―八ヶ岳山麓から(445)―
いま日本には左翼政党は共産党しかない。だがこの党は停滞というよりは衰弱している。革新リベラル派にとっても大きな問題である。共産党が社会党同様、このままずるずる自然死への道をずり落ちてゆくのをみるのは忍び難い。何とか立ち直ってほしいと願うこと切である。
この10月5,6日、共産党の第9回中央委員会総会(9中総)が開かれた。
志位和夫幹部会委員長の「あいさつ」は、「第29回党大会成功、総選挙躍進をめざす党勢拡大・世代的継承の大運動」を全支部・全党員の運動に発展させ、「130%の党」という目標を達成するために意思統一をはかる、そのために全党の支部・グループに送る「第二の手紙」を提案する」というものであった。
そこには、いつものことだが、なぜ党勢が20数年間後退し続けているか、なぜ衰退の歯止めが利かないか、なぜ反転攻勢に出られないのかという分析ないしは自己批判が欠落していた。
志位氏は「あいさつ」で「反共主義」の攻勢を強調した。それが党勢不振の原因だといいたいようであった。だが、右からの反共産党宣伝は昔からのことで、それが今になって激しくなったというわけではない。党衰退の原因にふれないわけは、20年にわたる志位・小池体制の責任問題が浮上するからであろう。
以下、「9中総」について気が付いたところを数点述べる。
志位氏の目標とする130%の党勢拡大だが、これは来年1月の党大会までには実現しないと思う。いや、現状維持も難しいだろう。簡単な理由を一つ挙げよう。ここに内閣府がおこなった「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」がある(2022・11月実施、23・03公表)。
問 14. あなたは、日本の安全を守るためには、日米安全保障条約と自衛隊の防衛はどうあるべきだと思 いますか。
・日米安全保障条約を続け、自衛隊で日本の安全を守るべきである 90.9%
・日米安全保障条約をやめて、自衛隊だけで日本の安全を守るべきである 5.6%
・日米安全保障条約をやめて、自衛隊も縮小または廃止するべきである 1.6%
日本人の90%強が日米安保体制と自衛隊の存在を容認しているのである。この現体制肯定の人々をどうやったら共産党の支持者に変えることができるかが、党中央幹部の知恵の見せ所だ。
ところが、それに取り組むことなしに、このところ機関紙「赤旗」は、日米安保体制からの離脱と自衛隊解消が党の基本路線だと強調している。今年2月の記者会見でも、志位氏は「(在日米軍は)海外に『殴り込み』をかける部隊が中心です。日本を守っている『抑止力』だという考え方は根本からとっておりません」と発言した。
しかし、共産党の安保政策は、8年前からついこの間まではそうではなかった。
当の志位氏によれば、共産党が参加する「国民連合政府」は、日米安保条約の廃棄はめざさない、日本に対する武力攻撃が発生した場合には自衛隊を活用し、安保条約第5条を発動して日米で共同対処するというものであった(2015・10・15、外国人特派員協会での発言)。これでは、誰が見ても共産党は在日米軍を「抑止力」としていたとしか思えない。突然のこの逆転についての説明はない。
こうぶれては、90%をしめる現状肯定の壁を切り崩すことはできない。日米安保をやめるとする7.2%の人も(私もそうだが)途惑うだろう。
共産党は、これに似た不可解な政策上・理論上の転換あるいは「揺らぎ」を何度かやってきた。わたしは、これが同党に対する支持が増えない遠因になっているとおもう。
以前触れたことがあるが、2004年綱領では、中国・ベトナム・キューバを「社会主義をめざす新しい探求が開始された国」としたが、全く根拠がなかった。2020年になって、中国が大国主義に変ったからとして、この現実離れした評価を取消した(ベトナム・キューバはそっちのけだが、それでいいのか)。
だが、中国共産党の政治は、少なくともこの30数年間、対外的には大国主義、国内的には新自由主義・権威主義で一貫している。2004年以後変化したのではない。
しかも、氏は中国の経済体制をどう見るかについては、「政党が判断するのは内政干渉になるから」と、理解不可能な理由で評価を避けている。共産党が中国をどう見ているかは、世論の注目するところである。腰が引けていてはまずいのではないか。
次期29回大会には、もっとしっかりした理論構築をして臨んでもらいたい。
次期党大会の焦点は、なんといっても在任期間20年余の志位氏をはじめとする最高幹部の人事である。先日これをさる友人の党員に聞いたら、92歳の不破氏は名誉役員入りするだろうが、志位氏は委員長を辞めて、代わりに田村智子副委員長が昇格するんじゃないかといった。
田村氏は安倍晋三氏の「桜を見る会」のスキャンダルを明らかにした時の責任者で、能力のある人である。だが、小池書記局長による田村自身に対するパワハラを、それと意識しなかったというから疑問は残る。それに重要な発言を上からの指示があると、素直に取消すという「優等生」である。志位氏や小池氏が辞任して常任幹部会に残ったとき、院政が敷かれる可能性は十分にある。
しかし、指導部交代はないという、もうひとつの可能性も否定できない。「路線が正しいのだから辞任する必要はない」という論理が共産党には通用するからである。
次期党大会の隠されたテーマは、党規約違反を問われて除名された「かもがわ出版」編集主幹松竹伸幸氏の復党問題である。
松竹氏は、党首公選や「核抑止抜きの専守防衛論」を主張したこと、鈴木元氏と出版を打ち合わせたことなどは、2000年に改定された党規約に違反してはいないとし、氏の「核抑止抜きの専守防衛論」は、綱領に違反していないし、不破・志位両氏が敷いた安保路線の延長上にあることを精力的に訴えている。
だが、大会で氏の復党が認められる可能性はまったくない。そんなことをしたら、共産党は解党の危機に瀕する。松竹氏は党本部勤務員だったのだから、これは百も承知であろう。
広原盛明氏は本欄(2023・10・04)でいみじくも以下のように言っておられる。
「長年にわたって形成されてきた党の歴史的体質は、党幹部一人ひとりの身体の血肉と化しているため、党規約が変わっても既存体制が抜本的に刷新されなければ、組織実態や運営方法がそう簡単に変わるわけにはいかない。『党規約を変えた』からといって、『党は新しく生まれ変わった』 というわけにはいかないのである」
松竹復党問題はこれに尽きる。 (2023・10・10)
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