暴露される腐敗
右左に関係なく、「長期化する独裁権力は必ず腐敗する」。現ハンガリーの政府を構成する政党FIDESZは、体制展開以後、長期に続いた社会党政権の腐敗に乗じて政権を奪取した。とくに首都ブダペストの社会党の腐敗はひどく、2014年の総選挙では拠点であった首都圏の議席をほとんど失うほどに凋落してしまった。
社会党の腐敗批判に乗じて権力を得た現政権だが、2期続いているFIDESZ政権の幹部にかかわる腐敗の情報が頻繁に暴露されるようになった。ハンガリーでは、内閣府や省庁のトップがある程度裁量を利かせることができる予算やEU補助金がかなりある。それが政権政党の政治家やその周辺の事業者の私服を肥やしている。自由にできる巨額の資金に手を付けない政治家はいない。何のことはない、社会党時代と大差ない。だから、政治的無関心層が有権者の4割を超える。右であろうが左であろうが、政治家の腐敗に差異などないからである。
ハンガリー首相オルバンはアルチュートドボズという小さな村に育ち、隣村のフェルチュートで小学校時代を過ごした。そのフェルチュートの現在の町長メーサーロシュ・リューリンツは、2016年現在で1000億Ft(およそ400億円)の資産を保有する長者になった。もちろん、メーサーロシュ町長とオルバン首相は切っても切れない仲にある。事業を営んでいるとはいえ、田舎町の町長がこれほどの巨額の資産を真っ当な事業で稼げるはずがない。巨額の補助金事業を受注した結果である。
2016年に偶然に、メーサーロシュ町長がアドリア海沿岸ザダル港近くに所有している別荘(220万ユーロ)の存在が明らかになった。クロアチアのサッカー選手に貸していた別荘を熱狂的サッカーファンか、あるいはマフィアが襲撃したことから、この別荘の存在が明らかになった。こうやって蓄財したお金を国外の資産購入に充てている。
他方、オルバン首相だが、彼の父が高速道路の砂利運搬事業や、建築廃材の埋め立て事業で巨額の富を獲得した。オルバン首相は5人の子持ちだが、長女ラーヘルが年間学費58,860スイスフランもするローザンヌの大学に通っていることがメディアで報じられた。ラーヘルは自分たちのお金で学費を捻出したと強弁したが、娘婿ティボルツ・イシュトヴァーンが新設した会社が地方自治体を経由してEU補助金申請を出し、巨額の補助金を獲得して、突然に億万長者になったことも報じられた。
こういう事情から、ブダペスト市内にはオルバン首相とメーサーロシュ町長の顔写真が、大きなポスターで掲示されている。このポスターは極右翼政党とみなされているヨッビック(JOBBIK)が政治キャンペーンとして全国に設置しているもので、「彼らが(公金を)盗んでいる」、「われわれはそれを取り返そう、そして賃金引上げに使おう」と書かれている。
このJOBBIKのキャンペーンポスターにはいろいろなヴァージョンがあり、同じく巨額の補助金取得の疑いがかけられている内閣府長官ローガンと、やはり同じ嫌疑をかけられているオルバン首相の個人的顧問ハボーニィがセットになっているポスターがある。
右がローガン内閣府長官、左がハボーニィ顧問(「彼らが盗んでいる」)
ローガンは俗物的な知恵者で、「電気・ガス料金強制値下げ」を発案した功績で内閣府長官のポストを得た。また、ハンガリー国債を30万ユーロ購入すれば、ハンガリーの永住権を取得できるというスキームを発案したのもローガンだとされる。ローガンは主として中国人を相手にしたこのビジネスで儲けるために、永住権付き国債の売買を仲介するオフショア企業を作り、この企業は70億Ftの収益を上げたと言われる。
2016年10月には知人の結婚式に出席するのにヘリコプターを使い、ベンツの高級車が送迎したことがメディアに暴露された。もちろん、自分のお金は一切使っていない。まさに、成り上がり者である。
ハボーニィは政治家ではなく、もともと芸術短期大学で学んだ彫像家であったが、政治家との個人的関係を利用して蓄財に励み、オルバン首相の個人顧問として、芸術文化の分野の「助言者」として、威勢を張っている。たいした能力もないのに、政治家とのコネで成り上がった人物である。政権政党支持者の間でも、評判は良くない人物として知られている。
なお、ハボーニィはこのポスターの写真が無断で使用されたとして告訴している。
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
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