(新・管見中国 1)
一昨日の「暴論珍説メモ 136」でも触れたが、中国の腐敗撲滅運動は収まるどころか、勢いを増している。4月1日の『人民網』(ネット)によれば、今年の第1・4半期の3か月間に党内での調査によって「犯罪の疑い濃厚」とされ、司法機関に委ねられた中央官庁および地方各省のトップクラスの人間は11人に上った。
今回の腐敗撲滅運動は2012年秋の共産党18回大会で習近平政権が発足してから始まったものだが、中央・地方の幹部で司法の手に渡されたのは13年が4人、14年は26人だったから、15年の年初3か月で11人という数字を『人民網』は「打虎加速」(虎狩り加速)と形容している。
その11人の中には昨年、内外で注目を集めた周永康(前中央政治局常務委員)、徐才厚(前中央軍事委副主席)、令計画(元党中央弁公庁主任)に匹敵するような「大虎」はいないが、いずれも国の支配階層の高位を占める人間たちである。
「罪状」は贈収賄、公金横領、職権横領などであるが、刑法の規定では10万元(約200万円)以上の収賄で無期あるいは10年以上の懲役、とくに悪質な場合は死刑も、というのが刑罰である。ところが18回党大会以降、収賄罪で裁判にかけられた7人の高級幹部のうち収賄額の最高は3500余万元(約7億円以上)、最低が283余万元(約5600万円)、平均が1395万元(約2億8000万円)ということである。
10万元以上で処罰の対象になるのに、収賄額がこれほどの巨額に上るということは、長期間にわたって収賄を続けていたことを意味するから、腐敗の根の広がりの大きさを思わせる。そして7人のうち4人がすでに判決を受けているが、判決の内容は無期懲役2人、懲役17年と15年、各1人である。
また、不法な経済的利益以外に昨年6月以来、党内での調査にあたる中央紀律審査委員会が公表する「罪状」の中に「通姦」という項目が加わって注目されている。「通姦」とは配偶者がいながら配偶者以外の異性と性行為を持つこととされているが、中国の刑法その他の法律では、これは罪とされていない。
にもかかわらず、なぜ「通姦」を公表するかについて、紀律審査部門の説明は「党紀は国法よりきびしい」である。国法は1人の国民として守らなければならないが、共産党員および党幹部は普通の国民とは違う。国法を守るだけでなく、党紀を遵守しなければならない、ということになる。そして「通姦」のような道徳的腐敗が思想を変質させ、経済的腐敗を助長するので、党としては違法でなくともそれを見逃すわけにはいかない、となる。
規律違反で言えば、広東省政治協商会議の元主席は「計画生育政策」の重大な違反を摘発された。「一人っ子政策」違反である。これもまた党の「紀律処分条例」では「留党観察処分」あるいは「除名」とされる。
こうして腐敗撲滅は進められているが、それは一方では大衆の溜飲を下げるという効果をもたらしているが、たとえば山西省のように令計画以下の山西閥が大量に摘発された結果、役人の数が減って行政が停滞するとか、あるいは許認可で賄賂が取れなくなったために、権限を持つ役人が嵐の過ぎるの待って、許認可そのものを遅らせているため仕事が進まないといった弊害も伝えられている。
そうした向かい風に抗して、このまま腐敗撲滅路線を貫けるのか、どこかで現実に妥協して矛を収めることになるのか、習近平政権は難しいところに立っている。
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
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〔opinion5278 :150404〕