◆2013.6.15 大きな仕事に一段落して、ようやく村上春樹の小説読めるかと思っていたら、合間にいくつか新たな仕事。特に前々回トップで触れた、旧ソ連におけるスターリン粛清の強制収容所と、戦後敗戦国ドイツ・日本・ハンガリー等のソ連の外国人戦争捕虜収容所と、旧ソ連崩壊で明るみに出た核開発・実験の秘密都市・閉鎖都市の地図上の重なりあいです。戦時ドイツ人捕虜の科学者・労働者がソ連の核開発に協力した記録があるので(ホロウェイ『スターリンと原爆』、メドヴェージェフ兄弟『知られざるレーニン』)日本人抑留者にもウラン採掘の強制労働やひょっとしたら科学者の秘密都市への選抜があったのではないかと、6月1日法政大学でのシベリア抑留研究会で発言してみました。日本人抑留者の回想・手記には、時々ドイツ人と同じ収容所で働いた記録、しかもドイツ人がロシア人に生活要求を堂々と主張し待遇がよかったという話が含まれている場合があります。秘密都市の核開発は、移動・通信言論の自由はないものの、給料・住居・食料等の待遇はよかったといいます。
◆たまたま今回の抑留研報告の中心がカザフスタンの日本人収容所で、カザフスタンには今日でも抑留されたまま現地にとどまった日本人がいることが知られていますから、カザフスタンのセミパラチンスク核実験場、その近くの秘密都市クルチャトフ(セミパラチンスク-16)での日本人が出てこないかと期待してきいたのですが、カザフスタンでも核実験・核被害の研究と、戦時強制収容所の研究はわかれているらしく、つながりは見えませんでした。ただし会議後の休憩時間に、何人かの出席者から情報提供をうけました。特に北極海にちかい政治犯収容所、ナリリスク市の抑留者が記憶に基づいて書いた「点望見取略図」には、中央左側に「秘密工場(ウラン濃縮工場か)」とあります(『シベリア抑留画集 きらめく北斗星の下に』)。日本人宿舎は右下方ですが、日本人が直接秘密工場に入れられていたか否かはともかく近接しています。また、片桐俊浩さん『ロシアの旧秘密都市』(ユーラシア研究所ブックレット、東洋書店)を読むと、日本人抑留者が施設・設備を作った収容所が、後に原爆秘密都市になっていく例がみられます。アメリカや日本でも原爆・原発開発工場は秘密裏に、「安全神話」を作りつつ、実際には過疎地に作りました。ソ連はもっと徹底し、「ソ連水爆の父」サハロフ博士によれば「何百人もの奴隷・囚人」=つまり使い捨て労働力によって作られ、ジョレス・メデヴェージェフによれは「原子力収容所」で、ロシア人異端者・刑事犯、外国人捕虜・科学者に危険な被曝労働を担わせることで、1949年の原爆実験、53年の水爆実験、54年オブニンスク原子力発電所を動かしてきたようです。残念ながら、日本の社会主義・共産主義勢力は、このソ連の核開発を「アメリカ帝国主義に対する抑止力」「社会主義でこそ核は平和のために」などといって歓迎し夢見ていたのですが。
◆トルコの政変について、日本のマスコミはもっぱら東京オリンピック開催のライバルの減点みたいな報道ですが、肝心なことがすでに忘れられています。トルコはつい先日安倍首相が出向いて、原発輸出ビジネス第一号を成立させたばかりの相手国です。それも三菱重工と仏アルバの企業連合が発注、つまり先日の日仏首脳会談での「安全な」原子力の売り込みの前触れでした。アベノミクスの成長戦略に「原発の活用」を明記、核拡散防止条約(NPT)未加盟のインドとも原子力協定、本格的な原発再稼働の布石です。しかしトルコ側の受注主はエルドアン首相、つまりこの間の市民のデモの標的で、公園開発を含む性急な開発計画が問題になっているのです。ただしこの間、日本維新の会橋下代表の「慰安婦」問題で国際的には完全に孤立、肝心のアベノミクスの神通力がバブルに終わって、もう始まった都議選も、7月参院選も、「自公の一人勝ち」ではない可能性も出てきました。昨日上智大学での「96条の会」結成大会は大変な盛況だったようですが、そのような力が、安倍政権をストップし、原発再稼働をやめさせるために、政党間でもつくれないんでしょうか。自党の勢力拡大にのみ力をいれて、大局を見失う政党政治には、本当に失望します。
◆この間風邪から体調をくずし、病院通いとベッド生活。3月に上梓した加藤哲郎・井川充雄編『原子力と冷戦ーー日本とアジアの原発導入』(花伝社)の延長で、5月25日明治大学での第275回現代史研究会「原発問題を考える―『原子力平和利用』と科学者の責任」での私の講演「SF(サイエンス・フィクション)としての『原子力平和利用』」は幸い好評で、『つくられた放射線「安全」論』(河出書房新社)の宗教学者島薗進さん「原発の倫理性について」とのジョイントで二人の対論を含め you tube にアップされ、映像で見ることができます。本サイト学術論文データベ ースに、神戸の弁護士深草徹さんから、「憲法9条から見た原発問題」という力作をご寄稿いただきました。この間、私が米国国立公文書館(NARA)で集めてきた日本戦犯資料を使って、心あるジャーナリストの皆さんが、意味ある現代史の再発掘・再検討を進めています。ゾルゲ事件での伊藤律「革命を売る男」説の誤りをただす松本清張の『日本の黒い霧』の改訂については、その後も多くの報道がありますが、『東京新聞』5月28日に決定版ともいうべき解説記事が大きく出ています。また沖縄での米軍対敵諜報部隊CICについては、東京版にはのらなかったのですが、『朝日新聞』西部版5月5日の「人権無視、いつの世まで」という記事で使っていただいたようです。「尋ね人」<新たに見つかった旧ソ連粛清犠牲者「ニシデ・キンサク」「オンドー・モサブロー」「トミカワ・ケイゾー」「前島武夫」「ダテ・ユーサク」について、情報をお寄せ下さい!>は、本サイト情報収集センター(国際歴史探偵)の「旧ソ連日本人粛清犠牲者・候補者」で引き続き情報提供を求めます。上記「ソ連の原水爆開発に使われた抑留者」情報と共に、何か手がかりがありましたら、 katote@ff.iij4u.or.jp まで情報をお寄せください。
「加藤哲郎のネチズンカレッジ」から許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.ne/
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