政権与党の一つの金蔓 ― ハンガリーの場合

 ここ数日、ハンガリーでは、公益財団形態で運営されている大学について、EUの教育助成システムである「エラスムス・プラス」と科学研究イニシアティヴ「ホライズン・ヨーロッパ」の新規契約が停止されるという欧州委員会の決定をめぐって、大騒ぎになっています。これはEU補助金支給をめぐる17項目の是正勧告のうちの一つで、「大臣や次官など政府の要人は大学評議会に加わってはならない」という条件充足に違反するので、昨年12月15日以降の新規募集契約を停止するという措置です。

 ハンガリーでは大学の運営形態を国家所有から公益財団所有に変えて、大学運営のトップに評議会を設置するという改革が行われています。現在、この形態で運営されている大学は21校あり、その評議会に政府の要人(大臣と高級官僚)が14名も参加しています。これは大学運営に政権政党が影響を与える可能性があり、腐敗の温床になるという観点から、欧州委員会が是正を求めている問題です。ヴァルガ法務大臣はミシュコルツ大学評議会委員長(報酬額月額140万Ft[フォリント・1Ft=0.35円])、スィーヤルトー対外経済外務大臣はジュール大学評議会委員(報酬額月額150万Ft)、ナヴラチッチ無任所大臣(EU補助金担当)がパンノン大学評議会委員長に就任しているほか、政権政党の政治家や政務次官が評議会メンバーになっていると報道されています。

 これまで政権政党のFidesz[フィデス=ハンガリー市民同盟]は一つの戦略として、種々の公益財団を設立して一定の公的資金や国家資産を流し、その運営に政権幹部の息のかかった人物を据え、ほとぼりが冷めたころに財団を清算し、政権に近い事業者に売却するという手口を使ってきました。大学の場合は、評議会を通して大学に影響を与え、政権に忖度させる手法をとっています。これによって、大学内部の人事に影響を与えることができます。

 オルバン首相は今日のラジオ番組で、例のごとく、「EUはハンガリーの政権交代を狙って攻撃しており、われわれはそれに屈することはない。EUが奨学金を出さないなら、ハンガリーの国家予算で奨学金を出すので、学生は心配いらない」と述べています。ここでも、EUの攻撃からハンガリーを守ることを強調する愛国者を演じています。

 しかし、ハンガリーの政権与党の腐敗については次第に国民が知る状況になっています。改装が進むゲレルトホテルは、オルバン首相の女婿ティボルツ所有の会社に買収されることになりました。政権交代が起きた場合の腐敗捜査を免れるために、ティボルツ一家は昨年の総選挙前にスペイン・マルベーリャに移住し、そこでホテル経営を行うということでしたが、Fidesz勝利の後にハンガリーに戻り、再び活発に事業を拡大しています。「財産をもたないオルバン首相ほどのピューリタンはいない」とおべんちゃらを使うFidesz政治家もいますが、家族を含め、周辺には国家資金と国家資産の優先的配分で焼け太りした政治家や実業家で囲まれています。本人が直接手を下すことをしないだけですから、これはやくざの親分の手口と同じです。

初出 :「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/

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