貯蓄を吐き出せば価格上昇は感じないか?!
それにしても驚いた。黒田日銀総裁は「家計には強制貯蓄が溜まっているから、価格上昇に耐えられる」と発言したという。
この人は自分の主張が意味することを分かっているのだろうか。確かに、コロナ禍で、不要不急の支出を控えるようになって、家計の貯蓄は増えている。「貯蓄が増えているから、価格上昇に耐えられる」と主張するのは、 「貯蓄を吐き出せば、価格上昇は相殺される」と主張しているのと同じである。要する に、「貯蓄が溜まったのだから、多少の価格上昇は問題ない」と考えているのだ。
これでは参議院選挙に悪影響がでると政府から指摘されたのだろうが、どう言い換えても弁明しても、言っていることは同じである。 日銀総裁就任から馬鹿の一つ覚えのように、9 年もの長い間、「金融緩和によって、2% の物価上昇達成」を掲げるだけで、月収300万円もの実入りがある総裁なら、多少の価格上昇にはびくともしないだろう。もっとも、買物をしたことのない総裁が実際の消費生活を実感できるわけもないが。
そもそも、「2%の価格上昇を実現すれば、景気が良くなる」という論理は最初から 破綻している。価格上昇と景気上昇という二つの現象が、どうして自動的に繋がるのか。 それぞれの現象にはそれを生み出す原因や社会的変動があり、それを解明することなく、 二つの現象を結合するのは、表面的な現象を繋げただけのナイーヴな議論である。そのような議論で、国民経済を理解できるわけがない。
現代経済学は科学というにはほど遠く、実物経済の成長の基盤がどこにあるのかについての明確な理論をもっていない。実物経済学が低迷しているのにたいし、余剰資金を扱う金融経済学は、お金という単位だけで議論できるので、より明瞭な議論ができる。とはいえ、それはあくまで金融の世界だけに当てはまる話である。
しかし、現代経済学は 金融経済学から得られた知見を、実物経済を理解するのに利用している。ここに現代経済学の陥穽がある。2%の物価上昇が予測できれば、生産者や消費者が経済活動を活性化させるというのは、金融経済から得られた知恵を実物経済に適用した類推にすぎない。
金融の世界では 1%いや 0.1%の変化でも、それが確実に予想されれば、投資家は動く。しかし、そのような議論を実物経済世界に適用することはできないし、まして消費者行動に適用することはできない。100 円のものが、102 円になるからといって、消費者が消費活動を活性化させることはない。
要するに、2%物価上昇論は金融経済から着想されたものを、実物経済に適用できると考えた浅知恵なのである。だから、そのような議論が国民経済を活性化させることはない。しかし、この無意味な政策の堅持のために、日銀総裁に巨額の年収を支払い続け、 他方で物価上昇や円安の為替変動で、一般消費者は莫大な資産を失っている。このような不合理がまかり通る社会は間違っていないか。何もプーチンの侵略だけが許せないのではない。
劣等生政治家の暴論
首相を引退してからも活動を活発化させている安倍晋三だが、ここにきて、一知半解の議論を振りまいている。三流「経済学者」高橋洋一の尻馬に乗って、「政府と日銀は親会社と子会社のようなもの」だから、日銀所有の国債は相殺されてゼロになる。だから、財政赤字の心配はしなくて良いと声高に主張している。挙げ句の果てに、「簡単に 言えば、紙幣を刷れば良いのです」と言う始末である。
こんな劣等生の無責任政治家の暴言に、 経済学者と称される人々が沈黙を貫いているのも奇妙である。それほどまでに、現代経済学は堕落している。 もっとも、たいして勉強もしていない安倍晋三が主張しても影響力は限られているが、 意外に「政府(親会社)-日銀(子会社)」理論が幅を利かせている。
日銀は政府の借金を相殺しているのではなく、対政府債権として保有しているに過ぎない。政府の実物消費を、資金的に管理しているだけのことである。 ところが、高橋洋一などは、これだけ政府債務が積み上がっても超インフレにならないのだから、それには理由があるはずだと考えた。それが「親会社-子会社」論である。
高橋は2017年の経済財政諮問会議でのスティグリッツ(米)の不用意な一言に飛びついた。「政府債務は一夜のうちに消える」という文言を、ノーベル経済学賞経済学者のご宣託のごとく扱い、日銀所有の国債は相殺されて、政府債務ではなくなると考えたのである。
なんとも幼稚な議論である。「すぐに超インフレにならないから、累積債務は問題がない」のではない。超インフレの出現には条件がある。それは首都圏直下型地震の発生と同じである。すぐに発生しないから、地震は来ないのではない。必ず地震は来るから、それに備える必要がある。 野放図な財政赤字は将来の日本経済を毀損する。だから、債務を将来世代に繰り延べしてはいけないのだ。
この問題を考えるときには、政府債務の本質を理解することが不可欠である。「政府債務は将来税収の前借り」である。前借りである限り、消えてなくなることはない。ある ものをないものしようとすれば、大きなしっぺ返しを受ける。日銀が引き受けさえすれば、いくら国債を発行しても良いと考えれば、必ず日本の経済社会は大きな打撃を受ける。
いくら国債を発行してもよいなら、そもそも税を納める必要もないではないか。劣等生安倍晋三にはこの議論を理解するのは難しいだろう。 暴論を平気で声高に叫ぶ安倍晋三は、社会の害悪である。劣等生政治家や高級官僚の「ごっつあん仕事」に支配されている限り、日本の経済社会の浮揚はない。
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