島根の地殻変動を、能登の被災者救援やパレスチナ支援の運動につなぐ想像力を!

著者: 加藤哲郎 かとうてつろう : 一橋大学名誉教授
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2024. 5.1 ●4月28日投票の衆議院補欠選挙は、島根1区・長崎3区・東京15区と、すべて立憲民主党の勝利となりました。特に保守王国島根での、統一教会に汚染された自民党との直接対決で、立憲民主党女性候補が圧勝したのは、地殻変動でしょう。旧来の自民党支持層の中でも、超円安・物価高に帰結したアベノミクスの失敗と、金権・腐敗・裏金まみれの自民党政治を見限り、無能で厚顔無恥、国民感覚から離れた岸田首相に国を任せるわけにはいかないと、選挙で制裁を加えました。とはいえ、投票率はのきなみ低下で、政治不信・アパシーが多数派です。『ニューズウィーク』日本語版は、低投票率と東京15区の「選挙妨害」を、今後を占うトリプル補選の特徴としてあげました。与党の溶解はみられますが、野党のチャンスと言うほどの地殻変動はみられません。政治改革・政治資金規正法改正の見通しも曖昧です。そして、1ドル=160円の生活苦の元凶を作った黒田前日本銀行総裁に瑞宝大綬章、日本政治の混迷は、続いています。

●日本の大学では、長かったオンライン講義がようやく縮小され、教員と学生の対面、学生同士のキャンパス・コミュニケーションも復活しましたが、そのキャンパスには「国際卓越研究大学」など文科省および学外からの大学運営への介入による自主性喪失・序列化・財政誘導で、学生の意向どころか教職員の権限も削られ、大学の自治と学問の自由の危機が続いています。他方で欧米の「国際卓越大学」では、学生たちのパレスチナ支援の運動が広がっています。イスラエルのジェノサイド、ガザ攻撃への抗議です。コロンビア、イエール、ハーバード、ニューヨーク大、UCLAやバークレーなど全米62大学以上に広がり、すでに900人以上が逮捕されています。ロンドンでは30万人の街頭デモへと広がり大英博物館前で座り込み、パリ政治学院などヨーロッパ大陸にも広がっています。日本では、小さな集会はありますが、大衆的抗議運動にはなっていません。日本の学生たちは、他国の戦争での子どもたちの命に思いを寄せる余裕も、なくなったのでしょうか。日本経済の衰退、国際競争力の低下のもとで、イマジネーション=想像力の働く世界が狭くなっています。アメリカの学生たちの動きは、秋の大統領選にも影響し、ガザ地区ばかりでなくウクライナ戦争の行方にも、繋がってくるでしょう。

● 円安のゴールデンウィークで、インバウンド観光客は盛況、海外旅行をあきらめた国内近場観光も賑わっています。しかし日本は、このところ地震が続いています。新年の能登半島に続いて、4月には四国でも、共に原発の立地を含む地域でした。昨年末のフィリピン、3月のインドネシア・ジャワ、4月の台湾・花蓮地震など、日本の周辺でも活発な地震・火山活動が見られます。温暖化など気候変動とあわせて、私たちの生活基盤の根幹でも、戦争に準じる生命のリスクが高まっています。4月の台湾の地震で思い知らされたこと。日本の正月の能登半島地震が、いまだに復興どころか瓦礫の整理もできず、被災者用の仮設住宅がようやくできつつあっても、老人・身障者ら弱者の介護のボランティアまでは手は回らず。ほぼ同じ震度の台湾・花蓮地震では、官民連携しての備えのもとで、地震の3時間後に仮設住宅やトイレが準備され、被災者救援、道路や建物の復旧も、日本とは比較にならない素早さでした。日本では体育館に毛布の雑魚寝避難所暮らしが見慣れた風景で、よくイタリアの人間の尊厳とプライバシーを尊重した仮設住宅と比較されてきましたが、アジアでも台湾には、イタリアに勝るとも劣らない災害への備えと救援・復旧・復興政策がありました。それは、政治の違いでした。なにしろ能登の被災地に首相や知事が入ったのは1月14日と地震の二週間後、国も県も、職員自身が被災した市町村自治体に責任をおしつけて、半ば見捨ててきたのですから。原発推進ばかりでなく、裏金政治腐敗や東京オリンピック汚職の元兇・黒幕が能登出身だったことと、無関係ではないでしょう。

● 4月28日の自民・公明不戦敗、立憲民主党完勝の政治に、野党の立憲・維新のほか少数政党が勢揃いした東京15区で、日本共産党とれいわ新撰組は表に出ませんでした。れいわ新選組は、党としての推薦は行わず、山本太郎代表は無所属ながら次点になった須藤元気候補を応援し、櫛渕万里共同代表は当選した立憲民主党・酒井菜摘候補を応援しました。選挙結果としては、上々です。日本共産党は、島根・長崎では「自主支援」であまり動きませんでしたが、東京15区については、29日の「しんぶん赤旗」によると、「野党の連携」による「市民と野党の共同候補」の勝利、としました。事実として共産党が立候補予定者をおろし、立憲民主党の酒井候補支援にまわったことが、大差での当選に結びついたことはまちがいないでしょう。しかし「野党共闘」と正面からいえないのは、立憲民主党との関係で、労働組合・連合は「労働者階級の革命政党」共産党と組むことを、拒否しています。5月1日は労働者の祭典、メーデーです。共産党は「労働者階級の前衛」という言葉は使わなくなりましたが、なおノスタルジアがあるようです。久しく階級分析はみられず、労働者党員の比率も出さなくなったとはいえ、「階級闘争」や「革命」は、目指しているようです。このジレンマを「革命」の方向で内向きに純化するのか、市民に開かれた「共闘」の方向で自己変革をはかるのか、正念場のようです。

● 連休中に目立たないかたちで出た『日本共産党の改革を求めて #MeToo #WithYou』(あけび書房)という新刊書は、私としては、有田芳生さんらと30年前に書いた「日本共産党への手紙」に対して、良心的な一般党員の方々から、実態を訴える返事をもらったような、興味深い内容です。同党の自己変革の障害になっている「民主集中制」の内実が、党員主権の公開討論を妨げているだけでなく、パワハラやセクハラまで生み出している実態を、一般党員の目線で具体的に描き、説得的です。どうやら志位議長以下幹部たちの官僚化と高齢化が進み、思考のフィードバックができないようです。さらにいえば、共産党の言う「革命」が、1917年のロシア革命の圧倒的影響下で目標になってきた以上、ご高齢の党員・幹部の皆さんは、池田嘉郎さんら最新の研究から、改めて学ぶべきでしょう。

● 有料サイトですが、新潮社Foresight の池田嘉郎さんの連載「悪党たちのソ連帝国」が、大変刺激的です。「革命を経たとはいえ、ソヴィエト・ロシアは皇帝たちのロシアに似ていた。第一に、広大な領域と多様な住民集団をもつ点で。第二に、統治者を縛る法がない点で。この二つの指標をもって、筆者は「帝国」という言葉を使いたい。ソヴィエト・ロシアは20世紀の帝国であった。そしてレーニンは帝国の創始者である」「レーニンが解体したはずの「ロシア帝国」は、いかにして強大な「ソ連帝国」として再建され、現在の「プーチン帝国」にいたったのか――ソ連に君臨した6人の悪党たちの足跡から、ロシアという特異な共同体の正体を浮き彫りにする」という意欲作です。かつてロシアや中国の「革命」にあこがれ、「革命未だならず」と嘆息している皆さんは、ぜひお読みください。

初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html

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