「イスラム国(IS)」が日本人二人を人質にし、虐殺した事件への政府の対応を検証した委員会が21日に公表した報告書。「政府の判断や措置に人質救出の可能性を損ねるような誤りがあったとは言えない」と結論した。初めから、政府支持の結論が決まっているような人選で固める委員会や審議会を作り、その報告書を政策ゴリ押しの武器にする、安倍政権の手法をまた裏書きした内容だった。
最も肝心なことは、外務省関係者も反対していた、この時期の中東(エジプト、イスラエル。パレスチナにも立ち寄り)訪問を首相が押し通し、カイロでの演説ではISに利用される文言をわざわざ入れたことを、まず厳しく批判すべきなのに、報告書では、「日本の対中東外交や人道支援を止めればテロに屈することになるとの考えから中東訪問を決めたのは適切」と容認した。
同演説で「ISILと戦う各国に総額で2億ドル程度の支援を約束する」と発言したことについては「過激主義と直面する穏健イスラム諸国を、国際社会の一員として支援していくメッセージ」と評価した。
エジプトのシーシ政権は、昨年6月30日のクーデターで政権を奪い、前政権のモルシ大統領以下、当時の与党ムスリム同胞団関係者数千人を逮捕・投獄。裁判所がモルシ氏をはじめ百人以上に死刑判決を下し、国連、民主主義諸国から厳しく批判されてきた。一方、イスラエルのネタニヤフ政権は、昨年夏のガザ攻撃で、パレスチナ一般市民2千人以上を虐殺し、数千の住宅を破壊し国連、国際世論から最も厳しく非難された。それらの国を公式訪問し、重要スピーチまですることそのものが、その国の政権を重視し、支持を示すことは、国際的常識ではないか。
安倍首相にはそんな国際的常識をもっていないのだろうか。シーシだとか、ネタニヤフだとか、プーチンだとか、人権意識が欠如し、一般市民を平気で殺す国家の指導者が好みなのだろうか。
「ISILと戦う各国に2億ドル・・・」発言は、いかにも、わざわざ「ISIL」(「イスラム国」の旧名)を付け加えた感じで、ISは日本に対する敵意の理由づけに引用した。「イスラム国」を非難するのなら、正々堂々と、無関係な人間を人質にし、殺害するテロに対する日本の一貫した立場を表明し、シリアやイラクでの膨大な難民を支援する国への援助を改めで確約するべきだった。しかも、この戦後世界で最大規模の難民を生みだした罪は、当然ISも犯しているが、シリアではアサド独裁政権が最大の罪を犯している。
レバノンをはじめ、膨大な難民を支えている中東諸国は、ISと直接戦っていなくても、シリアとイラクでの内戦そのものと必死に戦っているのだ。
安倍首相のエジプト、イスラエル訪問がなく、カイロ演説の「ISILと戦う国・・・」の発言もなければ、湯川さん、後藤さんがあの時点で虐殺されることはなく、交渉は長引き、いつか交渉局面が変わってISが解放するか、あるいは米軍などの人質解放作戦で解放される可能性はゼロではなかった。
もちろん、人質解放のためフランスのように身代金を私的に払うのには、賛成しない。しかし、凶悪なISであっても、交渉が続いている限り人質は殺していない。
今回の湯川さん、後藤さん解放のための交渉で、交渉ルートを持たない日本政府がヨルダン政府を頼ったことはやむを得ないと思う。だが、そのヨルダン政府が、交渉の最終段階では、ISが拘留しているルダン空軍パイロットとヨルダンが拘留しているISの前身組織の女性指導者との人質交換交渉に、事実上なってしまい、結局失敗に終わった。アラブ・イスラムの世界では、長い歴史を通して、戦争・紛争での捕虜・人質の交換交渉は当たり前で、交渉が断絶するまで、人質は殺さない。ISもその常識は備えているはず。なぜ失敗したのか、検証委員会が説明できない、していないことは、多くあると思う。
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