抑止力神話を疑え -沖縄県知事選の結果をふまえて-

 11月16日(日)に行われた沖縄知事選は、翁長雄志(おなが・たけし)候補が勝利した。各候補の得票数は次の通りである。

翁長雄志 360,830票
仲井真弘多(なかいま・ひろかず) 261,076票
下地幹郎(しもじ・みきお) 69,447票
喜納昌吉(きな・しょうきち) 7,821票

 因みに投票率は64.13%で前回(平成22年)の60.88%を3.25ポイント上回った。翁長候補の得票率は51.6%。今回仲井真候補以外の候補に投票した有権者の数は合わせて438,088人で、62.7%に達している。また、同日に行われた那覇市長選挙で那覇市民は翁長市長の後任に、副市長として翁長氏を支えた城間幹子(しろま・みきこ)候補を選んだ。仲井真県知事の下で副知事を務めた与世田兼稔(よせだ・かねとし)候補は城間候補のおよそ半分の得票で敗れた。
 翁長氏の選挙公約の中心は、米軍普天間飛行場の閉鎖・撤去、県内移設断念、オスプレイの配備撤回を政府に求めた建白書(2013年1月28、沖縄の全41市町村長らが署名し、安倍内閣総理大臣に提出した)の実現を最優先させ、「あらゆる手法を駆使して辺野古に新基地は造らせない」というものである。沖縄県民はその翁長氏を選んだ。

 名護市長選挙のときもそうだったが、東京から選挙応援にやって来た閣僚や政府要人たちは沖縄振興のための援助額の増額をちらつかせ、基地移設反対の候補に打撃を与えようとしたが、そのことがかえって選挙民のプライドを傷つける結果になった。今や沖縄県民は自らのアイデンティティーを主張しているのであり、構造的な差別に抗議しているのである。
 ただ、翁長新知事の前途は険しい。私が新知事の誕生を手放しで喜べないのは、仲井真知事の辺野古埋め立て承認を撤回させることはきわめて困難だと思うからである。翁長氏は仲井真知事の辺野古埋め立て承認について「法律的な瑕疵(かし)があるかどうか判断を下したい。民意を踏まえ、県側が撤回を申し入れることも十分に起こり得る」と語り、「ぶれずに闘う」とその決意を述べているが、沖縄が置かれている安全保障上の問題や本土政府・米国政府の姿勢を考えると新知事の闘いは前途多難である。

 そこで、私は翁長新知事に次のことを期待したい。まず第1に、米国政府や日本政府に足繁く通って、粘り強く交渉を続けること。日本政府は(自虐的にならざるを得ないが)これまで米国政府に対して熱心に沖縄の基地負担軽減や地位協定などについて要請や交渉をおこなったためしはなく、隷従の姿勢をとってきた。沖縄の海兵隊基地の存在が本当に抑止力になるのかどうか、菅官房長官はことあるごとに「辺野古移設が唯一の解決策だ」と繰り返しているが、本当にそうなのか。鳩山首相(当時)は「学べば学ぶほど抑止力の大切さを知りました」とあっさり引き下がってしまったが、これは実にお粗末な結末だった。
 確かに尖閣問題その他、中国との関係で緊張が続いてはいるが、辺野古ではなくたとえば九州のどこかへ移設したとしてその結果どれだけの抑止力低下につながるのか、米国国防省に問い詰めてみるといい。辺野古が唯一絶対だという答えが返ってくるかどうか。私は日本政府が沖縄の基地を本土に移設することに拒否反応を示すのは、国内の猛反対に会って政権自体が崩壊する危険性があるからだとみている。本土で暮らしている国民も遠く離れた沖縄のことだからのんびりしていられるのだ。そこに構造的差別が存在する。

 第2に、したがって翁長新知事は例の建白書を携えて本土の都道府県の首長会に要請して基地負担の公平を訴える機会を設けてほしい。「日本の安全保障は日本国民全体が考えるべき問題だ」という当たり前のことが当たり前に論じられる日が来てはじめて差別はなくなるのである。

 第3に、今回の選挙で翁長候補は「オール沖縄」で勝利したが、今後一緒に選挙戦を戦った共産党や社会大衆大党などとの政策のすりあわせを丁寧におこなってほしいということである。具体的な政策問題にぶつかったとき、空中分解しないための知恵やしたたかさが要求される。民主党政権の二の舞を見ることだけは避けてほしい。

 最後に、辺野古埋め立て地の生態学的な価値について触れなければならない。日本生態学会はじめ国内19の自然研究団体は11月11日、連名で沖縄防衛局が辺野古で進める普天間代替地建設の中止を含めた計画見直しと、環境アセスメント再実施を求める要請書を国や県に提出した。次に琉球新報の記事を紹介する。

 「仲井真弘多県知事に宛てた要請のため、日本生態学会自然環境保全委員会の加藤真委員長(京都大学大学院教授)、日本ベントス学会自然環境保全委員会の佐藤正典委員長(鹿児島大学大学院教授)、日本動物分類学会の小渕正美理学博士が県庁を訪れ、環境部に要請書を手渡した。19もの学術団体連名による要請は異例。要請後の記者会見で佐藤氏は『環境アセスでは同海域や陸域で5千超の種が確認され、アセス後も新種や未記載種が次々と発見されている。このことはまだ一般的に知られておらず、(埋め立てが)非常に難しい問題で切羽詰まった状況にあるとは分かるが、生物多様性は世界的な課題だ』と話し、大浦湾と河川や陸域を含む自然環境の厳正な評価と保全を訴えた。加藤氏は『資源のない日本が世界に誇れるのはサンゴ礁生態系をはじめとする海の生物多様性だ』と強調、特にいい状態で残された生物多様性が陸と海で連続してつながる大浦湾を『日本の宝』と称し、『日本政府が行っている辺野古埋め立てという愚行は世界の宝をつぶそうとしている。ジュゴンが生き残るかどうかは沖縄の未来の象徴だ』と力を込めた。」
要請書は防衛省、沖縄防衛局、環境省には郵便で送られた。

 安倍首相は衆議院解散選挙に踏み切った。このままだといずれ、第一次安倍内閣同様崩壊することを恐れた姑息な延命解散だ。野党の選挙対策が整わないうちに、しかも師走の忙しい時期であれば投票率が下がり、自民党や公明党にとって有利であることを見込んでいるのである。大義もクソもない。恥ずかしいことである。最低の投票率で圧倒的な勝利を収めさせた前回の選挙を反省し、少しでも多くの有権者が自らの権利を行使することを願うばかりである。自民党は少しばかりの目減りは覚悟しているようであるが、野党に前回の選挙を学習する能力があれば、かなり挽回できるはずだ。
 沖縄県知事選挙の勢いが本土の有権者によい影響をもたらすよう、祈っている。
                               (2014.11.18)

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