(暴論珍説メモ 138)
昨年の消費税増税に続いて再来年(17年)4月に実施される再増税の際の「軽減税率」をどうするか、このところ自民・公明両党間で続けられてきただらだら評定が、10日、公明党の「勝利」で終ったという。その中身は、再来年4月に消費税を現行の8%から10%に引き上げるにあたって、(とくに低所得者増の)痛税感をやわらげるために、一部の食品の税率を8%に据え置くが、その据え置く食品の範囲を自民党が主張していた「生鮮食品のみ」から「加工食品」にまで拡大する、というものだ。
評定の主役をつとめた自民・谷垣、公明・井上の両幹事長は、終始、深刻な顔つきであったが、われわれ観客としては「ああまたか」という既視感が先に立って、当事者の深刻ぶった顔つきが手慣れた演技を見せられているようで、なんとも不快であった。
家族にきびしい親父役の自民党に対して、子供思いの母親役の公明党が「あなたの言うことも分かるけど、それじゃ子供があんまり可哀そう」と袖にすがり、親父が「しょうがねえなあ、それじゃお前の言うとおりにするか」と折れる、という筋書きである。演じている方は、次の場面で子供たち(国民)が「お父さん、お母さん、有難う」と両親に抱きついてくるのを想定しているのだろう。
この猿芝居はつい最近の集団的自衛権をめぐる騒動でも見せられたばかりだ。この筋書きは、役者どうしもちゃっかりお互いが得するように仕組んである。父親は母親に花を持たせることで、母親の愛(選挙協力)を確かなものにし、母親は「あんな因業親父とは別れたら」という子供(支持者)に対して、「私がついているから大丈夫、お母さんを信じて」と説得できるという寸法だ。もう半年余りで参議院選挙(ひょっとすると衆議院選挙も)が控えている。
この年末猿芝居はどうやら安倍官邸が脚本を書いたらしいが、これがまた大当たりするようでは、観客の目が節穴ということになる。
バカにしないでもらいたい。軽減税率というのは、なにも今の税率を下げるというのではない。もっと取るところを、今のままに据え置いてやるというだけのことである。そのための財源が6000億円から1兆円くらいに増えるというが、それだけ国民に分けて下さるというのではなくて、政府の取り分が減るという話だ。それを有難く思えと言われたって、こちらは挨拶のしようがない。
確かに消費税は相対的に低所得者の負担が重くなる税だ。それから食品でも低所得の独身者は生鮮食品を買って調理するより、加工食品で食事をすます確率が高い。だから生鮮食品だけでなく加工食品の増税も見送ってやるというのは、うっかりすると、いかにも弱者にやさしい政策のように見える。そこがこの芝居のミソだ。
しかし、弱者のことを考えるなら、今、非正規労働者が全体の4割にも達し、その多くが年収200万円程度の低所得の生活を強いられている状況を改善することに、それこそもっと深刻な顔で取り組むべきだ。税込110円に上げるべきところを108円に据え置くのを弱者対策だなどとは、おこがましいにもほどがある。
政府も経済界に賃上げを再三働きかけている、と言うかもしれない。しかし、働きかけるだけなら誰でもできる。政府は行政権限を一手に握っているのだから、やりようはあるはずだ。ところが政府がまずしたことは、来年度から法人税を20%台に引き下げるという決定だ。こちらは連立与党間でもめることもなく、すんなり決まった。
法人税が高いと企業の国際競争力が弱くなり、輸出が減り、それだけ景気が悪くなるというのが、その言い分だが、企業の国際競争力は法人税だけで決まるわけではない。現に日本の輸出企業は日銀のお金ジャブジャブ政策のおかげで円が安くなり、わが世の春を謳歌しているではないか。輸出企業のみならず「上場企業は史上最高益」などという見出しを見たばかりだ。一方で庶民は輸入食品の値上りで生活費の高騰に苦しんでいるのに。
加工食品でどうやら腹を満たしながら、テレビのバラエティと安倍官邸の猿芝居に手を叩く「あどけない子役」の役割から国民は脱しなければならぬ。(151210)
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