政権への逆風にプーチンばりの政治抑圧発言で墓穴を掘るハンガリー・オルバン首相

「この恋、禁止」  ―ハンガリー紙より(左・オルバン首相、右・プーチン大統領)

3月15日の対ハプスブルグ独立戦争記念日で、オルバン首相は政権を批判する「政治家、裁判官、ジャーナリスト」を外国のお金で買収された「虫けら」と呼び、「復活祭の大掃除でこの虫けらどもを追い払う」と宣言した。まさにプーチン張りの強権的姿勢を示し、17日の国会では「集会の自由」を規制する法律を提案し、翌18日には性的少数者の恒例のデモを禁止することを決定した。
この国会での採決に当たって、欧州委員会は平和的な集会を禁止するのは国民の基本的な権利を侵害し、顔認証で集会参加者を特定する行為はIT技術の乱用だとして憂慮を示したが、Fidesz(「フィデス」・キリスト教民主国民党)政権は採決を強行した。この採決に反対するグループはマルギット橋の占拠を始めようとしたところ、政府側は大量の警察官を配置し、周辺一帯を通行止めにし、デモ隊が橋を占拠するのを防ごうとして、夕方から深夜まで、マルギット橋は通行止めになった。

オルバン首相の指名を受けて就任したシュヨク大統領にデモ隊は署名を拒否するように要請したが、シュヨク氏は採決の夜に署名したと報道されている。現大統領はオルバン首相の操り人形である。

ところで冒頭で触れた3月15日オルバン首相の演説だが、「虫けら」に触れた部分は以下の通りである。

„Felszámoljuk a pénzügyi gépezetet, amely korrupt dollárokból vásárolt meg politikusokat, bírókat, újságírókat, álcivil szervezeteket. Átteleltek a poloskák!”
腐敗したドルで買収された政治家、裁判官、ジャーナリスト、NGO組織を支える資金源を断つ。虫けらどもを退治する

政権批判者を「虫けら」と表現したオルバン首相の演説部分は大きな反響を呼び、その独裁的権威主義を批判する論調が世論の大勢を占めた。これに慌てた首相官邸はすぐにメッセージを発し、オルバン首相の真意はマジャル・ピーテルとティサ党を念頭に置いたものだと弁明したが、実際に発せられた文言は政府批判者全体に向けられたものだと、厳しい批判に晒されている。反Fideszの社会状況が高まっていることに危機感を感じたオルバンが、焦って、プーチンやトランプ張りの強権的発言をしたと捉えられている。

Google Trend Serviceのデータによれば、オルバン首相の発言からほどなく、poloska(虫けら)の検索数が急増し、ネットの関心動向が高まった。

出所:Googleからのデータ提供を受けて、HVGが作成。

セルビアでは親ロシア親中国の政府に対して、激しい抗議行動が展開されており、すでに首相は辞任したが、大統領は強硬姿勢を崩しておらず、政治的対立が深まっている。また、ルーマニアの大統領選挙では当選した候補がロシアの支援を受けたとして再選挙が決定され、ロシアが支援した候補は立候補を禁止された。

こうした周辺諸国の動きと、ハンガリー内部の反Fidesz勢力の伸長はオルバン政権に危機感を抱かせるものであり、あらゆる手段を使って政権維持を図ろうとする焦りが、オルバン首相の強硬発言となった。

与党政治家は、Fidesz政権批判者を西欧の支援を受けた「ドル左翼」とも名付けているが、当のFidesz政権幹部がロシアや中国あるいは中東諸国から裏金を得ていることや、オルバン首相の一存で、欧州の右派政党にハンガリーから銀行融資を実行し、マケドニアやアフリカ諸国に輸銀資金を流している自己矛盾には口を閉ざしている。

Fidesz政治家や政府閣僚の腐敗が蔓延しており、120万票と目されるFideszの岩盤支持層以外は、反Fidesz反オルバンが顕著になっており、Fidesz政権幹部は危機感を抱かざるを得ない状況になっている。

これに加えて、3月に退任したマトルチ国立銀行総裁ファミリーの汚職と腐敗が暴露されつつあり、Fidesz政府がこれにどう対処するのかが注目される。

マトルチ総裁は12年間の任期中に、国立銀行の資産を運用する基金を設立し、数千億Ft(フオリント)、およそ1000億円の銀行資産を基金に移した。会計検査院はマトルチ総裁の任期切れを契機に、基金の資産運用状況を検査した結果、基金の資産額は激減していることが判明した。各種の投資ファンドへ基金の資産を流し、その残高が大きく目減りしていることが分かった。この基金資産の流出にかかわっているのが、マトルチ総裁の息子マトルチ・アーダムである。彼と周辺の実業家が結託して複雑なファンド網を構築し、資金を流出させていたとみられる。その資金の一部は私的な投資に流用されているとみなされている。この点については、「ブダペスト通信」(https://www.morita-from-hungary.com/j-07/07-01/2023/230125_003.pdf)でも扱っており、ハンガリーでは公然の秘密として知られている。

マトルチファミリーの汚職はこれにとどまらない。800億Ftの予算をかけた国立銀行改修工事はアーダムの友人ショムライ・バーリントが経営する建設会社に委託され、アーダムはその見返りにバラトン湖畔の別荘を建築させるなど、相互に利益を分け合う仕組みを作っていた。ショムライ・バーリントが巨額の利益を上げ、数千万円もするスポーツカーや超高級腕時計を所有していることも、明らかになっている。マトルチ・アーダムとショムライが他の実業家と共同で、プライヴェット・ジェットを共用し、ニューヨークに4000万ドルの高級マンションを共同所有していることも暴露されている。これらの資金源は国立銀行の改修工事費用と国立銀行が設立した基金から流出したものだと考えられる。

新たに総裁に就任したヴァルガ総裁(前財務相)は基金幹部を更迭したが、基金を巡る不祥事にどのように対処すべきかについて、Fidesz政権はいまだ決断していない。会計検査院は容疑者不詳で、基金の資産流出を告訴したが、検察のトップは20年近くにわたってFidesz政権を支えてきた人物である。オルバンの同意がなければ、捜査を始めることができない。また、マトルチ一家への捜査を始めると、Fidesz政権幹部への腐敗疑惑ブーメランが起き、他方でマトルチ一家がFidesz幹部の機密の腐敗報を暴露する恐れもあるから、簡単に強制捜査に入ることができないだろう。
(2025年3月21日)

初出:「リベラル21」2025.03.25より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
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