大規模金融緩和政策を検討する(その4) 就業人口増加の実態

 アベノミクスをヨイショしてきたエコノミスト、「学者」、政治家がこの政策の成果として強調したのが、就業人口の拡大とそれに伴うGDPの増加である。大規模金融緩和の10年で、就業人口は400万人も増え、それに比例してGDPも増えた。これが大規模金融緩和政策のほとんど唯一とも言える「成果」だが、この成果の内容を分析すると、アベノヨイショの自賛とは正反対の事実が明らかになる。

生産年齢人口の絶対的減少と就業者(労働力人口)の増加
 日本社会はすでに高齢者社会に突入しており、生産年齢(15歳~65歳)人口は絶対的減少の時代に入っている。2000年以降、およそ20年間で、生産年齢人口は8,600万人から1,000万人以上も減少している。ところが、大規模金融緩和政策が実行に入った2013年から、就業者は6280万人から6,667万人(2023年2月)へと400万人の増加となっている。これはリフレ派が強調するアベノミクスの成果なのだろうか。
 

 
 生産年齢人口が絶対的に減少する中、就業者人口が増えるという逆転現象はどのように生じたのだろうか。いったいどのような就業者増が観察できるのだろうか。
 2012年は団塊世代が65歳に到達した年である。ここから65歳以上の男女の就業者が増大し、およそ10年間で300万人の増加を見た。さらに、女性の就業率は2012年の60.7%から70%超へとおよそ10%(実数で200万人強)の増加を見た。つまり、アベノミクスの効果とされた就業者400万人強の増加の中身は、65歳以上の高齢の就業者と女性の就業者の増加だったのである。これは経済成長の成果というより、世帯の生活水準維持のための就業者増とみるべきもので、アベノミクスの成果と強調するには、あまりに寂しい内容である。

実質的な雇用増は金融保険・不動産業
 アベノミクスによる就業者の増加の内容はきわめて貧しいものだが、唯一、実質的な就業者増を実現した産業部門がある。それが金融保険・不動産業である。
 以下の表から分かるように、アベノミクス10年が経過した段階で、第一次産業も第二次産業も就業者は増えていない。第二次産業の就業者数は高度成長の初期段階(1966年前後)の規模にまで縮小している。増えているのは第三次産業で、その多くは各種サーヴィス業である。生活水準維持のために、高齢者の定年延長雇用や女性のパートタイム就業の増加を反映したものだ。
 

産業別就業者(単位:万人)

 
注:最終列は,三次産業のうち,「金融保険・不動産業」を別掲したもの.
       出所:労働政策研究・研修機構統計情報(2023年5月18日月8日更新)
 
 そのなかで、金融保険・不動産業の就業者だけは、実質40万人の増加を見ている。大規模金融緩和による資産バブルを反映した就業者の増加である。
 こうしてみると、アベノミクスと呼ばれる巨額の資金を供給した大規模金融緩和政策は資産バブルを惹き起こしたが、まったく日本の産業を発展させる原動力にはならなかった。労働力人口が絶対的に減少するという日本経済の歴史時代の中で、歴史の流れに抗う政策には効果はなかったというべきだろう。高齢期を迎えた日本経済に、強力な強精剤を大量に摂取させても、若い肉体を回復することにならないということだ。それどころか、無駄に将来世代への債務を積み上げ、財政健全化がほぼ不可能な状況をもたらすだけに終わった。にもかかわらず、今もなお、失敗が証明された政策が惰性的に維持され続けている。アベノミクスが嵌った無間地獄の罠からの脱却は簡単ではない。故安倍首相のみならず、アベノヨイショの御仁たちの罪は深い。
                                               「ブダペスト通信」(2023年7月1日)
 
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〔study1265:230706〕