アキ・カウリスマキは、2002年の『過去のない男』で第55回カンヌ国際映画祭グランプリを受賞し、2017年の『希望のかなた』が第67回ベルリン国際映画祭で銀熊賞受賞、という巨匠です。人口9000人の森と湖の町に、多くの芸術家や文化人、映画好きの労働者が散在し、そこにジャンルや出自を超えて語り合う場をつくった物語です。● 11月の精密検査結果が順調で、主治医から小旅行の許可を得た私は、リハビリを兼ねて、「キノ・ライカ」を、奥多摩・青梅の木造の映画館「シネマネコ」で観てきました。青梅は、昭和ノスタルジックの映画ポスターなどでで町興し中で、「シネマネコ」は「キノ・ライカ」にふさわしい、小さな映画館です。私が本格的に「スターリン主義批判」を始めた時期からの50年来の友人で「同志」である日系フィンランド人篠原敏武さんが、「雪の降る町を」など全編を流れる日本語の歌を唱い、地元に根付いた歌手として出演しています。私は、1985年以降、ヨーロッパ滞在・調査のたびにカルッキラの町を訪れ、滞在してきました。映画の舞台をなつかしく想い出すと共に、生活に根ざした芸術の美しさと逞しさが伝わる秀作に、感動しました。隣国韓国の政治が気にかかる人には「ソウルの春」でしょうが、新年の癒しとリフレッシュには、北欧の「キノ・ライカ」です。皆さんに、強くお勧めします。
● 映画『キノ・ライカ』は、奥能登の大地震に始まり、気候変動がいやでも実感された2024年を締めくくる、ある種の清涼剤、いや、冬景色のなかのぬくもりでした。ウクライナとパレスチナで戦争と虐殺がやまず、世界中で選挙やクーデタによる大きな政治変動が起こりました。移民・難民をめぐるヘイトスピーチやSNSを使ったポピュリズムが、旧来の政党政治や民主主義を揺るがし、相互の信頼と討論にもとづく対話と熟議の政治を脅かしました。「キノ・ライカ」は、そうした世界的流れに、いろいろな国や民族の出身者がフィンランドの岸辺に集い、職業・階級・階層、思想・信条・宗教の違いを越えて、生活に根ざしたまちづくりを地道に進めた、北欧型ローカル・コミュニティの実践を示しています。それは、もともとの政治の原点を、示唆しているようにも思えました。
● 2025年は、第二次世界大戦の独日敗戦による戦後80年です。メディアの特集も多いでしょう。日本政治に即しては、国会の政治改革や韓国・災害の緊急事態がらみで、普通選挙法・治安維持法100年が問題になるでしょう。なにしろ今日の公職選挙法や国会運営の大本は、100年前の「国民」観と制度設計によっていますから。国際秩序も2024年選挙イアーの結果を受けて、大変動になるでしょう。
プーチンや習近平の個人崇拝・独裁に、アメリカ大統領トランプが加わって、20世紀には受動的だった世界のローカル・ナショナル・リージョナルな動きと、対峙しています。逆に、20世紀の大国秩序を揺るがした日本など一部の成り上がり先進国は、新たな国際秩序を引き受ける側に、まわらざるをえないでしょう。トランプの就任直後には、世界の人々の健康と生命に直結するWHO(世界保健機構)脱退、再編がありそうです。すでにOECD統計で、一人あたりGDPは22位、韓国以下に落ち込みました。IMFの統計では、かつて1990年代に世界一の経験もある日本は、32,859ドルで39位、トップのルクセンブルグの3分の1以下で、北欧スウェーデン・フィンランドの6割以下、アジアではシンガポール、香港、台湾、韓国に追い抜かれ、スロバキア、サウジアラビア・クウェートなみです。日本の自公支配の不安定、物価高、財政破綻、為替市場、健康保険証廃止とマイナカード強制等の効果も、世界の大きな変動の従属変数になります。来年も国民生活にとっては厳しい、激動の年になるでしょう。郵便の年賀は失礼します。皆さん、それぞれの足場をしっかりとかためて、自分の家族と生活を守りましょう。 本年もよろしくお願い申し上げます。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
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