――八ヶ岳山麓から(379)――
5月24日、岸田文雄首相とバイデン米大統領との会談があった。両首脳は「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、日米同盟の深化が重要になっている、との認識を共有したという。双方、軍事費を増やし、核抑止力を強化し、沖縄の辺野古基地建設を続けるのが、同盟の深化とのことである。日本は、アメリカとともに「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」を組織し、安保と経済との両方で「中国締めつけ」強化に乗り出した。
数年前安倍晋三内閣がアメリカに追随して中国包囲網を作ろうとしたとき、当時の外相は岸田文雄氏でASEAN諸国に精力的に働きかけたが、中国の外交的・経済的影響力に太刀打ちできず、成功しなかった。
その岸田氏が内閣総理大臣になって、共同声明で「日米が国際秩序を主導する」というのだから、中国にしたら身構えずにはいられないだろう。
さらに共同記者会見で、バイデン氏は中国の台湾「武力解放」にたいしてアメリカは軍事介入するかとの質問に、明確に「YES」と答えた。アメリカ大統領府があわてて台湾にかんする「あいまい」政策の継続をあきらかにしたものの、バイデン氏の「YES」は意図的な発言である。
ロシアのウクライナ侵略が危惧されたとき、バイデン氏の「ロシアがウクライナに侵入しても米軍は出さない」と言ったことがプーチンに間違ったメッセージを送ったという反省があったからであろう。
中国はただちに激しい怒りを表明した。外交部報道官は24日の定例記者会見で、「国家の主権・安全保障・発展上の利益を守る中国の決意と意志は盤石だ。台湾地区問題は中国の主権及び領土的一体性に関わり、中国の核心的利益に関わる。『台湾カード』を切り『台湾を利用して中国を牽制する』いかなる国や勢力の企てに対しても、中国は断固たる力強い対抗を行う」と言明した。
日本に対しては、「中国は釣魚島及びその附属島嶼(尖閣諸島)に対して争う余地のない主権を有しており、関連海域での中国側の活動は完全に正当かつ合法だ」と、尖閣諸島をめぐる行動を正当化した。アメリカの腰ぎんちゃくのくせに生意気をいうなといいたいのであろう。
またアメリカが正式に発足を宣言したIPEFについては、中国外交部報道官は23日の定例記者会見こう発言していた。
「米国は経済問題を政治化、武器化、イデオロギー化し、経済的手段を用いて、地域諸国に中・米間の陣営選択を迫っているのか?この点について米国は地域諸国に明確に説明する必要がある。人為的に経済的デカップリング、技術封鎖、産業チェーンの断絶を作り出し、サプライチェーンの危機を激化させることは、世界に深刻な結果をもたらすだけだ」
「アジア太平洋の陣営化、NATO化、冷戦化を企てる様々な陰謀がその目的を達成することはできない」(以上、「人民網日本語版」2022・05・24)
ご覧のように、中国はIPEFあるいはクアッドのNATO化を警戒しているのである。ところが、「アジア太平洋に軍事ブロックと陣営対立を持ち込む企てを断固拒絶する」といいつつも、5月30日には王毅外交部長がフィジーで太平洋島嶼国10ヶ国の外相との会合を開催した。中国が策定し提案した貿易と安全保障に関する声明には一部の国が慎重姿勢を示し合意に至らなかったというが、これら諸国を中国側に取込もうということだ。この中国の努力はこれからも続くだろう(ロイター、2002・05・30)。
日米共同声明も、バイデン氏の「YES」もIPEFも、日米印濠のクアッドもウクライナ戦争を睨んでのことである。だが、アメリカにせよ日本にせよ、中国に対して警戒心を持つことまではともかく、このように敵対意識をむき出しにして緊張を高めていいものだろうか。
そもそも中国は、アメリカの輸入相手国第一位、輸出相手国第3位であり、日本とオーストラリアの最大の貿易相手国である。日米首脳は、ロシアの10倍のGDPをもつ巨大な市場との近未来の関係をどう考えているのだろうか。
そしてわたしの関心は、革新・護憲勢力が米中関係の険悪化にどう対処するのが適切かというところにある。
5月24日の「赤旗」は「『力には力』世界に宣言――志位委員長が批判」と伝えた。志位氏は日米両国首脳による記者会見について「相手が軍事力できたのに対し、軍事同盟や軍事力の強化、大軍拡で応えることになり危険だ」と批判した。いつもの「正しい」主張である。
共産党だけでなく、九条の会などの護憲団体も核兵器反対運動の組織も、これまで「軍事力に対して軍事力で対応する」のは安全保障のジレンマに陥るとか、「(相手国に対して)通常兵器であれ、核兵器であれ、軍事的抑止力で対応するという立場を私たちは断固拒否する」といって軍拡に反対してきた。
革新・護憲勢力は平和への具体的な道を示せ
ところが、現状は有権者の多くが「軍拡に対しては外交で応じる」とか「戦争を未然に防ぐ外交努力こそ必要」などという抽象的な「正論」を受け入れる心理状態にない。
我々は今、非力のウクライナ人が祖国防衛のために戦っている、その悲惨なありさまを毎日みている。日本人の関心は、いつになく安全保障に傾いている。中国の尖閣占領とか台湾有事の際、具体的にどう対処すればいいのかという疑問ないし不安は、多くの有権者が抱いている。革新勢力の指導者には国民のこの感情を知ってほしい。
だから革新勢力は東アジアの緊張緩和のために、どんな外交を展開すべきか、有権者に具体的な提案をしなければならない。
たとえば、日本政府に対して、「ともすれば対中国強硬策を取ろうとするバイデン氏を抑え、習近平氏に対しては台湾人の大多数が大陸との統一を望むまで待てと説得するよう要求する」とか……。もちろん敗戦から今日まで、日本には対米従属のほか、自立した外交が存在しなかったから、中国は笑うかもしれない、アメリカもあきれるかもしれない。
だが、日本は東アジアの平和で安定した国際関係のために尽力するだけの潜在的力量を持っていると私は考える。保守であれ野党連合であれ、日本の政府に独立国家としてふるまう強固な意志がありさえすればやれないことではない。
来る参院選を控えて、革新・護憲勢力は平和への具体的な道があることを有権者に知らせることが、いま必要だと重ねて主張したい。
(2022・05・31)
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