2018.10.15 14日昼のNHKニュースには、びっくりしました。すでに日本政府の造語であることがはっきりした「日米物品貿易協定(TAG)」が、トップニュースの見出しに出てきたのです。 9月26日の日米共同声明の正文は英語ですが、日本政府の発表した日本語訳と在日米国大使館の発表した日本語訳では、訳文が異なります。官僚出身の古賀茂明氏の丁寧な解説 や 、「しんぶん赤旗」10月13日に出ている比較表がわかりやすく、ペンス副大統領をはじめ米国側、米国メディアは、一様に二国間自由貿易協定(FTA)と了解しています。 それを、日本国内での農業者などの反発をさけるためか、内閣府がひねくりだした造語が「TAG」で、安倍首相が米国を含むTPPの挫折後「FTAは結ばない」と言ってきた政府答弁との整合性を得るため、また交渉中は自動車関税を棚上げにするために、世界の嗤いものになるJapanese Englishに頼ったのです。「敗戦」「撤退」を認めず「転戦」と言い続けた「大本営発表」の二の舞、醜態きわまれりです。 振り返れば、安倍首相とトランプ大統領の「オトモダチ」関係は、「緊密なパートナーシップ」どころか、一方的な忠犬の御用聞き。行く度に防衛省装備の高価な武器を買わされるばかりでなく、2017年2月の訪米ではトランプ支持の「ラスベガスのカジノ王」が同席し、カジノを含むIR整備法による米国ギャンブル資本の日本参入が約束されていました。そのくせ、沖縄の米軍基地移転問題では、知事選で示された県民の意向を汲んで米国側と交渉する気配をみせず、オスプレイが墜ちても、羽田空港増便の新飛行ルート計画が「横田空域」により拒否されても、日米地位協定改訂を打診する気配すらありません。同じ敗戦国ドイツやイタリアと比べても、主権を奪われた、というより自ら放棄した 、悲しい従属国家です。
日米安保条約を前提とする、世界的にも奇妙な安倍晋三のトランプ 政権への隷属は、トランプの側からすれば、当面の中間選挙と米中貿易戦争用に、自動車から為替まで「アメリカン・ファースト」のディールとポーズを続ける格好の材料です。安倍晋三の側からすれば、日米同盟は、防衛力増強、憲法改正にも不可欠な後ろ盾です。 これを「美しいニッポン」、天皇崇拝、靖国神社公式参拝、家父長制的家族主義維持など支持組織・日本会議や神道政治連盟の強固なナショナリズムの主張と折り合わせ、とりわけマスメディアとネット言論を制御し統制することで、「忍びよるファシズムへの道」を着々と拓いてきました。第4次安倍内閣の顔ぶれも、失言・暴言・スキャンダル候補満載の、右翼「オトモダチ」内閣になりました。もともと世論調査で40%以上を保持する安倍内閣支持層の支持理由は、主に「他に適当な人がいない」という消極的なもので、 「アベノミクス」が景気回復・賃金上昇につながったと実感できるようになる期待を、前提にしていました。 この「アベノミクス」自体が政府の造語・和製英語で、国際会議で堂々と発言できるものではありません。
その延長上で、もうひとつの和製英語、「Society 5.0」という一見英語風造語が、いまや政府の将来計画の中核にすわっています。「狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもの」で、2016年からの「第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱され」、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」と謳われています。もともと経産省主導でしたが、すでに国策となり、そこに集中的に予算が投入され、経団連から個別企業、文科省の科学技術政策、東大総長の指針にも入り込んでいます。その前提とされる「第4次産業革命」(こちらはグローバリズムの総本山、ダボス会議=世界経済フォーラムWEFの提唱)と は、「18世紀末以降の水力や蒸気機関による工場の機械化である第1次産業革命、20世紀初頭の分業に基づく電力を用いた大量生産である第2次産業革命、1970年代初頭からの電子工学や情報技術を用いた一層のオートメーション化である第3次産業革命に続く」もので、①IoT(Internet of Thingsの略、あらゆるモノがインターネットに接続される世界)、② ビッグデータ(大量・多種多様・高頻度といった特徴をもつデータ)、③ AI(Artificial Intelligenceの略、人工的に作られた人間のような知能)、④ ロボット(センサー、知能・制御系、駆動系の3つの要素技術を有する知能化した機械システム)が登場し、最近テレビや日経新聞等でよくみかけるものです。少子高齢化社会対策や新交通システムなどバラ色の「スマート社会」がデザインされていますが、ちょっと立ち止まるとわかるのは、これらはすべて最新の軍事技術への応用が可能な、いわゆる「デュアル・ユース技術(軍民両用技術)」で、産学協同ばかりでなく軍学協同に容易につながる危険を秘めたものです。
今年のノーベル医学生理学賞の、京都大学・本庶佑教授受賞が発表されました。その本庶教授が受賞決定直後から訴えたのは、21世紀日本の「基礎研究」予算の決定的不足でした。「安倍政権で研究費ジリ貧 日本からノーベル賞が出なくなる」という危機感は、2016年ノーベル医学生理学賞受賞者大隅良典さんが嘆いた若手研究者の厳しい研究環境と共通し、2008年物理学賞受賞者益川敏英さんが繰り返し強調する「科学の軍事化の危機」です。「第4次産業革命」「Society 5.0」への応用研究の集中は、今春私の警告した社会科学・人文科学の軽視、科学者・技術者・学生たちの戦争動員への道にもつながります。「バラ色の未来」の陰にある、ナショナリズム、格差拡大、 キナ臭い意図にも、目を向ける必要があります。
私自身は、「科学技術の軍事化」の危機感から、731部隊の細菌戦と人体実験を引き続き追いかけ、旧優生保護法の強制不妊手術の問題につなぐ回路を、西山勝夫編・731部隊『留守名簿』(不二出版)の「長友浪男」軍医少佐の解読から見つけました。10月の明治大学アカデミー連続市民講座「731部隊と現代科学の軍事化」 から、11月17日(土)の八王子講演、12月16日(日)戦医研例会・東京大学講演 などで問題提起する予定です。11月10日(土)多磨霊園でのゾルゲ・尾崎墓前祭・記念講演では、「太田耐造関係文書」と毎日新聞スクープ「ゾルゲ事件の報道統制」について話す予定です。 いずれも公開ですから、ご関心の向きはどうぞ。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
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