日韓両国の友好的協議での解決めざせ! - 国際司法裁判所へ提訴しても日本は勝てないかも 韓国最高裁の元徴用工や挺身隊への賠償命令確定 -

 韓国大法院(最高裁判所)は、10月30日、第2次世界大戦中に、日本本土の工場に動員された韓国人の元徴用工4人が、新日鉄住金に損害賠償を求めた訴訟の上告審で、同社に一人当たり1億ウォン(約1千万円)支払いを命じる判決を下した。さらに大法院は11月29日、広島と名古屋の三菱重工業の軍事工場で働かされた韓国人の徴用工や女子挺身隊らが、同社に損害賠償を求めた2件の訴訟の上告審で、原告10人(うち5人は死亡)にそれぞれ8千万~1億5千万ウォン(約800万~1500万円)支払いの賠償を命じる判決を下した。いずれも判決は最終確定した。
 日韓両国政府は1965年、日韓請求権協定に合意調印した。同協定の作成交渉では、元徴用工らに対する日本側の補償措置の算定額が対立したまま、秘密交渉で有償・無償計5億ドルの経済協力で合意、実行された。
 同協定の第2条では「両国は両国及びその国民(法人を含む)の財産、権利及び利益、並びに両国及び両国民の間の請求権に関する問題が、完全かつ最終的に解決されたことを確認する」(協定文の一部簡略化)としている。
 この重要な条項について、韓国大法院も政府も、国家としての請求権は消滅したが、被害者個人の請求権は生きているという立場を確立している。一方、日本政府側は政府間の請求権は消滅しているが、個人の請求権が消滅したとは断定していない。その点について12月15日の朝日新聞は見出し「文氏、日本と協議の意向」の記事の中で「日本政府も個人請求権は消滅していないとの考えだが、元徴用工や元女子勤労挺身隊員らに対する補償問題は協定で『解決済み』との立場を取る」と書いている。
 しかし、今回の3件の最高裁判決に日本政府は激しく反発した。河野外相は11月29日「国交正常化以来築いてきた日韓の友好的協力関係の法的基盤を根底から覆すもので、極めて遺憾であり、断じて受け入れることはできない」「ただちに国際法違反の状態を是正することを含め、適切な措置を講ずることを重ねて強く求める」「国際裁判や対抗措置も含めあらゆる選択肢を視野に入れ、きぜんとした対応を講ずる考えだ」との談話を発表した。
 これに対して韓国側は、大法院判決を振りかざして日本政府に実行を迫るのではなく、文在寅大統領は12月14日、「1065年(日韓請求権)協定は有効だが、個人請求権は消滅していない」と述べ、両国で協議していきたいとの考えを示した。
 日本政府側の主張はあくまで1965年の日韓請求権協定で、元徴用工らに対する補償問題は解決済みの立場だ。しかし、今回の判決の後にも、個人の請求権に基づく賠償要求の裁判が他にも控えている。14日には下級審の光州地裁が、戦時中に女子勤労挺身隊員として名古屋の飛行機工場に動員された女性、金さん(80)と別の女性の遺族が三菱重工を相手取って損害賠償を求めた訴訟の控訴審で、同社の控訴を棄却し金さんに1億2千万ウオン(約1200万円)の支払いを命じた。この件も日本側から大法院に上告され、同様な判決が下されるだろう。
 日本側は当初から、菅官房長官も河野外相も、これらの問題は日韓請求権協定第2条で「完全かつ最終的に解決されたことを確認する」としているとして、「国際裁判や対抗措置も含め、毅然とした対応を講ずる」と怒りの発言を繰り返した。しかし、しばらくして「国際裁判」は口にしなくなった。
 そのわけは、今回のような2国間の請求権問題について、国家間の請求権が条約で消滅しても、被害者個人の請求権が失われることはない、という国際法上の判断が次第に有力になっていることを国際法の専門家が忠告したのではないだろうか。韓国大法院が「国家間の請求権が条約によって消滅しても、被害者個人の請求権は消滅しない」との立場は揺るがなくなったのだ。
 もし、この問題を提訴するとすれば、まず国際司法裁判所だが、同裁判所で審議すれば、被害者個人の請求権は1965年の協定では消滅していないという判断が下される可能性が強いのではないか。
 さらに審議の過程では、協定の韓国側当事者である朴正熙政権が61年のクーデターで政権を奪って発足したことと、63年の大統領選挙で“みそぎ”を経て、国民の支持をやっと得たことも審議される可能性もある。国際司法裁判所では、軍事紛争やクーデターで政権を握った政府と他国の条約が、のちに民主的な選挙で成立した政府によって否定されるようなケースも審議されている。国際法の判例集は膨大な冊子だが、条約の正当性を審議した記録が、どれも長く、多い。日韓請求権協定についても、国際司法裁判所に提訴するには、その辺まで覚悟する必要があるだろう。
 さいわい、文韓国大統領は、最高裁判決を実施するための強制的措置を取る姿勢は一切見せず、日本側との協議で事態を解決するよう提案している。日本政府も65年協定を盾にして国民の反韓感情を煽るのではなく、韓国との協議で解決をしなければならない。
 ともかく、日本と韓国は最も近い隣国なのだ。(了)

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