イスラム過激派「イスラム国」(IS)の行動は、極めて残虐だ。イラクのアブグレイブ刑務所やカリブ海のグアンタナモ監獄での米軍による捕虜虐待、カンボジアのポルポト政権による大量虐殺、ボスニア内戦でのセルビア武装勢力による民族浄化、ロシア軍によるチェチェン鎮圧作戦、ルアンダでの民族虐殺、近くはイスラエル軍によるガザ攻撃などなど、第2次大戦後も集団虐殺、異宗派迫害と民族浄化の事例は次々と発生してきたが、ISの行動は、それらに匹敵する。ISはイスラム世界の歴史とそれを律してきたイスラム法を、カリフ(最高指導者)を自称するバグダーディが勝手に解釈し、あるいは、現在では、ほとんどすべてのイスラム国家が禁止している、捕虜の殺害や女性と子供の売買、奴隷化まで、はるか以前に作られた一部の学派のイスラム法解釈を拠り所にして、現在、実行しているのだ。それだけに、イスラム教徒が大半を占めるスラム諸国は、物理的にも、理論的にもイスラム国と戦う責任があるのではないだろうか。
(イスラム法=シャリーアは、イスラム教の始祖・預言者ムハンマドの死後、コーランを基に預言者の言行などをまとめた、人間が従うべき「道」とされている膨大な法体系。9世紀までにほぼ集大成された。内容は大別すると、懺悔、礼拝から断食、巡礼、葬礼に至る「儀礼的規範」、結婚・離婚から親子関係、相続、契約などに及ぶ私法部分と戦争、奴隷、犯罪、刑罰などの公法部分を合わせた「法的規範」から構成され、解釈の余地が広く、主要学派だけで4つに分かれる。19世紀以降、イスラム諸国でもヨーロッパの法体系の影響が強まり、家族法など以外では、イスラム法の影響は後退した。)
▽捕虜を集団虐殺、斬首処刑の動画を世界に宣伝
「イスラム国」(IS)は6月、イラク第二の都市モスルを占領後、その南の油田地帯の中枢都市ティクリート(バグダッドの北170キロ)を攻撃、降伏した政府軍基地の守備隊を捕虜にした。イラク政府軍と国際人権団体ヒューマン・ライト・ウオッチ(HRW)によると、同基地から1万1千人の兵士が逃亡し、逃げずに捕虜になったイラク兵士550人~770人が殺害され、3か所に埋められた。その大部分が刃物で首を切りおとされた。ISは百人以上の捕虜が膝まづかされ、次々に斬首された光景を、転がった捕虜の首まで動画に撮影、鮮明な映像をYouTubeなどの配信サイトで全世界に流した。わたしもその動画をみたが、各国のテレビはさすがに転がった首の映像はカットするか一瞬しか映さなかったようだ。処刑された兵士たちは、全員シーア派の若者たちだろう。投降すれば命だけは助かると信じていたのではないか。
ISは斬首処刑の動画を流すことによって、イラク軍兵士やクルド人民兵たちに恐怖感を与え、戦う意欲を失わせることを狙ったに違いない。それが世界中から若者たちを集めるのに役立つと信じているのかもしれない。
ISは8月中旬、人質として拘束していた二人の米国人ジャーナリスト、ジェームズ・フォリー氏、同月末にスティーヴン・ソトロフ氏を斬首処刑し、その光景を動画サイトで世界に流した。ISのスポークスマンは、8月8日から始まったISに対する米軍の空爆への報復だと語ったが、身代金目当てでもあった。家族や米当局者によると、ISは人質解放の条件として1億ドルを超える身代金を要求していたが、米政府が拒否を貫いた。二人の以前には、英国人の人権支援団体のスタッフ、デーヴィッド・へインズ氏が、9月下旬には米国人で、イスラム教徒に改宗していたピーター・カシッグ氏が、同様に処刑された。
これまで、内戦下の国を取材するジャーナリストや国際支援団体の要員が、政府側や反政府側に殺害されることは、シリアやイラクに限らず稀だった。どこでもジャーナリストや国際支援団体のスタッフに対しては、政府側も反政府側も保護し、その恩恵と殺害した場合の国際的非難を理解しているからだ。だが、その常識はISには通用しなかった。ISは動画サイト、SNSの利用には長け、欧米水準に近い出来栄えのPR動画を頻繁に世界に流し続けているが、時代錯誤の残虐さを宣伝の武器にしているのだ。
9月にシーア派偏重のマリキ首相が辞任し、アバディ新政権が発足してから、ISが都市と村の大部分を支配、あるいは支配的影響力を拡げている中部アンバル州(首都バグダッドに隣接し、ヨルダン国境までの広大な州)の複数の村や町で、スンニ派の地元部族がISを追い出すために決起した。ISは決起した村落を次々に反撃、武装した部族民の男たちを皆殺しにした。ISの戦闘員を追い出したスンニ派のアルブ・ニムル村の部族長によると、10月中旬になって戦闘員を満載したISの車両40台ほどが襲い、13日間の攻防の末に、部族民兵だけでなく、老人、女性、子どもを含め630人が殺害された。ISは「スンニ派でも裏切者は皆殺しにする」と言っているという。(続く)
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