唯一の戦争被爆国である日本政府、具体的には安倍政権と外務省の核兵器廃絶をめざす国際的努力は、際立って後退した。日本政府は米国はじめ核保有国に対しては抑止力として核戦力を認め、北朝鮮の核開発を最大限に非難しながら、実際には米国に対する抑止力としての口実を与え、応援しているのだ。麻生太郎副総理兼財務相は、自民党が選挙で勝利した理由について「北朝鮮のおかげ」と発言したが、事実、安倍政権は選挙中、北朝鮮の脅威を激しく非難し「自民党は国民を守る」と選挙演説の冒頭に掲げて、北朝鮮を最大限に利用した。
ヒロシマとナガサキでの原爆投下で、20万人を超える即死者と現在に至る莫大な原爆症被害者を出した日本は、世界のどの国よりも、米国をはじめとする核保有国の巨大な核戦力の廃絶を目指し、縮小を求める権利と義務を持っている。にもかかわらず、核兵器の禁止を目指して9月、国連加盟国(193か国)の多数(122か国)が賛成して採択され、来年には国際条約として発効する見込みの国連核兵器禁止条約交渉には参加もしなかった。同条約の成立に対して今年度ノーベル平和賞授賞が決まった。しかし、日本政府は同条約交渉には米国はじめ核保有国が参加していないことなどを条約不参加の理由とし、日本は米国の“核抑止力”によって守られているという立場を崩さなかった。
だが、日本が米国の核抑止力に依存しているのなら、北朝鮮が核開発を進め、核抑止力を持つことを、どう非難できるのか。それとも、中国あるいはロシアと同盟し、核の傘に入れてもらえというのか。
日本が米国の核抑止力に依存しており、米国が国連核兵器禁止条約に反対し、無視しているとしても、唯一の戦争核被爆国日本が同条約に参加することまで、トランプ政権が阻止することはできないだろう。不参加は、安倍政権と外務省の卑屈な対米姿勢のせいだと思う。
同条約とは別に、日本が24年連続して国連第一委員会(軍縮・安全保障)に提案し可決されてきた核兵器廃絶決議案の案文が今年、大幅に後退した。すでに条約として成立に向かっている核兵器禁止条約は無視し、昨年まであった「核兵器の完全な廃絶を達成」から「を達成」が削られ、「核兵器のあらゆる使用による壊滅的な人道的結末についての深い懸念」から「あらゆる」が削除された。「あらゆる」の削除は、北朝鮮への核攻撃の可能性を考慮しているためではないか、とも見られた。このため、オーストリア、ニュージーランド、ブラジルなど27か国が棄権し、決議に賛成投票した国は昨年より23か国減って、144か国になった。この経過については、日本のメディアは詳しく報道した。政府側の説明は粗末な言い訳に終始した。唯一の戦争被爆国の権利と責任の放棄だ。(了)
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