安倍首相の買収選挙を許すな!「臨時福祉給付金」を葬れ

暴論珍説メモ(141)

 またか!しかも去年より露骨だな!と唸ってしまった。まったく安倍晋三というご仁にはかなわない。
 18日の臨時閣議で決まった本年度の補正予算に「低所得年金受給者への給付金」として3624億円が決まった。補正予算総額は3兆3213億円だから、その1割以上を占める。ここで言う「低所得年金受給者」とは住民税が非課税(つまり所得が低い)の年金受給者(つまり65歳以上の老人)である。その数約1250万人。
 「なんのために、いくら」給付するのか?臨時福祉給付金として1人3万円だそうである。菅官房長官は16日に記者会見で「アベノミクスによる賃金引上げの恩恵が及びにくい高齢者の所得底上げを図るため」と説明した。
 低所得者に限らず、様々な理由で安定した生活が送れない人々に政治が目配りをしなければならないのは当然だが、それはあくまで行政のありかたを通じて行われるべきもので、いきなり所得が低い人に現金を配るというのは政治としてまっとうではない。
 さすがにこれが決まるまでには自民党内でも多くの反対意見が出された。16日の自民党政調厚生労働部会などの合同会議では、先に農林部会長に就いて安倍政権の広告塔の一翼を担ったと目される小泉進次郎議員らも反対意見を述べた。反対意見としては、高齢者ばかりを優遇しては若い世代の反発を買う、ばらまきイメージが広がることはよくない、といった声が上がったということだが、首相官邸からのトップダウンでこの案が急浮上したことへの反発もあったとされる。
 そこで党首脳部は決定を翌日に延期して、17日の合同部会には加藤勝信1億総活躍相、稲田朋美政調会長が出席して、「真に必要な人に社会保障が届く改革を検討する場を設ける」と説得、ようやく了承にこぎつけた。
 最近の「政高党低」がきつい政治気圧配置では、官邸の独断専行に自民党はほとんど抵抗できないから、結果はやむをえないが、それでも抵抗の構えを見せたのは、この案のあまりに露骨な狙いにさすがの自民党議員も気がさしたものであろう。
 つい昨年末の総選挙をお忘れではあるまいが、あの時、「なぜ今、選挙をするのか」について安倍首相はこう言った。
「今年(14年)4月の8%への消費税引き上げに続いて、来年(15年)10月からさらに2%引き上ることが決まっているが、それを1年半先延ばしすることについて、国民の了承をえたい」
つまり「増税を延期してもいいですか?」と聞きたい、と言ったのだ。増税延期に賛成なら自民党に投票しろと。こんなことを選挙の争点にするとは聞いたことがない。こう聞かれて「だめだ、予定通り増税しろ」と言う人はまずごく少数だろう。あからさまな利益誘導選挙運動だった。その結果が自民党議席292という現在の衆議院だ。
次の国政選挙は来年夏の参議院選挙(場合によっては衆参同日選挙となる可能性も)だ。安倍政権はこの選挙で参議院でも改憲勢力を3分2以上に伸ばし、一気に憲法改正への道に進む野心を隠していない。そこでこの現ナマ配りの手に打って出たのだ。
給付対象の1250万という数字の意味を考えてみよう。現在、わが国の有権者総数は1億400万人くらい。昨年末の総選挙の総投票数は5713万8000票であった。1250万という数字はこの22%にあたる。老人の投票率は若者より高いから、この数字のもつ意味はかなり大きいと言える。
野党も勿論この手口に反対している。しかし、苦しい人に現金を渡そうとする人間の手を押さえればもらえる側に嫌われる。だから歯切れが悪い。その弱みをついて、政府による国民の買収という超特大の公職選挙法違反が行われようとしている。
安倍晋三という人物の首相としての資質については、前回の首相就任時からさまざまな論議が行われてきたが、こと悪知恵にかけては相当なものである。今年の安保法制反対活動で注目された若者のグループ「シールズ」の評語に「安倍晋三から日本を守れ」というのがあるそうだが、この感覚は鋭い。(151220)

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