「メール通信 昔あったづもな」第10号
今回は、昔でなく、今起きていることについて報告します。沖縄県の竹富島の教育委員会が、中学の公民教科書の採択をめぐって文科省から攻撃されているのです。
沖縄本島のはるか南、八重山諸島の石垣市、与那国町、竹富町で形成する教科書採択地区の協議会は、三年前、中学の公民教科書に育鵬社版を答申した。しかし、竹富町教育委員会はこの協議会の運営に疑義を唱え、独自に東京書籍版を選んだ。育鵬社版は国家主義そのものの教科書で、良識ある教師ならとても採用することのできないものである。しかし、採択地区の定めに反するとして、国の教科書無償配布の対象から除外された。現在は地元有志による募金によって、生徒への教科書無償配布が実行されている。
地方教育行政法は市町村に教科書の採択権を認めているので、竹富町はその権利を行使したのである。ところが、教科書無償措置法では、採択地区単位で教科書を一本化することを定めているので、文科省はそれを根拠に竹富町教育委員会の違法行為を責めるのである。この混乱の元凶は二つの法律の矛盾にあることは明らかである。文科省はその矛盾を放置したまま、最近、竹富町教育委員会に対して是正要求を直接発令した。これはまさに、国家権力の教育現場への介入である。こんなことを国民は許すべきではない。これは、戦争中の国民学校教育へ一直線に戻る道である。
文科省は今国会に、採択地区を「市郡」から「市町村」へと小規模にする改正案を提出した。ならば、竹富町の判断を尊重する方向へと流れを変えてもいいはずである。
だが文科省にはここでどうしても譲れない理由がある、と私は見る。下村文科大臣は、育鵬社の教科書をどうしても使わせたいのである。
それは「新しい歴史教科書を作る会」の流れをくむ国家主義的な教科書だからである。「新しい歴史教科書を作る会」は、戦後の歴史教育は自虐観にもとづいているとして、日本の歴史教育を立て直さなければならないと主張する国家主義思想の集団である。複雑な内部紛争を繰り返した挙句、分裂して、その有力メンバーが育鵬社という出版社を立ち上げたのである。一連の流れの中では、「教育再生機構」という組織も作られた。安倍首相と下村文科大臣はこのグループと極めて近い関係にある人物である。
安倍首相は直接口を出さないが、下村文科大臣はここで何としても育鵬社の歴史教科書を採択させたいのである。これこそまさに、政治の教育支配である。日本の南端の小さな島で強引に支配しようとしている。ぼくは那覇と石垣島でも昔ばなし大学を開講しているので定期的に飛んでいくし、抗議集会にも参加させてもらったことがあるのだが、現地の人たちは激しく怒っている。決して負けない覚悟で戦っている。
育鵬社版はほとんど戦争中の教科書の様相で日本の歴史を教えている。あの無謀な戦争で筆舌に尽くしがたい苦しみを受けた沖縄の人たちが受け入れることのできない教科書である。竹富町の町長、教育委員会そして町の人たちは一歩もひこうとしていない。ここで敗れたら育鵬社版がどんどん全国にのしていく危険性がある。どうか、全国の人たちからの激励や応援をお願いしたい。(2014/03/24)
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