戦争は続き沸騰化する地球、政治改革と万博中止と保険証存続の政権交代を!

著者: 加藤哲郎 かとうてつろう : 一橋大学名誉教授
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2024. 1.1 ● かつてこの国は、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」ともてはやされました。それから40年、年末に発表されたOECDの一人あたりGDPは21位、イタリアにも抜かれG7の最下位です。労働生産性では38カ国中30位、実質賃金も下がり続け、最下位グループです。まさに「失われた30年」、国別GDPもドイツに抜かれナンバーフォーで、やがてインドが追い抜くでしょう。頼みのアメリカ経済は順調でも、「アベノミクス」や「新しい資本主義」なる日本の愚策を救ってくれるわけではありません。むしろオスプレイのような欠陥商品や軍需品をさらに売りつけ、中古武器の払い下げ市場とします。自動車などの輸出利益は米国債購入にあてられて、中小企業や労働者の賃金にはまわってきません。長い眼で見ると、「先進国」「発達した資本主義国」というカテゴリーからの脱落が始まったようです。

● かつて第一次世界大戦が始まったとき、初年度の独英戦場で「クリスマス休戦」という言葉が生まれましたが、21世紀の戦争では、聖地エルサレムのすぐそばで、かつてホロコーストの被害者を自認していた国イスラエルによる、パレスチナの民衆へのジェノサイドが続いています。ガザでは、幼子がミサイルで傷つき、病院に運び込まれてもベッドも薬品もなく、すでに2万人以上の民間人の犠牲者です。ウクライナ戦争も長期化し、停戦のきっかけが見いだされないまま越年、プーチンは新年の大統領選再選をめざして、首都キウイを含む全土への年末空爆です。2024年は、プーチンのロシアばかりでなく、アメリカ大統領戦でのトランプ再登場の危険があり、アジアでは1月の台湾総統選を皮切りに、インドネシア大統領選、韓国総選挙、インド総選挙、さらにメキシコ大統領選、欧州議会選挙など世界は民意により大きく動く可能性があります。いまや国際社会での存在感を失った日本は、故安倍晋三の時代と同じように、トランプ共和党政権が復活すればいち早く尻尾を振るポチでありつづけるのでしょうか。

● 日本では7月の東京都知事選挙は決まっていますが、23年12月に急展開した自民党派閥のパーティ券による裏金づくり疑惑によって、それでなくとも危険水域だった岸田内閣の支持率は、かつての森内閣・麻生内閣末期並みの低空飛行になりました。自民党支持率も急速に低下して自民党政治の積年の腐蝕構造が、露わになってきました。日本のマスメディアで長く隠蔽されてきたジャニーズ事務所の性加害が2023年に社会問題化したのは、イギリスの公共放送BBCが詳しく調査して、世界に報道してからでした。BBCは、日本の政治資金の異常にいち早く注目し、岸田首相の息子の官邸パーティまであげて裏金スキャンダルの構造にも切り込んでいます。唐突かもしれませんが、私は東欧革命・ソ連解体期の共産党政権崩壊を想い出しました。政権が長期化して独裁化し、結党の理念はともあれ、ノーメンクラトゥーラであった親の威光や官僚的テクノクラートが権力維持を自己目的化して民衆の支持を失い、マネーと抑圧で支持を調達しようとしたがかなわず、民衆からの圧力と示威行動・反乱で権力を追われました。その一党支配と圧政の記憶が世界的規模で残り、20世紀のある時期まで新時代の希望を意味することもあった共産主義と共産党という党名は、21世紀には抑圧と不自由の象徴になってしまいました。

● 日本における自由民主党という政党は、もともと戦後日本の社会主義・共産主義の台頭に対抗して生まれた保守勢力の連合でしたが、世界的な共産党の衰退と日本社会党の解体に乗じてイデオロギー色を薄め、権力独占と利権配分の共同体に純化しました。3世・4世の世襲議員を生み出すほどに腐朽し寄生的になり、日本語の自由と民主主義のイメージをおとしめてきました。1990年代の政治改革の限界・問題性が、政治資金規正法、小選挙区制を含めここまで明らかになってきたのですから、このさい、その世界史的前提となった冷戦崩壊の世界史的地点に立ち戻り、21世紀にふさわしい抜本的な変革が必要です。議員定数・政党助成金から歳費・政治活動費、公職選挙法を含む選挙制度やデジタル技術の導入を含め、既存の政党は、日本国憲法下の「ジャパン・アズ・ナンバーファイブ」「少子高齢化日本」を前提とした、政治システムのアイディアと構想を競い合い、20世紀後半以来の自由民主党支配に代わる、新たな国家と社会との関係を、創出してもらいたいものです。

●もっともその世界史的環境は、1990年代以降、さらに深刻化しています。地球温暖化から地球沸騰化への、待ったなしの気候変動・生態系変化が、2023年は、日本でも体感されました。集中豪雨など異常気象や食卓に上るサカナの種類でも、目に見えてきました。コロナ・ウィルスのような感染症の人類史的意味も、生産力発展・経済成長・開発至上主義的政治指導を前提としてきた20世紀までの政治とは異なる、政治システムへのアプローチを求めています。まずは政治改革に、大阪万博中止・縮小、それに健康保険証継続による野党の連合と政権交代でしょうか。コロナ禍で大病を経験した私個人は、残念ながら、新しい政治システムの行方を見定めることは難しいでしょう。友人が一人また一人と亡くなっているもとでは、新しいシステムのプランニングと構成は、21世紀末まで生き残る若い世代に、任せざるをえません。かつて1980年代のイギリスで、A・ギャンブルの『イギリス衰退100年史』が書かれ、バブル絶頂期の日本でも広く読まれました(みすず書房、1987年)。いまこそ「失われた30年」を明治以来の「開国」「近代化」過程から真摯に見直す、「日本衰退200年史」が必要で、若い皆さんに期待します。まだリハビリ中ですが、2024年も、よろしくお願い申し上げます。

 

● 2023年は、前年に獣医学の小河孝教授とコラボした共著『731部隊と100部隊ーー知られざる人獣共通感染症研究部隊』(花伝社)、私が代表をつとめる尾崎=ゾルゲ研究会のシリーズ第一弾、A・フェシュン編・名越健郎・名越洋子訳『ゾルゲ・ファイル 1941−1945 赤軍情報本部機密文書』(みすず書房)、を刊行した延長上で、シリーズ第二弾のオーウェン・マシューズ著、鈴木規夫・加藤哲郎『ゾルゲ伝 スターリンのマスター・エージェント』(みすず書房)が刊行しました。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

「等身大のゾルゲ解明へーー尾崎=ゾルゲ研究会発会主旨」(毎日新聞、2022年2月13日夕刊) 

シリーズ「新資料が語るゾルゲ事件」尾崎=ゾルゲ研究会編(みすず書房)

アンドレイ・フェシュン著、名越健郎・名越陽子訳『ゾルゲ・ファイル 1941−1945』(みすず書房)

「蘇るスパイ・ゾルゲ」(『週刊朝日』2022年11月11日号) 

「スパイ事件 公表から80年 ゾルゲにソ連側が不信感 機密文書まとめた資料集邦訳」(毎日新聞夕刊2022年12月14日

「伝説のスパイ ゾルゲの謎に迫る、刑死から78年、書籍続々」(朝日新聞夕刊2023年1月20日)

ka明治大学平和教育登戸研究所資料館 第13回企画展講演会:加藤哲郎「ゾルゲ事件についての最新の研究状況」(2023年5月)

ka岸惠子主演『真珠湾前夜』が可能にした学術的ゾルゲ事件研究」(みすず書房HP、2023年5月18日)

ka<土曜訪問インタビュー>「プーチンの原点は ゾルゲ研究から ウクライ ナ侵攻探る」 加藤哲郎さん(一橋大名誉教授)(中日・東京新聞2023年6月3日)

kaゾルゲ事件研究深化、愛知大文庫開設を計画 寄贈資料すでに1000点(中日新聞7月27日夕刊トップ)

ka<記者がたどる戦争>ゾルゲ事件(北海道新聞2023年8月111213日

ka毎日新聞『ゾルゲ伝』書評:岩間陽子「極東と欧州、同時代の歴史が融合」(2023年7月22日)

ka読売新聞『ゾルゲ伝』書評:井上正也「大物スパイ 成功と孤独」(2023年9月1日)

ka東京新聞「ゾルゲ事件の新証言 自白強要や拷問なかった、元特高警察の男性の生々しい記録が見つかる 戦時中のスパイ捜査」(2023年9月18日)

ka北海道新聞「ゾルゲ事件」捜査つづる遺稿集 元特高警察の男性遺族、愛知大教授に寄贈」(2023年11月9日)

ka東京新聞「ゾルゲ事件、特高警察の取り調べ記録を「研究に役立てて」 主任警部の遺稿集を遺族が愛知大に寄贈」

(2023年11月13日)

● 『戦争と医学』誌22巻(2021年12月)に寄稿した「戦前の防疫政策・優生思想と現代」をアップしました。日独関係史がらみで、『岩手日報』2022年2月20日の社会面トップ記事、「可児和夫探索」の調査取材に協力しました。可児和夫は、ナチス・ドイツ敗北後に日本に帰国せずベルリン近郊に留まりソ連軍に検挙された医師・ジャーナリストで、もともとナチスの作った東独のザクセンハウゼン強制収容所に、1945−50年に収監されていた唯一の日本人でした。片山千代ウクライナ「ホロドモール」体験に似た収容所体験記「日本人の体験した25時ーー東独のソ連収容所の地獄の記録」(『文藝春秋』1951年2月)を残した、現代史の貴重な証言者です。晩年の島崎藤村について、私の近代日本文学館での講演も参照しながら、信濃毎日新聞がすぐれた連載を掲載しておりますので、ご参照ください・本サイトの更新も、体調との関連でまだまだ不安定ですが、カレッジ日誌(過去ログ) の方から、論文やyou tube 講演記録をご参照ください。

初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye5175:240102〕