国際社会からの孤立は、いつかきた道!

著者: 加藤哲郎 かとうてつろう : 一橋大学名誉教授・早稲田大学客員教授
タグ:

symbolnonuke2014.9.1  ひと月ぶりの更新です。しばらくアメリカ合衆国に滞在しました。ワシントンDCでの学術調査です。 10年も定点観測を続けていると、米国や日本の変化も実感できます。かつての勢いはありませんが、アメリカはなお安定した大国で、世界からエリートも底辺労働者も集まってきます。アジア系の人々は増えました。でも日本の姿は、影が薄くなりました。自動車は日本製が多いですが、テレビは韓国製が増えて、衣料品からiPhoneまで中国製商品があふれています。テレビや新聞で日本が話題になることは滅多にありません。もっともインターネットやSNSが普及して、自国に関心がある人々は自国語メディアで情報が得られますから、マスコミとウェブの棲み分けが進んでいるということでしょう。第一次世界大戦100年、クリミア・ウクライナやガザの戦火の中では、アジアそのものが後景に退きます。話題のフランス書の英訳700頁の大著、トマ・ピケティ『21世紀の資本論』が書店に平積みされるベストセラーで、駅の売店でも売られているのは、アメリカ社会の健全さの証しでしょうか、危機の現れでしょうか。もっとも電子ブックなら半額ですから、私は重い荷物はやめて、Kindle版にしました。政治や外交の世界では、ケント・カルダー『ワシントンの中のアジア』(中央公論新社)が述べる通り、中国・韓国のプレゼンスが高まる中で、日本の存在感は小さくなりました。この趨勢は、巻き返し困難でしょう。

◆日本のニュースは、日本語ウェブで、簡単に手に入ります。FacebookからTwitterまで、若者の動きも手に取るようにわかりますから、外国にいる感じはしません。もっとも、アメリカのホテルのネットは遅く、you tubeやdaily motion には、イライラしましたが。集団的自衛権問題のその後から、沖縄辺野古沖での新基地建設着工の企て、安倍内閣改造の動きまで、一応追いかけられましたが、外にいることで気になった情報が二つ。一つは、国際的にも科学者たちの中でも決着がついたはずのSTAP細胞問題。これがなぜか、政府や理研ばかりでなく、テレビのワイドショーやウェブでも「あるかないか」と論じられ続ける文化。これを曖昧にしておくことが、それでなくても地盤沈下した、日本の科学技術の国際的信頼性喪失につnihonsocialimながることが、なぜか自覚されていません。もう一つは、内戦続くシリアに潜入し「イスラム国」に拘束された「民間軍事会社」湯川遥菜なる人物の行方と、そのメディア報道、ウェブ上では、本人のブログ、田母神俊雄とのツーショットをはじめ、単なる「軍事オタク」ではなく、どこからか資金を得て戦場に入った諜報工作員の色彩濃厚ですが、なぜかマスコミでは、イラク戦争時の日本人ジャーナリストのようには、詳しく報じません。政府の対応も、問題を小さくするためかよく見えず、解放交渉や身代金があるはずですが、あまり報じられません。日本の一部勢力が、安倍内閣の特定秘密保護法、国家安全保障局成立、集団的自衛権閣議決定や武器輸出3原則放棄に 励まされて、すでに遠い中東の戦場でも蠢動を始めたことが、隠されようとしているかに見えます。 戦争は、こんなかたちで近づいています。

sorgecase◆そして、安倍首相以上に「軍事オタク」である石破現自民党幹事長が、安全保障法制担当相がらみで8月政局の焦点になり、結局別のかたちで入閣して、安倍内閣の長期化を支えることになりそうです。かつて、3・11福島原発事故後に。「原発を維持するということは、核兵器を作ろうと思えば一定期間のうちに作れるという『核の潜在的抑止力』になっている」「逆に言えば、原発をなくすということはその潜在的抑止力をも放棄することになる」と公言した人物が、どうやら、ポスト安倍の最有力候補になり、原発再稼働から核保有永続化への道を、推進することになりそうです。これも、国際社会の趨勢を無視した、日本への厳しい眼に対する挑戦です。

◆かつて中国では政治的理由から本サイトがブロックされ、今春サイバー攻撃を受けて、不正アクセス・ページ改ざんがあったと、イギリスの友人から連絡を受け、あわててリンクの一部を削除し、セキュリティを強化しました。アメリカからはどうかとチェックしたら、本サイトの方は、なんとか問題なくつながり、不正リンクも見つかりませんでした。ところが今度は、メールが数日間、つながらなくなりました。どこかから、私のアドレスを騙って数千通の大量の迷惑メールが送られ、帰国してプロバイダーに問い合わせると、送信のみ一時停止にしたといいます。ホームページでメルアドを公開していると、よくあることなそうですが、スパム(迷惑メール)送信業者に、悪用されたようです。既に対策をとりセキュリティを追加しましたが、私の名で悪質・迷惑メールが届いた皆様には、深くおわび申し上げます。法政大学『大原社会問題研究所雑誌』最新8月号で、「『国際歴史探偵』の20年ーー世界の歴史資料館から」を、発表しています。講演記録で読みやすいですし、『大原雑誌』はデジタルで読める日本では最先端の雑誌ですから、ぜひご参照ください。もっともその講演記録で、イギリス国立公文書館の略称を、「TNA(The National Archives)」ではなく「BA(British Archives)」 と表記してしまいました。訂正したpdfファイルを入れておきましたので、こちらからどうぞ。今夏の米国国立公文書館調査から、3月刊 『ゾルゲ事件ーー覆された神話』(平凡社新書)の延長上で解明すべき、新たな戦後冷戦期の問題が、出てきました。シベリア抑留帰還者に対する米軍尋問・対ソ諜報のなかから、1953年に「第二のゾルゲ事件」「戦後ゾルゲ諜報団」が、米国陸軍情報部によってフレームアップされ、「スパイ防止法」創設の根拠にされかけた形跡があり、いわゆるラストボロフ事件に、つながりそうです。東京大学出版会から工藤章・田嶋信雄編『戦後日独関係史』が刊行され、私も井関正久・中央大学教授と共著で「戦後日本の知識人とドイツ」を寄稿しています。ご笑覧ください。現代史料出版から、加藤哲郎編集・解説『CIA日本人ファイル』全12巻を編纂して、第一期6巻セットが発売されました。ぜひ図書館等にリクエストして、ご利用下さい。「第二のゾルゲ事件」は、まだ資料が未整理で解読できていませんから、今後の本サイトのお楽しみに。

 

初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye2752:140902〕