米中枢同時多発テロ事件記念日の11日夜、米国で制作されたイスラム教の預言者ムハンマドを冒涜する映画に抗議するデモが、エジプト・カイロの米大使館に押し寄せ、一部が塀を乗り越え、壁から米国旗を引きずり降ろした。さらにリビア第2の都市ベンガジでは、武装集団が米領事館を襲撃して、大使以下4人を殺害した。リビアの事件は、以前から地元の武装集団が計画していた疑いが強いが、反イスラム映画に抗議する反米デモは、イスラム世界にたちまち拡がっている。
この英語版の映画「イノセンス・オブ・ムスリムズ(イスラム教徒のお人好し)」の13分の予告編は、「カリフォルニア州に住む、コプト教徒のエジプト人」が制作し、動画サイト・ユーチューブに投稿された、と伝えられた。コプト教は古くからエジプトに根付いたキリスト教の一派で、エジプトでは人口の約10%を占める少数派。多数を占めるイスラム教徒から迫害を受けた歴史がある。イスラム組織ムスリム同胞団出身のムルシ大統領の新政権が発足したばかりのエジプトで、新たな宗派抗争が発生することも懸念された。
ところが、この映画を制作したのは、コプト教徒ではなく、自己紹介によるとカリフォルニア州在住のイスラエル系ユダヤ人(米・イスラエル二重国籍)のサム・バシールで、52歳の開発業者だった。2010年にイスラムの聖典コーランを焼却すると宣言して、イスラム教徒の激しい抗議を引き起こしたフロリダ州のテリー・ジョーンズ牧師が関わり、100人のユダヤ教徒が五百万ドルの制作費を出したと、バシールは米紙ウオールストリート・ジャーナルの取材に語っている。AP通信も確認取材している。取材の電話でバシールは「イスラムはがんだ。終末だ」を重々しい声で繰り返した。それ以後、姿を消し連絡がとれなくなったという。
エジプトの有力紙アルアハラムによると、このアラビア語のナレーション付きの2時間の映画の内容は、ムハンマドをペテン師と呼び、女好きで、子供とのセックスを許したという嘘をはじめ、ムハンマドを貶める、さまざまな虚偽が次々と登場し、イスラム教徒の怒りを掻き立てるように作られているという。
バシールは、映画は完成後、今年はじめにハリウッドの小さな映画館で上映され、観客はほとんどいなかったと語っているが、上映は確認されていない。この映画の存在を知り、広めたのがワシントンに住むコプト教徒のエジプト人、モリス・サディクだった。テリー・ジョーンズ牧師が11日に開くイベントの案内メールを6日、全世界のジャーナリスト数百人に送った際、このメールに、ユーチューブに載せた「イノセンス・オブ・ムスリムズ」英語予告篇へのリンクを張ったのだという。
以上のように報道された経過は、恐らく事実だとおもう。だが、この経過を、米国の強大なユダヤ・ロビー団体が知らなかったはずはないし、イスラエルの海外スパイ機関モサドが背後にいる気配が感じられる。
米国は大統領選の終盤。ロムニー共和党候補が、オバマ大統領を、イスラエルへの支持・支援が足りないと攻撃し、オバマはアラブ寄り、イスラム寄りだといわんばかりのキャンペーンを強めている。この大統領選挙も「イノセンス・オブ・ムスリムズ」の背後にありそうだ。
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