暴論珍説メモ(番外)
一昨26日、第2次安倍政権が成立5周年を迎えたそうである。民主党(当時)の野田政権が衆院選で惨敗して自民党に政権を奪い返された、あの思い出したくもない日からなすすべもなく5年もの時間が流れたのだ。
2009年9月16日、民主党の鳩山政権が誕生した時、それまでの第1次安倍政権から福田、麻生と続いた自民党内閣の相次ぐ閣僚の不祥事や年金問題の不始末の後だけに、長年の自民党政治はこれで終わり、2度と復活することはないだろうという甘い予測に喜んだのが、まるで別の惑星での出来事のようである。
そもそも安倍晋三なる政治家は父親(安倍晋太郎)の地盤を継いで出てきただけのボンボン代議士だったのが、奇策好みの小泉純一郎首相(当時)に取り立てられて官房副長官から一足飛びに自民党の幹事長に指名されて、有力政治家の列に加わったものの、「できる」とか「切れる」とかの評価とは縁のない存在だった。
そういう人物が2012年に自民党が政権党に復活した時に再び総裁の座にいて第二次内閣を組織したのには驚かされたが、それが5年も続き、いまや佐藤栄作、吉田茂に次いで戦後第3位の長期政権となり、万一、来年9月の自民党総裁選に勝てばなんと2021年までの超長期政権となる可能性があり、その場合は戦前の桂太郎内閣を抜いて、日本憲政史上の最長期政権となるという。
なんともため息しか出ないが、なぜ安倍晋三なのだろう。
勿論、自信のある回答は持ち合わせないのだが、結局のところ誰でもいいということではないのだろうか。これまで自民党総裁選で安倍と争った人たちを思い浮かべてみる。最初は確か谷垣貞一と麻生太郎だった。2回目は石破茂、小池百合子、石原伸晃、林芳正といった顔ぶれだったと思う。名前はなんとか思い出せても、誰がなにを主張したかは全く記憶にない。おそらく大同小異だったはずだ。
つまり誰にもこれぞという処方箋が書けない時代なのだ。少子化で国全体の活動量が右肩下がり、世界的にもつい最近までリーマン・ショックの影を背負っている停滞の時代だった。その中で成長戦略だのなんだのと言ってみたところで、絵にかいたモチに過ぎないことは誰の目にも明らかだった。
となると、防衛庁の防衛省への昇格、教育基本法の改定(第1次)、特定秘密保護法、安保関連法、テロ等準備罪新法(第2次)に見られる安倍の右寄り体質が、麻生副総理が喝破したように北朝鮮のこのところの緊張激化政策にも助けられて、確固たる一定量の支持を獲得し、それが「在任中5回の国政選挙に勝たせてもらった」(26日の安倍談話)という結果につながったと考えられる。
しかし、これだけでは話が単純すぎる。安倍政権を長続きさせているもう1つの重要な要素は野党だ。
今にして思えば、2009年の政権交代がすでにボタンの掛け違いではなかったか。あの選挙では、選挙ブローカーの小沢一郎一派を受け入れた民主党が300議席を超える大勝を博したのだが、その動力はようやく野党らしく成長したかに見えた民主党に期待をつないだ層と、あちこちで政党を作ったり壊したりしていた小沢の選挙テクニックに引きずられる層が、期せずして合体した結果発生した爆弾低気圧みたいなものではなかったか。
そんなエネルギーだったから、たちまち雲散霧消して、後に残ったのは小沢の権力欲に民主党の首相たちが次々と振り回される自民党以上に見苦しい内紛だけであった。そこには新政権らしいまとまったビジョンがないばかりか、政党としての最低限の必要条件である綱領もなかった。
民主党政権が政策面でわずかに人目を引いたのは「事業仕分け」と八ッ場ダムの建設中止であったが、前者は竜頭蛇尾、後者は元の木阿弥という結果に終わり、外交安保にいたっては自民党の政策をなぞるだけに終始した。
しかもこの3年間が安倍長期政権を生む土壌を用意した。烏合の衆の野党に政権を渡してもろくなことにはならない、というのが世間の常識になってしまった。その結果が、小選挙区制度が勝敗の幅を誇大化しているにせよ、とにかく自民党の連戦連勝、その中での安倍の比較優位が長期政権へとつながって今日に至っている。
その状況が今年は1つの極点に達した。自民党の方には変化はないが、野党が自壊した。衆院選を間近に控えて、解党して小池百合子の新党に合流して小池人気に便乗しようとした前原民進党がものの見事に空中分解した。今の日本に何が必要かを自分の頭で考えようとせず、有権者の揺れ動く好みになんとか迎合して、議員の数を揃え政権にありつきたいという民主党以来の「野党根性」がついに命脈つきたのである。
民進党は希望の党、立憲民主党、無所属、そして選挙のなかった参議院の民進党残党と4分した。しかし、この形はとても定着しそうにないから、まだまだついたり離れたりの論議が続くことだろう。しかし、そんな議論が不毛であることに、なぜ彼らは気づかないのだろうか。
前述したように、今は処方箋を書くのが難しい時代である。長期政権といったところで、安倍内閣の成長戦略は有名無実と化し、財政再建は遠のくばかり、働き方改革だのなんだのは言葉遊びの域をでず、それでも懲りずの教育無償化だのなんのと目先を変えることに汲々としているのが現状だ。森友、加計では安倍の友情利権の本当の姿を国民は共有した。
それでも世界経済がようやくリーマン・ショックからの立ち直りがはっきりして、日本も形ばかりの景気拡大がつづいているのは安倍にとっては幸運の女神だ。ついている男であることは残念ながら確かだ。
そんな安倍に野党はどう対抗するべきか。民主党時代に小沢一郎の背中に乗って政権がとれたからといって、小池百合子に乗ろうとした民進党の愚は指摘したが、それ以前に蓮舫を代表にしたのも正面からの論争を避けて、彼女の人気(があるとは思えないが)で選挙を戦おうとした同じ発想である。
そんな小細工は捨てて、正面から現代日本に取り組むべきだ。なにを主張すべきか。
私見を言わせてもらえば、日本に活気がないのは言うまでもなく少子高齢化で人口減少が続いているからである。人口は増える必要はないが、減少することはいろいろ弊害が出てくる。それを避けるためにはもう少し出生率を高めなければならない。それには若年層の所得を思い切って引き上げねばならない。
今の若い人は子供を産まないのではなく、多くは産めないのである。安倍は賃上げを自分の責任でやろうとせず、経団連に頼んだりしているが、国策として若年層への分配を増やすべきである。昨年の米大統領選で民主党のサンダースがクリントン相手に善戦したことを手本とすべきである。
次は化石燃料、原子力エネルギーから自然エネルギーへの転換を目標として明確に打ち出すべきである。どう進めるか、いつまでにどの程度まで進めるか、は議論の分かれるところだが、とにかく最低限の目標は明確にして、賛同しない人間は取り込まない決意が必要である。
安全保障も憲法と関連して厄介である。とくに北朝鮮の挑発政策が続いている現状では、とかく強硬路線に人気が集まるのはやむを得ない。安倍政権はここぞチャンスとばかりに憲法改正・自衛隊合憲明示に向かって直進するだろう。
野党はどうするべきか。日本は過去において、戦力と自衛力(防衛力)を分ける知恵を生み出した。この使い分けは便宜的であることは否めないが、侵略の歴史への反省と不戦の誓いを忘れないために、あくまで憲法9条は残し、予算配分をGDPの1%以内に抑えることを条件として自衛力を整備することを明示してはどうだろうか。
すくなくともこの3点くらいは合意したうえで、ちゃんとした野党を作ってほしい。今いる顔ぶれをなるべく減らさずに、言葉の上で妥協点を探しながら、結局、まとまりのない組織となって風を求めてさまよう姿はもう見せて欲しくない。(171226)
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