問答無用で沖縄を切り捨てる独裁国家の姿があらわになってきた -辺野古新基地建設問題-

 今年2月26日、沖縄県は防衛局が辺野古移設に伴う海底ボーリング調査に際して投下したコンクリート製ブロックが、県が許可した区域外で珊瑚礁を損傷していることを現地調査で確認した。そこで翁長雄志(おなが・たけし)知事は知事の許可なく岩礁が破砕された可能性が高いと判断し、さらなる調査が必要として、3月23日、沖縄防衛局に対し移設作業を7日以内に停止するよう指示し、その指示に従わない場合は来週にも岩礁破砕許可を取り消す構えであると文書で伝えた。
 昨年8月に当時の仲井間弘多(なかいま・ひろかず)知事が出した埋め立て区域内の岩礁破砕許可書の中に、許可の条件として「公益上の事由により(知事が)指示する場合はその指示に従うこと」「付した条件に違反した場合は許可を取り消すことがある」という項目があり、翁長知事はこの項目を作業停止指示の根拠とした。
 これに対し菅義偉(すが・よしひで)官房長官は23日の記者会見で「現時点で中止する理由は認められない。粛々と進めたい」とつっぱねた。防衛省は、翁長知事の作業停止指示を「違法で無効だ。現在行っている作業を中止する理由はない」として、作業を続行している。

 今後の成り行きについてだが、沖縄県・防衛省・農林水産省などの間で交わされる法的な手続きを経ながら、裁判にまで発展していく可能性がある。沖縄県、防衛省の双方もその覚悟ができているようで、沖縄県対政府の真っ向対決の様相を呈してきた。

 私は、この問題を通して安倍内閣の極めて独裁的な国家像が鮮明になってきたことを危機感を持って受け止めている。確かに仲井真前知事は辺野古埋め立てを承認したが、彼の選挙公約は「普天間基地県外移設」だったのだ。当然のことながら県議会は彼の不信任案を可決した。それでも彼は辞めなかったばかりでなく、辺野古移設推進を掲げて次の知事選に立候補したのである。結果、彼は敗れ、辺野古移設賛成へ「転向」した4人の衆議院議員が選挙で全敗するというおまけまでついたのだった。
 だが、安倍内閣にとっては、そういう沖縄の民意は、一顧の値打ちもないようだ。とにかく無視することが最善の策なのだ。特に訪米を控えている安倍総理大臣にとって辺野古基地建設が順調にいっていることは必須条件である。その条件を満たすためには沖縄の民意などないものとするのが一番なのだ。上京してきた翁長知事に会うことなど夢にも思わない。
 憲法「改正」、富国強兵、列強国としての日本の国際的地位の獲得……安倍総理大臣の野望は際限がない。そして、その野望実現のために沖縄は切り捨てられる。

 今回の辺野古新基地建設問題については、朝日・毎日・読売・産経・東京の各新聞のほか、地方新聞も10社以上が一面トップで取り上げた。この全国的な関心の高さが、今後安倍政権の支持率や統一地方選挙にどう影響してくるかは分からない。ただ、今、日本の政治は野党も含めて民主主義や歴史に向き合う力を失い、国民もまたその流れに逆らうエネルギーを喪失しつつあるように思えてならない。権力者としてはこんないい条件など滅多にあるまい。

 最後に3月25日の琉球新報社会面に掲載された「識者談話」の記事の一部分を紹介する。
 
 権力分立は、立法、司法、行政という水平的な三権分立だけでなく、中央政府、都道府県、市町村という垂直的な三権分立がある。縦の三分の二が反対しているのに、中央政府が「粛々とやる」というのは独裁国家でしかあり得ない。<中略>かつての自民党政権においては、県民の合意が必要だという前提があった。今の安倍政権は、県民を統治の主体ではなく支配の客体とみて、地方自治体は政府の対等なパートナーではなく従属者と考えているとしか思えない。
 先日、安倍首相は国会答弁で自衛隊を「わが軍」と呼んだ。憲法9条の存在を黙殺するのみならず、長年の政府解釈をも否定する発言だが、国会議員はやじも飛ばさなかった。この危機的状況の中で沖縄が筋を通そうとしていることに、日本だけでなく、世界の心ある人々も注目している。
(水島朝穂・早大法学学術院教授)

 沖縄からのメッセージにぜひ耳を傾けていただきたい。

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
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