戦争が近づくと、権力者は国政の矛盾をそらせ、外に突破口を求める!

著者: 加藤哲郎 かとうてつろう : 一橋大学名誉教授
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2017.4.15  戦争が近づいています。アメリカのトランプ大統領は、米中首脳会談の最中に、シリアに対して巡航ミサイル・トマホーク59発を打ち込みました。シリア政府軍が化学兵器を使って子供たちを含む市民を殺害したという理由ですが、本当に化学兵器だったのか、そうだとしても誰が使ったかの、明確な証拠は示されていません。国連安全保障理事会にもかけずに、地中海の駆逐艦からの直撃です。シリア政府も後ろ盾のロシア政府も、真っ向から化学兵器使用を否定しました。イラク戦争開始時のアメリカの「大量破壊兵器」情報との関わりで、米国情報の根拠が疑われます。内戦から戦争への拡大が危惧されます。米中会談でアメリカは、中国の北朝鮮への制裁強化を求め、もう一つの選択肢として米国の「単独で行動する用意」も挙げたそうです。その「砲艦外交」を証すかのように、朝鮮半島近海に巨大空母カールビンソンを派遣外国人記者団を人質に核とミサイルで対抗しようとする北朝鮮との緊張が、高まっています。さらにアフガニスタンでは、核以外で最大の破壊力という「すべての爆弾の母」とも呼ばれる大規模爆風爆弾(MOAB)を、IS(イスラム国)拠点と見なした地域に史上初めて実戦使用36人を殺しました。どうやら通常兵器でも「世界の警察官」に戻るかのようです。そして、情報戦的に重要なことは、これらの対外軍事行動が、史上まれな就任後低支持率に悩むトランプ政権の国内向け示威で、それがある程度成功しようとしていることです。

日本の安倍総理は、トランプ大統領の「おともだち」を自負しています。かつてのイラク「大量破壊兵器」問題では、2014年になっても「イラクの件につきましては、決議に違反し続け、自ら大量破壊兵器が無いということを証明する機会があったのにも関わらず、それをしなかったことが問題だ」と答弁し、挙証責任をイラクのフセインにして、アメリカを弁護しました。だから、今回のアメリカのシリア爆撃にも、直ちに「アメリカ政府の決意の支持」を表明しました。 朝鮮半島での武力衝突がおこれば、米軍と共に自衛隊が動き、「有事」が宣言されるでしょう。そこまでいかなくても、空母カールビンソンの北上にあわせて、海上自衛隊は、臨戦態勢です。そこでは、日本独自ではなすすべもなく、安倍首相も稲田防衛相も、トランプの持ち駒・捨て駒です。ただし、安倍首相や稲田防衛相にとっては、中東やアジアでの戦争切迫が「天の恵み」です。トランプ大統領と似て、内憂を外患に転嫁して、「戦争のできる国」にする、絶好のチャンスともなります。

内憂の一つは、いうまでもなく「森友学園」問題。教育勅語を幼稚園児に暗誦させ「安倍首相がんばれ」と叫ばせる森友学園の洗脳教育は、マイルドなかたちで文部科学省検定「道徳」教科書に取り入れられ、教材として使用可能になりました。森友教育に感激し名誉校長を引き受けた安倍昭恵首相夫人のスキャンダルは、大麻暴力団がらみから、公務員「秘書」5人を使っての自民党選挙応援13回まで、てんこ盛りです。「アキエリークス」というサイトには、100万円を寄付したと籠池理事長が証言した2015年9月5日の、二度に及ぶ講演が、映像と文字興しでアップされました。その前日に、私立小学校の認可権を持つ大阪府私学審議会会長と会っていたことも、明るみに出ました。第一次安倍内閣崩壊後の自分の著書『「私」を生きる』では、「私人」としての仕事と「首相夫人としての仕事」がはっきり分けて述べられており閣議決定と矛盾します。

「森友学園」への肩入れが「私人」としてではないことは、安倍首相自身の塚本幼稚園保護者宛手紙からも、明確です。それ以上にすごいのは、昭恵夫人がフェイスブックに投稿・コメントした、2015年クリスマス・イヴの「男たちの悪巧み」。安倍首相と、加計学園・加計孝太郎理事長と、三井住友銀行・高橋精一郎副頭取、増岡商事・増岡聡一郎社長の並んで乾杯する写真が、安倍首相自身の「おともだち」事業への関与、加計学園の岡山理科大獣医学部新設への「首相の後ろ盾」今治市民の土地36億円の無償譲渡や、銚子市の千葉科学大学水産・獣医学部への92億円補助金、淡路島の「吉備国際大学南あわじ志知キャンパス」まで含めると「血税176億円」という試算もある「悪だくみ」の一部であることを、首相夫人自身が示唆しています。

こんな公金を私する権力を許さないためには、なによりも情報公開が必要です。森友学園への国有地払下げも、大阪府私学審議会の認可についても、官僚たちが国民の財産である公文書を隠匿しています。財務省、経産省、国土交通省、文部科学省、総務省など複数以上の官庁が関係しているはずですから、内閣府が本気になって捜せば、必ず手がかりが出てきます。ところが首相官邸も主要閣僚も「おともだち」で占められていますから、防衛省による南スーダンPKO日誌の場合よりもさらに厳しい、「アッキード隠し」「加計学園疑惑隠し」が進められています。内部告発やジャーナリストの追及・追究がないと、このままうやむやにされてしまいます。マスコミは争点移動、論題隠しに利用されています。東京都の豊洲市場移転問題・都議選、「共謀罪」国会上程、大きな事件や事故、報道は次々と拡散していきます。そこに、戦争切迫の国際情報、権力の情報隠しばかりでなく、国内政治・指導者の汚点に眼をつぶる「国益」意識、「国民」意識も働きます。前回、国連世界幸福度ランキングでG7最下位の51位と紹介しました。ところがその世界51位の国内では、内閣府調査で「現在の生活に満足」が過去最高の 65.9%、「国を愛する気持ちが強い」55.9%と、自己満足と癒やし、「防衛強化」要求の情報が、オーバーラップし、権力者を慰めます。NHK世論調査をもとに昭恵夫人らの証人喚問を求めた野党の国会質問に、安倍首相が内閣支持率53%だから不必要と答えて委員会質問を封じ、介護関連法案を強行採決するという異常事態が、異常と映らない倒錯が続いています。

権力は腐敗します。絶対権力は絶対に腐敗します。このことを事後的に確かめるためにも、公文書の保存と情報公開が必要とされるのです。いまや日本経済衰退の象徴となった「世界のTOSHIBA」は、歴史的に検証できる素材となりました。巨額の損失を産んだ東芝経営破綻の最高責任者は、10年前まで「異色の豪腕経営者」と高く評価されていました。強気のワンマン経営「選択と集中」で、当時の「国策」原子力部門に資源を集中し、モノ作りよりも財務・金融に傾斜しました。福島第一事故で脱原発が進む世界の趨勢を、読めませんでした。その同じ人物が、 日本経済団体連合会副会長で日本経済再生本部・産業競争力会議の代表幹事をつとめ、加計学園の便乗した国家戦略特区への道を敷いてきたのです。アベノミクスの行く末を、暗示しています。戦争が近づくと、軍需が民需を圧倒します。日本学術会議が警告したように、「デュアルユース」の名で、研究開発もきな臭くなります。東芝も、日本の有力な軍事企業の一角でした。私の情報戦の視角からの旧満州731細菌戦部隊の隠蔽・免責・復権過程についての研究も、ABC兵器(核生物化学兵器)の実戦使用や、「科学者・技術者の社会的責任」の問題再浮上で、にわかにアクチュアルになってきました。予告した大部の書物「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊・二木秀雄と「政界ジープ」』は、5月下旬に花伝社から刊行されます。

初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
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