日米首脳会談、中国の反応

――八ヶ岳山麓から(467)――

日米首脳会談の中身
 4月11日、日米首脳は共同声明を発表した。その要旨はほぼ以下のようなものだった(信濃毎日新聞2024・04・13)。
 〇南シナ海での中国の危険かつ攻撃的な行動に深刻な懸念を示す。
 〇尖閣諸島を含む東シナ海での一方的な現状変更の試みに強く反対する。
 〇自衛隊と米比両軍の海上共同訓練を拡充し3ヶ国の人道支援・災害対応訓練を創設する。
 〇海上保安機関同士の合同訓練を実施し、日米海洋協議を創設する。
 〇経済的威圧に連携して対応し、重要鉱物のサプライチェーン構築や、フィリピンのインフラ整備に協力する。

 さらに岸田首相はアメリカ連邦議会の演説と共同記者会見で、日米が法の支配・自由で開かれた国際秩序・平和の維持のためにコミットメントすることは決定的な課題だ、日米同盟の抑止力の一層強化が急務であるとし、中国の力や威圧による一方的な現状変更の試みに強く反対すると発言した。
 ひとくちでいえば、日米首脳の合意なるものは、中国・北朝鮮を仮想敵にした抑止力の強化とともに、自衛隊の指揮権を危うくしつつ自衛隊と在日米軍の一体化を進めたものである。
予想通り、中国外交部はこれを激しく非難した。

中国海軍の見方
 日米首脳会談に関する中国メディアの批判記事のうち、わたしが気になったのは4月12日付環球時報に掲載された「日米の防衛産業基盤の『統合』はアジア太平洋に悪影響を及ぼす」という論文である。
 論文の著者張軍社氏は、環球時報では「海軍軍事専門家」としかしていないが、海軍司令部参謀、駐米中国大使館駐在副武官を歴任しており、軍事学術研究所研究員・海軍大佐であり、長年国家安全・軍事戦略・中米関係を研究してきた人物である(中国検索エンジン「百度」)。
 環球時報は中国共産党機関紙人民日報傘下の国際紙なので、この論文によって中国が日米首脳会談のどこに注目したかおよその見当がつく。

張論文の主旨は次の通り
 「一部のメディアによれば、同盟国である日米両国は、防衛産業の能力を統合するため、これまでにない取り組みを行う。さらに、両者の協力は、日本の造船所における米海軍艦船の修理にとどまらず、(アメリカの要求によって)将来的には弾薬、航空機、艦船の共同開発・生産にも及ぶだろう」
 「日本は、防衛産業基盤の『統合』、殺傷力のある武器・弾薬の研究・開発・生産など、『軍事的統合』を達成しようとする米国の企てに積極的に追随し、戦略的ライバル(すなわち中国・北朝鮮)を抑制・抑圧するためのアメリカの橋頭堡となることを厭わない」
張氏は、日本が軍備を増強し、かつ米軍の兵站基地として強力な存在になることを指摘して、「アジア太平洋地域における将来の軍事介入と戦争に備えるものであり、地域の平和と安定に深刻な脅威をもたらすもの」と判断している。

日米海軍の増強に対して
 張軍社氏は、なぜ兵器のほか兵站(後方支援)までふくめた戦闘力全体を問題にしたか。わたしは、その背景には、海上自衛隊護衛艦の「空母化」が微妙に影響したものと思う。
 日米首脳会談に先立つ4月8日、中国外交部が護衛艦の航空母艦への改造を憲法違反の「攻撃型空母化」として激しく非難したとつたえられた。もちろん、林官房長官はこれを「自衛型」の改修と説明したが、「自衛型空母」の存在など信じられるわけはなく、「空母化」に対する中国の非難は今日まで続いている。
 日本では、護衛艦最大のいずも型の「かが」(基準排水量1万9950トン)は戦闘機を発着艦させるための改修がおわって「空母化」し、試験航海を始めた。すでに「いずも」は耐熱強化や標識の塗装などの第1次改修を終えており、24年度以降、艦首の形状を変えるなど第2次改修に入るという状況にある(Wikipedia)。

 一方、中国は習近平総書記の指示にしたがって潜水艦建造など戦力の増強に励み、すでに空母「遼寧」「山東」を航行させ、「福建」を建造中である。だが、日本が空母を持つとなれば、中国はさらにこれに対応しなければならない。張軍社氏ならずとも、東アジアにおける戦闘能力のバランスの変化に神経質になるのは自然のなりゆきである。
 『中国「軍事強国」の夢』の著者でタカ派軍人として知られる劉明福氏は、著書の中で「海洋が中国の未来戦争にとっての主戦場になる。なぜならば、海洋の安全保障が中国の経済安全保障にとっての生命線になっているからだ」と発言している(邦訳 文春新書 2023・09)。
 中国海軍高官2人の軍事情勢に関する基本的認識はほぼ共通したものであろう。とすれば、南・東シナ海、台湾水域での軍事衝突を当然のものとした、兵器・兵站を含めた極めて実践的な議論になるのは自然のなりゆきである。

“中国が強力な国防力を持つことは当然である”
 張軍社氏は終りに、日米に対する中国の軍備は正当なものだと主張する。
 その理由は、「新中国建国以来、中国は他国を侵略したことはなく、代理戦争を行ったこともなく、勢力圏を求めたこともなく、軍事ブロックと対立したこともない」だから、日米両首脳がいうような「中国の脅威」など存在しないというものだ。
 また、中国は1840年のアヘン戦争以来、日本をはじめ列強の幾多の侵略を被ってきた。だから「中国が強力な防衛力なしでは、真の意味での中華民族の偉大な興隆を達成することは不可能であることは、歴史が証明している。中国の軍事力の発展は、国の主権、安全保障、発展の利益をよりよく守るためだけのものである」というのである。

 われわれは、「中国の脅威」を南・東シナ海で目の前で見ているし、冷戦・中ソ対立・中印国境紛争、それに1979年の中越戦争を知っている。だから、こういう理屈を中共機関紙で堂々と主張されると、わたしも4月19日付当ブログの田畑光永氏の論評と同じく、「習近平の総書記三選以来の中国はどうも様子がおかしい」という感想を持たないわけにはいかない。
 だが、中国は軍備を増強するのは当然で、日本がそうするのは犯罪的だという見方は、中国国民の多数の意見であることも知らなければならない。だからこそ、互いに引っ込みがつかなくなる前に、日本は対中国外交における努力が必要だと考えるのである。                                   (2024・04・19)

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