「イスラム国」は今朝、人質にしていた後藤健二さんの殺害を発表した。身代金要求が満たされなかった湯川遥菜さんや欧米人のジャーナリストらと同様、斬首処刑し、その残酷な記録映像をネットで全世界に流した。この人間の生命、尊厳を踏みにじる最悪の犯罪を、最大限に抗議する。
国際社会は、イスラム世界も、非イスラム世界も、残虐で偏狭な過激派「イスラム国」の壊滅のために連帯して、戦いを強めなければならない。
昨日も連載⑪で書いたとおり、パリの連続テロ事件の背後にいる「アラビア半島のアルカイダ」はじめ、数多くのイスラム過激派が中東はじめ各地で活動しているが、そのなかでも「イスラム国」は際立って有力で、残酷であり、危険だ。
軍事情勢については⑪でも書いたが、イスラム国との戦いでは、兵力と資金源を根絶やしにすることがカギになる。「イスラム国」がこれだけ急成長した大きな理由は、この2年間にアラブ諸国、英、仏はじめEUそして全世界から若者たちを集め、ジハード(聖戦)を信じ込ませて戦闘員を数千人から数万人に増大したことだ。「アラブの春」の挫折で失望した若者たち、欧米での失業と低賃金、差別と格差に苦しみ、怒る若者たちは、「イスラム国」がネット・メディアで巧妙に発信する“理想郷”に引きつけられて来る。自国の若者たちが危険を承知で「イスラム国」に行くのを抑えるために、それぞれの国と、国連とEUは、さらに取り組みを強化しなければならないのではないか。それが無ければ、たとえ「イスラム国」を壊滅しても、若者たちは他のイスラム過激派に流れていくに違いない。
湯川さん、後藤さんを殺害した「イスラム国」は欧米やトルコの人々を人質にして、年間約41億―53億円を稼いできたという(国連報告)。身代金を払わなければ解放せず、拘束が長引く。しかし「イスラム国」は、昨年8月以降、身代金支払いを政府が拒否した米国人3人と英国人2人を斬首処刑にした。その際、米国や英国が8月から始めた「イスラム国」への爆撃を処刑の理由にあげた。「イスラム国」流の正当化だ。二人の日本人については、安倍首相がカイロで演説した「ISILの脅威を少しでも食い止めるため」の2億ドル援助表明を理由にして、2億ドルの身代金を要求。後藤さん殺害のさいには、そばにいた男が「イスラム国と戦う連合に参加した」ので「日本の悪夢を始める」と述べて、刃物を後藤さんの首につき付けた。安倍首相の発言の意図は難民支援の援助の表明で、「イスラム国」への敵意の表明ではない、と政府は繰り返し説明しているが、アラブ諸国の多くの新聞は、“日本が「イスラム国」と戦う有志国に参加表明”、という大見出しで報じていた。
「イスラム国」に利用された安倍発言の軽率さについては⑩でも書いたが、この時期の首相中東訪問そのものが、軽率なパフォーマンスだった。2億ドル発言をした最初の訪問国エジプトは、1昨年のクーデターでモルシ政権を打倒した軍トップのシーシ将軍が、昨年の選挙をへて大統領に就任。前政権のムスリム同胞団員の幹部たちに続々死刑判決を下している国。イスラエルは、昨年7、8月のガザ攻撃で、子供と女性8百人近くを含む2千百人以上のパレスチナ人を殺害した国。首相は付け足しでパレスチナを訪問したが、イスラム過激派だけでなく、中東の人々の多くが、イスラエルとエジプトにいわば免罪符を与えた安倍首相のパフォーマンスを、決して快く思っていなかったことは確かだ。
中東の人々は、歴史的に中東では侵略せず、戦争放棄を憲法で宣言した平和国家として日本に好意を抱き、特別扱いしてきた。その対日感情が、イラク戦争での自衛隊派遣と多国籍軍への海上給油活動で損なわれ、安倍政権の登場で対米国なみになったと思う。それが、今回の人質事件にも影響した。
後藤さん殺害後の最初の発言で、安倍首相は「日本がテロに屈することは決してありません。食糧支援、医療支援といった人道支援をさらに拡充してまいります。」と約束した。
賛成だ。この場のパフォーマンスに終わらせず、実行しよう。国連によると、シリアからの国外難民は300万人以上で、おもにレバノンとトルコで、国連の援助でやっと生きている。国内の避難民はシリアで760万人、イラクが275万人。国連は日本の支援拡大を切望している。もちろん日本ができることは限られているが、日本が平和国家としての信頼を回復するために、首相の口約束だけでなく、支援拡大の実行が必要だ。それには、人道支援活動にあたる豊富な人材の派遣で、目に見える、心に触れる支援を強めることが望ましい。そのための人材養成、派遣へのさまざまな条件整備が必要だろう。自衛隊機や自衛艦増強に巨費を支出し、海外派兵を画策するよりも、その1割でも人道支援に回した方が、どれほど日本の安全保障の強化に役立つだろうか。(2015.2.1)
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