憲法とともに脱原発を総選挙・都知事選の争点に、政党と候補者を仕分ける落選運動を!

著者: 加藤哲郎 かとうてつろう : 一橋大学名誉教授・早稲田大学客員教授
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◆2012.11.15 びっくりしました。テレビの国会党首討論を流しながら仕事をしていたら、野田首相が安倍自民党総裁に対して、明日16日解散するという宣言です。赤字国債発行の特例法と違憲状態の衆議院議員定数を0増5減まで通し、本格是正・定数削減を選挙後の通常国会で行うことを自民党に約束させてということですから、ずいぶんハードルを低くしたものです。12月16日に東京都知事選挙と同日となる投票の選挙結果は、まだだれもわからないのですから。ほかならぬ民主党の話ですから「選挙後」への「マニフェスト」はあてになりません。前日まで話題になっていたTPP参加は、選挙用争点にまわすのでしょうか、党首討論には現れず。無論、原発も社会保障制度改革も国会では棚上げ先送りのまま、「自爆解散」です。民主党は離党者が出て、分裂するでしょう。自民党の支持率トップも相対多数で、政党支持なし層が最多数派です。選挙前に選挙協力をめぐる政党再編第一波があり、選挙結果を見て、政権づくり・多数派形成の第二波になるでしょう。いわゆる第3極は、大同団結前の合従連衡・野合で淘汰され、国民の選択には目くらまし材料になるだけでしょう。こうなったら、都知事選挙と一緒に、国政もガラガラポンしてもらいましょう。でも、有権者側の問題は、何を争点にし、どんな新政権を望むのか。皆さん、覚悟が必要です。3・11以降の本サイトの基調からすれば、何よりも震災からの復興、脱原発が争点になり、原発再稼働反対・脱原発の政権を実現したいところです。震災でいのちを失った2万人近い声を誰が代弁し、故郷を失った十数万被災者の投票権はどこで保証されるのでしょうか。ところが永田町の政党政治では、脱原発政治の担い手は周辺的で、いくつかの政党・政派がありますが弱小です。同時に、民主党の中にも、自民党の中にさえ、脱原発の議員・候補者がいます。まずはマスコミへの働きかけを含め、原発を基本イシューにし、脱原発の候補者を選び、「原子力ムラ」と結びついた原発推進派を孤立させる落選運動が必要でしょう。

◆もちろん国政選挙となれば、消費税も社会労働政策も、経済政策も外交も試されます。アメリカではオバマ大統領が再選し、中国共産党の習近平体制も発足しました。ヨーロッパの金融危機は続き南欧では大きな反政府デモ、お隣韓国の大統領選挙は、12月19日投票です。世界もバージョン・アップですから、日本も大きく脱原発に舵を切って世界にアピールし、これを機会に沖縄基地問題をアメリカに直言できる新政府を、といきたいところですが、そう簡単には行きません。政党レベルでの選択肢は、党派の数こそ多いのですが、あまりありません。それどころか、政権復帰を狙う安倍・石破自民党をはじめ、第3極とよばれる新党にも「憲法改正」を公然と掲げ、中国・朝鮮半島を念頭に集団的自衛権を認める、右派ナショナリズムが強まっています。ややこしいのは、「脱原発」のイシューと「憲法第9条」のイシューで、その分界線が異なること。例えば小林よしのり『ゴーマニズム宣言 脱原発』(小学館)は、原発イシューに限っていえば、なかなかよくできた解説で、影響力もあります。逆に「平和憲法があるからこそ、原子力は平和のために」というのが、フクシマ原発事故までの「革新」勢力の大方の見方でした。ですから政党レベルだけでなく、一人ひとりの候補者レベルでも、しっかりその政見をみきわめなければなりません。韓国でかつて成功した落選運動とは、そういうものでした。

◆原子力については、国政レベルばかりでなく、地方政治レベルの問題もあります。原発立地だけの問題ではありません。日本の「非核平和都市宣言」から検証してみましょう。非核平和都市宣言とは、地方自治体が核兵器廃絶を願って制定する宣言で、1980年の英国マンチェスター市の宣言を契機に、日本でも80年代に宣言自治体が相次ぎました。原水爆禁止に賛成し「核なき世界」をめざす自治体が、「非核平和都市」と名乗るものです。ところが実際に調べてみると、「非核平和宣言」を出している都市が、原発立地自治体であったりします。多くは社会党・共産党など革新勢力によって議会に提案され、その歴史的展開が、実は日本の平和運動が長く引き摺ってきた「原爆反対・原発歓迎」の歴史を、端的に反映しているのです。 世界で最初に非核自治体宣言をしたのは、愛知県の半田市で、1958年6月6日の市議会決議でした。日本非核宣言自治体協議会によると、 2012年夏の時点で、非核平和都市宣言は、全国1789自治体の約87%に相当する、1558自治体が制定しています。人口比では90%以上とか。ただし、原発立地が集中する福井県は、美浜町、おおい町、高浜町等に宣言がなく、宣言率55.6%と低くなっています。それが原爆と原発の関係をどれだけ意識しているものかは、定かではありませんが。

◆最も一般的なのは、半田市の先駆的事例がそうであるように、核兵器についてのみ簡潔に記すかたちです。もう一つのパターンは、核兵器の危険性を訴え、核兵器廃絶を柱にして「平和利用」を書き添えるかたちです。たとえば3・11の4年前の2007年静岡見掛川市の「非核平和都市宣言」には、「原子力の平和利用の推進」が入っています。原発を抱える茨城県東海村は、早い段階で非核平和宣言を出しました。1986年に制定した宣言には「村が原子力関連施設を受け入れたのは、原子力基本法の精神を堅持し、平和の目的に限って原子力の研究・開発及び利用を進めることを確認した上でのこと」と明記しています。そして、2011年3月11日の 東京電力福島第1原発事故を経ることによって、ようやく「非核」に「脱原発」の意味を加えようという動きが現れてきました。まだ原案段階ですが、東京都多摩市の事例がそうです。今回の国政選挙では、1954年3月ビキニ環礁水爆実験で被爆した第5福竜丸の母港である鈴岡県焼津市議会が、2週間前の中曽根原爆予算の国会通過もあり、「原子力を兵器として使用することの禁止、原子力の平和利用」 と決議した流れを何とか食い止め、「核と人類は共存できない」ことを明確にする必要があります。自治体レベルでの脱原発を加えた「非核平和都市再決議」と、国政レベルの「脱原発基本法」賛同議員を増やすという方法で、何とかこの日本政治の再編期を乗り切りたいものです。こうした歴史的問題を論じた『エコノミスト』臨時増刊「戦後世界史」(10月8日号)掲載「原爆と原発から見直す現代史」をアップ。あわせて、3・11以後の原爆・原発関係のファイルを、情報学研究室の「専門課程3 原爆と原発の情報戦」にまとめました。

「加藤哲郎のネチズンカレッジ」から許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.ne/
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