民主的選挙で選ばれたモルシ政権を打倒した(3日)エジプト軍のクーデター後初の金曜日の5日、カイロはじめエジプト全土で、100万人を超えるモルシ支持派が、クーデターに抗議し、大統領の復権を要求して大規模なデモを行った。各地で、反モルシ勢力、治安警察、軍部隊と衝突、保健省によると、警察が襲撃されたシナイ半島を除き、30人が死亡、400人以上が負傷した。モルシが軍に拘留されているカイロの共和国防衛隊本部の前には数万人の支持者が集まり、モルシの解放を要求、軍側の発砲で少なくとも5人が死亡した。
衝突は5日夜までには、ほぼ収まったが、ムスリム同胞団はじめモルシ支持者の多くは夜を徹して集会を続けた。
一方、軍はクーデターが周到に準備されたことを示すように、素早く発表した行程表の実行に着手。モルシ大統領を拘束・解任、12月の国民投票で制定された憲法の停止、暫定大統領にマンスール最高憲法裁判所長官を就任させ、解散中の立法議会(下院)に代わって立法議会の役割を担っている諮問議会(上院)を解散した。今後の工程は、まず首相の任命と組閣で、首相には、反モルシ勢力を束ねた「救国戦線」代表のエルバラダイ元国際原子力機関事務局長の名が挙がっている。大統領選挙を年内に実施、下院選挙、それと並行して憲法改正に取り掛かかる。
軍と反モルシ勢力にとって最良のシナリオは、ムスリム同胞団との衝突が鎮静化し、行程表通り進行して、前回はムスリム同胞団に敗北した大統領選挙と下院選挙で勝利することだ。しかし、反モルシ勢力は、旧ムバラク体制から地位や資産を維持したままの有力者も少なくない世俗派、知識人が多いリベラル派、ナセル主義者、左派、若者グループ「4月6日運動」などの集合だ。それぞれの政党に四分五裂しており、選挙で共闘態勢を取ることはむずかしい。
一方、ムスリム同胞団は11年末の下院選挙で半数、イスラム勢力全体で7割の議席を獲得、12年6月の大統領選で僅差ながら勝利した。モルシ政権の1年間にさらに組織を拡大しており、もし、ものまま再選挙すれば、どちらの選挙でも勝利する可能性がある。
このため、軍と治安警察は暫定政権とともに、同胞団への攻撃を強めるだろう。すでに、モルシの他、同胞団の中央、地方の幹部数百人が拘束された。これに対しピレイ国連人権高等弁務官は5日、声明を発表し、「これ以上の暴力、法に基づかない拘束、違法な報復行為があってはならない」「彼らがどのような根拠で拘束されたのか、われわれは全く知らない。何人でも、逮捕するには法に基づき、十分な理由がなければならない」と軍当局に勧告した。
ムスリム同胞団は、団員の大量逮捕から非合法化に至る、ムバラク体制と同じような弾圧に口実を与えないよう、支持派のデモで繰り返し呼びかけている。最高指導者のバディーエは5日、カイロの大集会で「我々の抗議は平和的でなければならない」と強調するとともに、軍に対して「銃口を我々に向けるな」と訴えた。
軍や治安警察からの攻撃がなければ、モルシの復権がなくても、同胞団の行動は非暴力的に続く可能性が十分ある。同胞団は、来るべき大統領選挙と下院選で大統領と議会の多数を再び得る可能性がある。軍の工程表が、平和的、公正に進むことは、軍にとっても反モルシ勢力にとっても、同胞団にとっても良いシナリオなはずだ。
だが、同胞団員の中に、治安警察、反モルシ勢力さらには旧体制が利用したやくざ集団や黒い衣服に身を固めたテロ集団の攻撃に対抗して、反撃する者も出てくるだろう。それを口実に軍や治安警察が、同胞団を弾圧し、流血が拡大する恐れもある。それは暴力と報復の連鎖の最悪のシナリオだ。エジプト人の大多数は、そのことを十分理解しているので、最悪のシナリオは避けると思いたい。このために、国際社会も最大限の協力をしなければならない。
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