安倍政治を演出する日本版戦争広告代理店?!

著者: 加藤哲郎 かとうてつろう : 一橋大学名誉教授・早稲田大学客員教授
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かと 2016.5.15 気象庁HPの記録を見ると、5月になっても熊本では、ほぼ毎日震度3以上の地震が続いているようです。昨14日にも、震度3以上が2回、いまなお避難生活を送る1万人の人々の不安は、いかばかりでしょう。住宅被害が8万戸以上なのに仮設住宅は千戸が着工したばかり。農林水産業の被害は1300億円以上、どこかで聞いたことのある金額だと思ったら、例の新国立競技場建設の当初予算額でした。熊本・大分の断層から中央構造線に沿った延長上にある川内原発が一時停止もせず、伊方原発を再稼働しようとする安倍内閣・原子力規制委員会の無責任、「原子力村」の「安全神話」継続には驚かされますが、本間龍さん『原発プロパガンダ』(岩波新書)を読んで、納得できました。 「原子力村」にとって「安全神話」は存立根拠の一つであり、スリーマイル島やチェルノブイリの事故が起こるたびに、論理を修正して原発必要論を説き、巨額の広告宣伝費が投じられて肥大化してきました。5年前の福島原発第一事故後も、「エコノミーベストミックス」に論拠をおいて、再稼働を推進し復活させようとしているのです。

かと 本間さんの研究は、原発推進広告の歴史的展開を、地方紙を含めた新聞ごとの電力会社等の広告段数や宣伝手法まで具体的に分析して有益ですが、その中核にあるのが、巨大広告代理店、電通です。本間さんは、「電博」とよばれる第二の広告代理店・博報堂出身で、原発広告の作り方・出し方にも精通していますから、説得力があります。「原子力村」の電力企業・メディア・立地自治体の結節点に広告代理店をおき、クローズアップした点が出色です。you tubeでの対談では、その電通が、自民党政治家の子弟が二世・三世議員になる前の腰掛け就職先だとも述べています。どうも、原発再稼働に限らず、現在の安部晋三政治の陰で、かつて高木徹さんが明らかにした戦争広告代理店の日本版が形成され蠢いており、改憲から対外戦争への道をも演出しプロパガンダしている形跡がみられます。

かと その一つが、いまや世界を揺るがしているICIJパナマ文書に出てくると、日本のネット上で話題の「DENTSU SECURITIES INC」(英領バージン諸島)の話。朝日新聞は、電通とは関係なく「風評被害」という電通広報担当の話をそのまま報じていますが、なにしろ電通広告に大きく依存した大新聞の報道ですから、説得力に欠けます。もう一つの「NHK GLOBAL INC」(パナマ)と共に、徹底的に調べた調査報道を期待します。多くの読者は、たんに電通(やNHK等々)が税金逃れにタックスヘイブンを使っているのではないかという疑問ばかりではなく、そもそも日本関係で有力政治家の名前や巨額脱税・節税事例が出てこないこと自体に、メディアの電通依存による調査自粛と報道自主規制があるのではと疑っているのですから。名前の挙がった加藤康子内閣官房参与の件も、追及不十分です。加藤勝信一億総活躍相の義姉ユネスコ世界遺産の「明治日本の産業革命遺産」登録を推進した安倍首相のオトモダチの一人で、従軍慰安婦や南京大虐殺問題でも暗躍する対ユネスコ・中韓情報戦担当のようですから。

かと 日本のパナマ文書報道を半信半疑にする事例が、東京オリンピックに関わって、出てきました。開催主体である舛添要一東京都知事の高額海外出張・公用車私物化や政治資金・公金私消も大問題で、早くも7月衆参同時選挙と一緒の東京都知事再選挙の可能性まで永田町では流れていますが、電通が関わるのは、もっと大きな問題です。「2020年東京オリンピックの招致委員会から国際オリンピック委員会(IOC)関係者に多額の現金が渡ったとされる問題で、フランス検察当局が金銭授受を確認した」というニュースJOC会長も、シンガポールのコンサルタント会社「ブラックタイディングス」への二億二千万円以上の振り込みを認め「当時の事務局で招致を勝ち取るには必要な額」と弁明しています。日本の大新聞報道に出てこないのは、これを世界に配信した英紙『ガーディアン』原文に、金の流れを示した右のにまでちゃんとDentsu と名前の出ている「Athlete Management and Services(AMS), a Dentsu Sport subsidiary based in Lucerne, Switzerland」の話。『ガーディアン』紙記者による電通広報部取材とその否定談話もでてきますから、報じてもよさそうなのに、大新聞やテレビは報じません。だからこそ、パナマ文書報道も疑われるのです。国境なき記者団の「報道の自由度ランキング」で2010年の11位から先進国最悪の72位に転落したのもむべなるかな。リオオリンピックを目前にしたブラジル政治の混迷は、他人事ではありません。報道・言論の自由の萎縮と劣化にともなって、日本会議を裏方にした安倍政治も、電通に従属したメディアも劣化して、日本の政治は、市民の批判と抵抗が弱まると、危機的局面に入ります。

初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://members.jcom.home.ne.jp/tekato/home.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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