題を遂行する組織であり、その組織が設立した財団もまた、公的課題を遂行する組織である」と認定し、国立銀行側の主張を退けた。真っ当な判決である。

さらに、投資資金を増やすために、国立銀行は2020年にノイマン・ヤーノシュ大学財団(ケチケメート市)を設立して、そこに国立銀行資金1275億Ftを投入した。しかし、その資金全額が投資管理会社(OPTIMA Befektetési Zrt.)の債券を購入する形をとって、投資管理会社に移された。要するに、この大学財団は国立銀行資金を投資管理会社に移すためのダミー組織として利用されたのである。大学財団には、投資管理会社の社債と称する紙切れだけが残された。
こうして投資管理会社(OPTIMA Befektetési Zrt.)はおよそ4000億Ft of the 国立銀行資金を取得した。これに加えて、国策商業銀行MBH(メーサーロシュとマトルチ元部下が株式を取得)から1億7千万ユーロ(およそ700億Ft)の融資を加えた総額5000億Ftの投資資金を確保した。

ヴァルガ新総裁は就任直後にHegedus Istvánを財団の管財人に指名し、財団や財団が出資した会社の資産・負債の状況を把握することに努めている。HVGはその管財人ヘゲドシュのインタヴューを掲載している(hvg360 2025.12.22)。ヘゲドシュによれば、投資管理会社(OPTIMA Befektetési Zrt.)の2024年末のバランスシート上に残っている国立銀行資金(資産)はわずか130億Ftだという。財団のほとんどの資金は溶かされてしまった。その責任はマトルチ総裁時代の国立銀行にあると断言している。

国立銀行資産の流出図(簡略化したもの)

フアンド会社図 ところが、与党Fideszは間髪を入れずに2016年2月29日に法律案を国会に上程し、「国立銀行の経済活動や財団にかかわる情報は、公的情報へのアクセスにかんする法律の適用から免れる」という法案を採決した。要するに、「財団にかかわる情報は公的情報として取り扱われない。だから情報へのアクセスは制限される」ことを決議したのである。いとも簡単に裁判所の判決を覆してしまった。政治による法の蹂躙である。当時のFidesz議員団長コーシャ・ライヨシュは「一度財団に支出した個人のお金はもう個人のものではないのと同じように、国立銀行から財団に出資された資金は公的性格を失い、もはや国立銀行のものではない」と繰り返し強調した(http://index.indavideo.hu/video/Kosa_a_kozpenzrol)。手間勝手な解釈である。財団資金の自由裁量を擁護するために、与党Fideszは裁判所の判決に反する法律まで制定し、マトルチのスキームを支援したのである。

さらに、投資資金を増やすために、国立銀行は2020年にノイマン・ヤーノシュ大学財団(ケチケメート市)を設立して、そこに国立銀行資金1275億Ftを投入した。しかし、その資金全額が投資管理会社(OPTIMA Befektetési Zrt.)の債券を購入する形をとって、投資管理会社に移された。要するに、この大学財団は国立銀行資金を投資管理会社に移すためのダミー組織として利用されたのである。大学財団には、投資管理会社の社債と称する紙切れだけが残された。
こうして投資管理会社(OPTIMA Befektetési Zrt.)はおよそ4000億Ftの国立銀行資金を取得した。これに加えて、国策商業銀行MBH(メーサーロシュとマトルチ元部下が株式を取得)から1億7千万ユーロ(およそ700億Ft)の融資を加えた総額5000億Ftの投資資金を確保した。

この全体スキームの実行はマトルチ総裁の息子アーダムが指揮し、アーダムの友人たちが実際の投資や複雑なファンドの所有再編を実行した。アーダムの友人であるStofa GyörgyはOPTIMA Befektetési Zrt.の社長を務め、同じく友人のSzáraz Istvánは投資資金の投資運用にかかわったQuartz Alapkezelőの所有者であり、不動産開発の多く案件は同じくアーダムの親しい友人Somlai Bálintが受注した。800億Ftの国立銀行の改修工事を請け負ったのもSomlaiである。彼らは皆、1億円近い高級スポーツカーを乗り回し、何千万円もする腕時計をはめている。会計検査院の告発の後、とりあえずSomlaiの銀行口座が凍結されたと報道されている。
父マトルチ・ジョルジュが詐取スキームの仕組み(財団-投資管理会社-投資運用会社)を作り、息子アーダムが詐取を指揮し、アーダムの友人たちがマトルチ・ネットワークを形成して国立銀行資産を溶かしていった。これが国立銀行資産詐取事件の大筋である。

「法の支配」が問われるハンガリー

この事件は2000億円弱(現在の為替レート)の国立銀行資産が外部に流出し、そのほとんどが溶かされてしまった重大に事件である。張本人はこのスキームを考案した前国立銀行総裁マトルチ・ジョルジュであり、資金の流れを采配した息子アーダムである。流出資産のかなりの部分がマトルチ・アーダムとその周辺の起業家の私財に化けた。ふつうの先進国であれば、とうの昔に政権が崩壊しているほどの重大事件である。しかし、会計検査院の告発から10か月も経過しているのに、誰一人として逮捕されていない。Fidesz政権下のハンガリーの「法の支配」が疑問視される事例の一つである。

マトルチは2期12年にわたって国立銀行総裁を務め、もう1期6年の延長を求めていた。しかし、与党内部の反発にあって実現しなかった。Fideszの政治家がマトルチ父子の行状をどこまで知っていたかは分からないが、国立銀行を私物化しているという信ぴょう性の高い噂から、オルバンも総裁更迭を決断せざるを得なかった。オルバン・ヴィクトルの片腕として絶対の信頼を得ていたマトルチである。任期途中で辞任させることなく、2025年3月の任期切れをもって、マトルチは2期16年の任期を終えて国立銀行から離れた。そして、新たに総裁に就任したヴァルガ・ミハーイ(前財務大臣)のもとで、財団の清算手続きが開始されることになった。

ヴァルガ総裁は財団や財団が100%所有する投資管理・運用会社の役員を交代させ、それぞれの資産・負債の正確な把握に努力している。また、マトルチ総裁時代に購入された絵画などの美術品(国立銀行倉庫に保存)も、売却あるいは寄贈(美術館へ)されている。マトルチ父子による国立銀行の私物化は目に余る。体制転換期に中央銀行の金資産が略奪されたロシアの事例はあるが、EU内の国立銀行の巨額資産流出は前代未聞の事件である。
しかし、未だに誰一人として拘束・逮捕されていない。それはなぜか。オルバン独裁政権による警察・検察支配の現実があるからである。オルバンが「イエス」と言わない限り、警察も検察も手を出せない。この点で、ハンガリーは発展途上国並みの「法治」国家である。

捜査が進まない理由- Fidesz政権が失った「金融金銭倫理」

この事件の捜査が進捗しない最大の障害は、この事件解明に消極的なオルバン首相の姿勢にある。なぜ消極的なのか。事件解明を妨げるオルバンの姿勢は何によって説明できるのか。それはFideszの「金融金銭的倫理の崩壊」から説明できる。
オルバンとマトルチが財団設立のスキームを話し合った2014年前後は、政治家の腐敗に対するFideszの姿勢が180度転換した時期である。
オルバン・ヴィクトルの思考によれば、第一次オルバン政権時代(1998-2002年)はあまりにナイーヴすぎて、党の財政基盤を強化することもメディアに影響を与えることもできなかった。それが2002年総選挙の敗北原因だと認識していた。そこからの教訓として、党が再び権力を奪取した暁には、党が下野しても困らない党財政基盤強化することと、メディアにたいするFideszの影響力確保が最優先課題だと考えていた。それが第二次Fidesz政権(2010-2014年)にメディア支配と、ロシア・中国との関係強化を通した裏金形成へと走らせた。

裏金形成の一つが、ロシア人と中国人にたいする「定住権付国債」販売(2013年1月販売開始)である。政府が直に販売するのではなく、販売仲介会社を経由して、中間利益を上げることができる仕組みが作られた。しかも、販売仲介会社はタックスヘイヴン地に設立されたオフショア企業で、企業の実際の所有関係が秘匿された。ふつうの法治国家では考えられないスキームである。ロシアと中国のフィクサーを介して、それぞれの国の政治家をも巻き込むビジネスは、経済的利益だけでなく、ロシアと中国の人脈形成に役立つ。これが国家機構を利用した裏金形成スキームである(詳細は、『体制転換の政治経済社会学』日本評論社、2020年、121-126頁)。移民難民問題で政府対応の矛盾を指摘されたFidesz政権は、2017年3月をもって、このいわゆるGolden Visaの販売を終了した。これ以上続ければ、「定住権付国債販売」の内実が暴露されることを恐れての措置である。

ハシナ家族とプーチン

この裏金形成スキームが考案された同時期に、オルバン・ヴィクトルの政治姿勢を180度変えたのが、原発増設にかかわる裏金(賄賂)取得である。2013年を通してプーチン大統領とオルバン首相は秘密裏の会談を重ね、国際入札なしで、突如として建設契約を締結した(2014年1月)。プーチンとの個人的協議を通したプロジェクトの実現を図ったことで、オルバン首相はロスアトムから莫大な裏金を取得した。一部は党資産に、一部は個人資産に振り分けられたと考えられる。その裏金がどれほどの規模のものか、ロシアにとって最大限の機密情報が洩れることはないが、2024年に暮れに、裏金の規模を推測できる事件が報じられた《ハシナ首相一家とプーチン大統領(クレムリンの写真撮影、2013年)。左端が姪のTulip Siddiq で、イギリス労働党の財務大臣補佐として経済的腐敗問題担当)。2024年の賄賂報道の後、Siddiqは役職を辞任した(出所:The Standard, 14 January 2025)》

ハンガリーの原発増設が話し合われていた同時期に、プーチン大統領はバングラデッシュのハシナ首相と原発新設の契約を締結した(2013年)。ところが、2024年暮れになって、国際メディアは一斉にバングラデッシュの原発建設にかかわる賄賂50億ドルがハシナ一族に支払われていたと報じたのである。総額126億5千万ドルのプロジェクトで、賄賂50億ドルはプロジェクト総額のおよそ40%である。建設業のマージン率としては高い方だが、非現実的な数値ではない。裏金は隣国のマレーシアの複数の銀行に、ハシナ一族の複数名義で振り込まれたと報道されている。すでにハシナ首相はインドに亡命しているが、当時、イギリス労働党の要職にあったハシナ首相の姪であるチューリップ・スィデック(Tulip Siddiq )は、叔母のハシナから贈与を受けたと報道され、役職を辞任した。バングラデッシュの贈収賄事件がイギリスの政界にまで波及した事件である(ブダペスト通信「ロシアの原発に関連した賄賂情報」https://www.morita-from-hungary.com/j-07/07-01/2025/250206_006.pdf)。

同時期にオルバン首相がプーチン大統領と締結した原発増設のプロジェクトは総額125億ユーロで、ほぼバングラデッシュと同規模のプロジェクトである。ハンガリーが自前で調達した25億ユーロを除く100億ユーロがロシア輸出入銀行からの借入金である。バングラデッシュ並みとすれば、裏金(収賄)の規模は40億ユーロと計算される。30%のキックバックを想定すれば30億ユーロ、25%とすれば25億ユーロ(現在の為替レートでおよそ1兆Ft)である。ロスアトムからのキックバックがこれより小さいはずはない。最低でも25%の裏金(賄賂)が支払われた(あるいは分割払いとして支払われている)と推測できる。途方もない額の裏金を提示されたことで、オルバン・ヴィクトルは腰を抜かし、彼の世界観が一変した。ロシアの汚れた金を手にしたことで、金融金銭感覚が麻痺し、金銭にかかわる倫理が完全崩壊したのである。

そもそも、キックバックされた(される)お金は、ハンガリー政府が支払ったお金(ハンガリー国民の税金)の一部が還流したもので、ロシアが気前よく贈ったお金ではない。オルバンが取得した賄賂の原資はハンガリー国民の税金であり、だからこそ収賄犯罪(国家背任行為)を構成する。しかし、ハンガリーは社会主義時代に贈収賄という法的観念を失ってしまった。その社会的慣性が現在も続いている。だから、現在もなお、公務員の収賄を厳格に取り締まる慣例がなく、見過ごされることが多い。まして、権力を握る政治家の背任行為を厳しく取り締まることなどできないのである。

オルバン・ヴィクトルが2014年の総選挙後に、シミチカ・ライヨシュにRTL Klubチャネルの買収を相談した折、シミチカは「3億ユーロもするので無理だ」と答えた。これにたいし、オルバンは「何の問題もない。ロスアトムが俺に買ってくれるから(Nem baj, megveszi majd nekem a Roszatom)」と断言している。要するに、その程度のお金はどうにでもなるということだ。当時のオルバンにとって、RTL Klubの買収など、それほど大きな買い物ではなかったのである。
ロスアトムの裏金は極秘事項である。その存在を知っている者は数名しかいないだろう。ロスアトムからのキックバックが本当に党の資産として保有されているのか、それともオルバンの個人資産として保有されているのか分からない。プーチン政権が崩壊して、極秘情報が公開されない限り、それが公になることはないだろう。

国立銀行の財団設立と投資管理会社設立の構想が議論され実現したのも2014年である。明らかに、マトルチはオルバンの了解を得て、このスキームの実行に入った。両者が合意した表向きの理由は、大方、党の裏金形成だろう。マトルチは財団の資金を運用すれば、大きな利益が出て、それを党資産にできると説明したのだろう。オルバンもあの手この手で、私財を蓄えることに躍起になっていた時期である。自分一人が儲けるわけにはいかないと思ったのだろう。その程度のお金ならマトルチが自由裁量で動かしても構わないと考え、マトルチのスキームを承認したと考えるのが正しいだろう。しかし、党の裏資産に寄与するはずのものが、マトルチ・ファミリーの私財になってしまった。この事実が明らかになるにつれて、マトルチ国立銀行総裁にたいするオルバンとFideszの信認が崩れ、2025年3月で任期切れ辞任となった。

もしかして、マトルチはロスアトムの裏金の件を承知しているのかもしれない。オルバンがそれほどの裏金を得ているなら、国立銀行資産の一部を私物化しても構わないと考えたのかもしれない。それにたいして、オルバンはマトルチのスキームを了解するしかなかったのではないか。だから、この事件に関して、オルバン・ヴィクトルは積極的に動くことができない。動けば、マトルチがオルバンの秘密を暴露する可能性がある。

ハンガリーの警察・検察がオルバンの指揮下にあるから、マトルチがオルバンの秘密を握っている限り、逮捕されることはない。容疑がかかっても、すべては息子アーダムの仕業だと否認するだろう。ところが、アーダムはニューヨークやドバイの高級マンションで優雅に暮らしている。Fidesz政権が続く限り、マトルチ一家の安全は保障されている。しかし、政権交代はマトルチ一家にとって悪夢となる。もっとも、ハンガリー警察と検察の生ぬるい捜査によって、すでに資産のほとんどは国外に持ち出されているはずだ。それをハンガリーに戻すことは難しい。生ぬるい捜査が犯罪者の証拠隠滅を助け、詐取資産の回収を難しくしている。
【ブダペスト通信2026年No. 3(1月22日)から】

「リベラル21」2026.01.27より許可を得て転載
http://lib21.blog96.fc2.com/blog-entry-6964.html

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
〔opinion14645:260127〕