政府が野党指導者や記者をスパイ? ―盗聴事件で揺れるハンガリー政界

 先日来、イスラエルの民間企業NSOグループが開発した携帯電話を盗聴するマルウェア(ソフトウェア名「ペガサス」)が、野党の政治家やジャーナリスト、政府に反対する実業家などを標的に、多くの国で使われていることが国際問題化しています。このソフトウェアを仕込むと、スマートフォンのデータへアクセスできるだけでなく、カメラやマイク機能を稼働させることができるようです。アメリカや欧州の諸国でこのソフトウェアが使われていたことが暴露され、大きな問題になっています。
 この問題を追及している英紙「ザ・ガーディアン」によれば、2017年に行われたハンガリーのオルバン首相とイスラエルのネタニヤフ首相(当時)との会談で、このソフトウェアをハンガリー政府が購入することが決まったと報道されています。このソフトでデータが流出したスパイ対象は5万件に上り、そのうちハンガリー関係はおよそ300件と報道されています。
 これまでに分かっているハンガリーでの監視対象者は以下の通り。
  - 1名の野党の首長 
  - 4名の記者
  - 1名の写真家
  - オルバン政権で経済大臣を務めたチカン・アッティラ(コルヴィヌス大学教授)
  - オルバン首相の盟友で、その後、離反したシミチカ・ライヨシュ
  - CEUの外国人学生で、2018年に反政府のデモを組織したAdrien Beauduin
 この問題を調査するために、野党は国家安全保障委員会の開催を求めていますが、与党は同意していません。官房長官の記者会見で、記者からの質問「ハンガリー政府はペガサスを購入したのか」に対して、官房長官は否定することなく、曖昧に「私は購入していない」と答えただけでした。
 この官房長官は昨年も、公的事業の受注で焼け太りして、マルタに豪華船を保有しているスィリ・ラースローの招待で、スィーヤルトー外務経済大臣が家族と共に地中海のヨット旅行を楽しんだことを聞かれ、その時も「私はそのような招待を受けたことがないので分からない」と返答していました。自分が招待されたかどうかではなく、閣僚が政府受注企業の豪華接待を受けたことについて聞かれている回答がこれです。
 「すべての国家は国家安全を守るために情報収集を行っており、どのような技術的手段を使うかは重要ではない」とも答えています。ヴァルガ法務大臣は、「このような手段はすべての国に必要なものであり、誰もが何にでも使うことができるというのは幻想でしかない」とも答えています。ハンガリー政府がソフトウェア「ペガサス」を購入したことは間違いないところです。
 ブダペスト市長カラチョニィは、「国家機密機関はこのソフトウェアを購入したのか、またそれを使ったのか。さらに、法務大臣ヴァルガあるいはその前任者は、ギィーメシュ・ジョルジュ市長、パニィ・サボルチおよびデルチェーニィ・ダーヴィド記者への盗聴を指示したのか」の二つの質問に答える必要があると主張しています。
 オルバン首相はこの問題から関心を逸らすためか、EUから修正を求められている反ペドフィル法(18歳未満の未成年者に同性愛や性転換を広める議論や広告などを制限する法律)について、「子供を守るための法律で、EUからの攻撃にたいして、国民投票を行ってハンガリー国民の意思を表明したい」と国民投票の提案しました。これにたいして、カラチョニィ市長は「オルバン首相が国民投票を実施するなら、(反対運動が起こっている)復旦大学建設の是非についても国民投票を推進する」と述べています。
 来年の総選挙を控え、政府はあらゆる手段を使って野党の政権奪還を阻止する構えです。野党との攻防が激しさを増しています。

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/

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