菅首相は早くも、“衣の下に隠した鎧”をあらわにした。首相が最終的な承認を行う日本学術会議推薦の新会員105人のうち、6人の任命を拒否したのだ。政府が推薦された候補者を拒否したことは初めて。学術会議を所管する総理府、あるいは文科省の担当者が、平和憲法と学問研究の自由を重視する同会議に反感を抱き、菅首相が就任したばかりで、重要要件でも各省任せにしていることを好機として、新会員任命を拒否させた可能性もある。
日本学術会議は、会員は人文・社会科学、生命科学、理学・工学全分野からの210人、連携会員は約2,000人。会員は3年ごとに半数が入れ替わる。
同会議は2日、総会を開き、管首相に対し、理由の説明と、改めてこの6人を任命するよう、要望書を出すことを決めた。これに対し菅首相は、記者団に「法に基づいて適切に対応した結果だ」と答え、加藤官房長官は記者会見で「政府としての判断だ。判断を変えることはない」と突っぱねた。
同総会で新会長に選ばれた梶田隆章・東京大宇宙線研究所長(ノーベル賞受賞者)は「なるべく早く要望書を(首相に)届けたい。学術界の考えを幅広くお伝えしたい」と語った。
また法律専門家からは「きわめて遺憾だと強く言うべきだ」「任命拒否は国会答弁とも矛盾し違法状態ではないか」など厳しい発言が続出した。
日本学術会議は、科学が戦争に利用された教訓を踏まえ、科学が平和・文化国家の基礎であるという確信の下、行政、産業及び国民生活に科学を反映,浸透させることを目的として、昭和24年(1949年)1月、内閣総理大臣の所管の下、政府から独立して職務を行う「特別の機関」として設立された。
発足翌年の50年と67年には「軍事目的の科学研究は行わない」とする声明を出し、3年前にもそれらを継承する見解をまとめた。安倍政権に対しては、前会長の山際寿一京大前総長、新会長の梶田隆章所長(東大教授)らが、科学技術政策に批判的な姿勢を示したこともあり、自民党内には不満があったという。
日本学術会議の職務は次の二つ。
1、科学に関する重要事項を審議し、その実現を図る
2、科学に関する研究の連絡を図り、その能率を向上させる
具体的には
1、政府に対する政策提言
2、国際的な活動
3、科学者間のネットワーク
4、科学の役割についての世論啓発
今回、同会議から新会員に推薦され、菅政権から任命を拒否された6人は次の通りー
芦名定道・京都大教授(宗教学)
宇野重規・東京大教授(政治思想史)
岡田正則・早稲田大教授(行政法学)
小沢隆一・東京慈恵会医科大教授(憲法学)
加藤陽子・東京大教授(日本近代史)
松宮孝明・立命館大教授(刑事法学)
2日以来、このニュースを報道した各紙は、東京新聞が1面トップ、朝日、毎日が1面肩の大見出しで報じ、別面でも解説など大きく報じたが、読売は第3社会面2段、サンケイは2総合面2段だった。朝日新聞各面の見出しは2日「首相、学術会議の6人任命せず」「6人除外 首相『法に基づく』」、3日「野党、『法解釈変更か』追求」「政治と学問の関係脅かす」「憲法上疑義」(野党が国会内で開いたヒアリング3氏の発言)、社説「学術会議人事―学問自由脅かす暴挙。
(了)
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
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〔opinion10166:201005〕