最悪だったトランプ政権の中東政策 ―バイデン政権への大きな期待と不安(1)

 トランプ大統領の4年間。米国は中東で、親イスラエル、親サウジアラビア、反イラン、反パレスチナ政策を露骨に推し進め、中東の人々を苦しめ、犠牲の死傷者を大きく増やした。バイデン政権への期待と不安は大きい。ここでは、長年にわたり、主に中東全域からアフガニスタンまで、現地駐在も含め30年以上も報道を続けてきた英BBCのライス・ドウセット記者の報道を主な頼りにしながら、バイデン政権の米国の中東での政策・行動について書いていきたい。現在彼女はBBCのチーフ外国特派員。私自身は、1973年夏に共同通信の(レバノン)ベイルート支局に赴任していらい、中東に関わってきた。ベイルートで助手をしてくれたジャーナリストの友人は、今でもほぼ毎週、ベイルートから近況を伝えてくれている。

 ▼トランプ政権下の米国は一方的にイランとの核合意から撤退。制裁発動
 オバマ政権下の米国をはじめ英独仏中ロ6ヵ国が2015年7月にイランと結んだ、画期的なイランの核開発を制限する取り決め。国際原子力機関(IAEA)の査察の下で、イランが高濃縮ウランや兵器級プルトニウムを15年間は生産しないことと、ウラン濃縮に使われる遠心分離機を大幅に削減する代わりに、米欧が金融制裁や原油取引制限などを緩和した。しかし、トランプ政権下の米国は18年5月に一方的に離脱、イラン産原油の全面禁輸を開始。制裁を再開したため、他の5ヵ国とイランも19年5月から段階的に核合意の履行停止を始めた。これに対しイランは21年、保有するウランの濃縮度を20%に引き上げた。
 以後、米国はサウジアラビア、アラブ首長国連邦を巻き込み、イランの革命防衛隊がサウジのタンカー4隻を攻撃したと主張(イラン政府は否定)、トランプ大統領は米兵1,500人を派遣すると発表するなど、軍事衝突の危機感が高まった。以後、再三にわたって、イラン国内と周辺諸国で、米軍とイラン革命防衛隊の軍事攻撃や暗殺やテロが発生した。これらの事件はすべて、トランプの根深いイラン嫌い、敵視に根ざしていた。
 1978年の王政打倒イラン・イスラム革命後の79年11月に発生した米大使館人質事件。米国に逃れたパーレビ元国王の引き渡しを求める学生たちが米大使館を占拠、外交官らを人質にした。米国は80年4月、人質救出の軍事作戦を決行するが失敗。81年1月、アルジェリアの仲介で人質52人は解放された。トランプのイラン敵視の根源だ。
 トランプ大統領の就任後最初の外国訪問国はサウジアラビア、2017年5月だった。トランプはサウジアラビアとの米国史上最高額1、110億ドルの武器売却協定に調印した。
 ペルシャ湾を挟む両大国はどちらもイスラム教国だが、宗派はスンニ派、シーア派に分かれ、サウジアラビアは親米、イランは反米だ。トランプは最初の外国訪問でサウジアラビア尊重を宣言、サウジのサルマン皇太子は同国史上最高額の武器購入で応えたのだった。

 ▼バイデン政権は対イラン関係改善に慎重
 発足したバイデン新政権は、トランプ前政権が次々とぶち壊した地球温暖化対策のパリ協定や、コロナとの戦いでも国際的な中心となっているWHO(世界保健機関)との協力関係を次々と復活しつつある。しかし、対イラン関係の修復には慎重だ。
 米国側は、まずウラン濃縮停止を要求、イラン側は、まず制裁の全面的な解除を要求している。どちらも、相手国への不信が低くないことが、交渉を難しくしているに違いない。
 しかし、バイデン政権は、トランプ政権とは違う。米・イランの関係改善は遠くないと思う。それが、国際社会の願いだからだ。
 ここでは触れないが、サウジアラビアの南側にある国イエメン(人口2916万人)は、サウジアラビアが背後にある政府側と、イランが背後にあるフーシ派勢力が、前例のないほど凄惨な内戦を続けている。イエメン内戦の解決のためにも、バイデン政権の尽力に期待している。(了)

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