敗戦を実感する夏に!

著者: 加藤哲郎 かとうてつろう : 一橋大学名誉教授・早稲田大学客員教授
タグ: ,

加藤哲郎2013011502かと 2014.8.1  ようやく夏らしくなりました。この間も集中豪雨や土砂崩れで、多くの被害や犠牲者がでました。地震もありました。活断層に加えて火山の噴火もありうる鹿児島川内原発の再稼働に、原子力規制委員会のゴーサインが出ました。安倍首相は「世界一の安全基準」などと再稼働と原発輸出に前のめりです。さすがに規制委員会の方は、そこまで責任は持てないようですが。この国が2011年3月11日の未曾有の悲劇に遭遇してから、お盆でも送り灯籠で祈れない行方不明者が、まだ2600人もいます。福島第一原発メルトダウンで故郷を追われ、仮設住宅に避難している人や、県外に出た人々が26万人、こうした事態をそのままにして、住民避難計画も出来ていないのに、再び「安全神話」を復活して、いいのでしょうか。福島原発事故の刑事責任について、検察審査会は、勝俣元東電会長ら3人を起訴すべきと議決しました。当然のことです。関西電力大飯原発の運転差し止め訴訟での福井地裁判決を、もう一度かみしめましょう。すでに英語・中国語・韓国語にも翻訳されて、世界に広がっています。志賀原発訴訟や川内原発差し止め訴訟でも、原告団によって活用されています。電力料金を使った関西電力の政界工作も、元副社長の証言ではっきりしてきました。原発が止り再生エネルギーに向かう夏を、来年以降も味わえるように、電力会社や「原子力村」の責任追及を続けていきたいものです。

かと 夏と言えば、この国では、1945年の敗戦をかみしめる季節です。とはいえ、その体験を持っている人は。もう生存人口の2割、かくいう私も、戦後に、文学や映画やテレビで追体験した世代です。それでも8月の夏休みになると、大人たちの話や、ヒロシマ、ナガサキ、8月15日に、戦争の悲惨を知るいろいろな機会があって、具体的なイメージを持てたものです。朝鮮戦争は覚えていませんが、ベトナム戦争がアジアで続いていて、過去の日本の戦争のイメージを、同時代の戦争の具体的姿に投影して、平和の重要性を教えられたものです。もちろんそこにも問題があり、今日同じ敗戦国ドイツとの対比で韓国・中国から批判されているように、ヒロシマ原爆体験・アメリカ占領体験が強烈であったがゆえに、戦争責任追及の甘さを自覚できず、朝鮮半島・台湾の植民地化や中国侵略について思いをめぐらすようになるのは、大学に入って、日韓条約が問題になってからでした。その後、自分自身が研究するようになって、沖縄米軍基地や、戦争の条件となる貧困・格差・差別・偏見をなくしていく重要性、安倍首相の用法とは正反対の意味での「積極的平和主義」の大切さを、学んできました。昨年末刊行の『日本の社会主義ーー原爆反対・原発推進の論理』(岩波現代全書)本文末尾では、社会主義勢力・革新勢力を含む戦後日本人の平和意識の問題点を、米国9・11の時にまとめた、①アジアへの戦争責任・加害者認識の欠如、②経済成長に従属した「紛争巻き込まれ拒否意識」、③沖縄の忘却、④現存社会主義への平和勢力幻想に、3・11を体験して、⑤原爆反対と原発推進を使い分ける二枚舌の「被爆国」、を加えておきました。幸い今年の8月も、テレビや新聞では、敗戦の歴史を語り継ぎ追体験する特集が、多数組まれているようです。赤坂真理さん『東京プリズン』のような文学作品も出ていますから、次の戦争の足音が聞こえる今こそ、日本の敗戦体験を、ウクライナやガザに重ね合わせて、実感できる夏にしたいものです。

かと もっとも私自身は、この季節は外国で、今年もアメリカ国立公文書館等の「国際歴史探偵」です。その成果の一端は、東京大学出版会から工藤章・田嶋信雄編『戦後日独関係史』として刊行され、私も井関正久・中央大学教授と共著で「戦後日本の知識人とドイツ」を寄稿しています。ご笑覧ください。収集資料そのものも、現代史料出版から、加藤哲郎編集・解説『CIA日本人ファイル』全12巻を編纂して第一期6巻セットが発売されましたが、何分セットで20万円をこえる高価な英文資料集ですので、ぜひ図書館等にリクエストしてご利用下さい。3月刊の 『ゾルゲ事件ーー覆された神話』(平凡社新書)の裏話を含め、この20年の現代史研究・情報戦研究の軌跡を、法政大学『大原社会問題研究所雑誌』最新8月号で、「『国際歴史探偵』の20年ーー世界の歴史資料館から」として、発表しています。講演記録で読みやすいですし、『大原雑誌』はデジタルで読める日本では最先端の雑誌ですから、ぜひご参照ください。もっともまだ発売前ですが、あらかじめお断りしておくと、その講演記録で、イギリス国立公文書館の略称を、「TNA(The National Archives)」ではなく「BA(British Archives)」 と表記してしまいました。訂正しておきます。今回の更新では、ニュースのリンクを入れていません。前回更新時にお伝えした本サイトへのサイバー攻撃は、どうもファイルそのものの書き換えではなく、無線LANのセキュリティの甘さを衝いて、トップページのリンク先や収蔵ファイルのリンク切れURLを、詐欺サイトやアダルトサイトにつなぐ手法だった形跡があります。LANシステムを作り替え、新たに強力なセキュリティ・ソフトを導入しましたので、大丈夫とは思いますが、リンクを最小限にしてみました。これらの問題を、アメリカに滞在して、外からチェックする予定です。8月15日は、まだワシントンDC滞在中ですので、次回更新は、9月1日に予定しておきます。

 

初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye2730:140802〕