◆2013.2.15 東アジアが、緊迫しています。尖閣列島をめぐる日中対立、日本の海上自衛隊護衛艦と中国海軍艦船の一触即発の海上危機に続いて、北朝鮮の核実験です。それに対する韓国政府の対応も不気味です。韓国政府内で出てきた韓国自前の核武装の声を、任期終了間際の李明博大統領が「愛国的な考えで、高く評価する」と述べたというのです。韓国と日本の間の竹島問題も、まだ緊張したままです。世界がアフガニスタン、イラン、イラクやアルジェリアに注目している間に、日本とその周辺が、国際的な軍事的緊張の一つの焦点になってきました。そして、ロシアでは、人智の及び得ない宇宙からの超音速の流れ星、隕石の落下で大きな人的・物的被害です。ウラル地方チェリャビンスク州といえば、1957年9月に大規模な放射性廃棄物貯蔵庫爆発事故(ウラル核惨事)をおこしたところです、隕石が近くのマヤーク原子力プラントに落ちていたらと想像すると、ぞっとします。マヤークは、ロシアの使用済み核燃料再処理、プルトニウム処理の拠点ですから。宇宙からみれば、この小さな星の中で、イデオロギーやマネーをめぐって殺し合い、便利と豊かさを求めて禁断の原子力に手を出した人間たちは、なんと卑小な存在でしょうか。
◆もうお読みになった方も多いでしょう。クリストファー・ロイドの世界的ベストセラー『137億年の物語ーー宇宙が始まってから今日までの全歴史』(文藝春秋)で、「地球の生命を脅かす脅威トップ10」で第1位にあがっていたのが、「隕石の衝突」でした。6650万年前には、恐竜を絶滅させたのですから。それほど巨大な隕石でなくとも、人類が定住し人口が増えた分だけ、小さな隕石でも人間には大きな打撃となりうることを、1000人以上負傷のロシアの事例は示したことになります。ロイドは、「生命の脅威」第2位に、「人間による地球汚染」を挙げています。その理由に「世界に441か所ある原子力発電所の放射性廃棄物も、今後、数万年にわたって、有害な放射線を出し続ける」ことを挙げていますから、本日ロシアでは、生命にとっての2大脅威が重なる可能性があったのです。第3位「気候変動」以下「過剰人口」「森林破壊」と「脅威」は続き、第6位「多様性の喪失」「不平等」「病気」「飢饉」のあとに第10位「世界戦争」があります。20世紀を「戦争と革命の時代」とみたエリック・ホブズボーム流世界史・人間中心史観が矮小に見えるような、「母なる自然」と「ホモ・サピエンス」の関係です。
◆でも、隕石ほどではないからと、原発や不平等や戦争の「脅威」を、見逃すわけにはいきません。小さな島の領土問題など、宇宙史の中ではほんの一瞬のピン・ポイントとはいえ、いまを生きる私たちにとっては、中国・韓国・ロシアと日本、それに南北朝鮮の関係は深刻です。中国海軍のレーダー照射が本当に今回が初めてだったのか、中国政府のどのレベルが関与していたのかなど、情報開示が不十分なまま、両国とも国際社会へのプロパガンダに入ってしまいました。国際心理戦です。この点での日本のマスコミ報道は、なにやら大本営発表風です。北朝鮮の核実験は、アメリカ大統領一般教書演説にぶつけてきました。狙いは明確です。前日に米国・中国・ロシアには事前通告していました。日本はアメリカ経由でしか情報をとれません。日本政府がどんなに「日米同盟」を強調しても、アメリカの方は日本にすべてを伝えるわけではありません。北朝鮮情報はアメリカの方が持っており、しかも、この地域の情報戦の主役は、いまやアメリカと中国です。昨年9月、野田民主党政権がアメリカに「原発ゼロ」の目標を伝えにいったさい、「プルトニウムをどうするのか」と詰め寄られたのも、日本の原発が、東アジアの核問題と深く関わっているからです。
◆安倍内閣は、一方で「アベノミクス」なる円安・株高の景気回復の雰囲気づくりを先行させながら、憲法改正への条件作りをも着々と進めています。領土問題も北朝鮮の核にも、戦争をも辞さないといわんばかりの高姿勢です。東アジアでの軍事的緊張は、日本政府の集団的自衛権と「国防軍」への国内向け情報戦に最大限に利用され、地ならしに使われています。こういう時こそ、マスコミの報じない海外の眼に注意。国内なら沖縄など地方の新聞に目配りし、じっくり冷静に分析し、主体的に対処しましょう。3月1日から5月22日まで、早稲田大学演劇博物館で、『佐野碩と世界演劇―日本・ロシア・メキシコ “芸術は民衆のものだ”―』展が開かれます。そのオープニングの国際シンポジウム『佐野碩と世界演劇』が3月1−3日早稲田大学で開催され、私は3月2日午後「1930年代の世界と佐野碩」(重いpdfアップ済み)を講演します。一昨年桑野塾講演「亡命者佐野碩ーー震災後の東京からベルリン、モスクワへ」の増補改訂版になる予定。プロレタリア演劇に関心のある方、佐野碩の作詞した労働歌「インターナショナル」をお聞きになりたい方はどうぞ。
「加藤哲郎のネチズンカレッジ」から許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.ne/
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