期待するがゆえに現状を悲しむ――日本共産党第27回大会決議案を読んで

――八ヶ岳山麓から(206)――

先日、日本共産党(以下、日共)の次期衆院選の候補者という女性が村の党員と、林の中の小宅まで挨拶にみえた。私はおおいに恐縮して5000円をカンパした。
そのあと、来年開催という「日共第27回大会の決議案」(以下、「決議案」)を読んだ。ずいぶん長いもので視力の衰えたものには難儀だった。党員はこんな長いものを全部読まなければならないのか。
読み終わって私は、これでは5000円は無駄になると思った。だがそれでも、私は当面の期待をこの党に託す。ほかに左の政党がないのだから。

「決議案」が言及する問題は広範囲におよぶが、ここでは私が重要と考える問題だけを考える。まず経済政策の核心。
「決議案」は、「異常な財界中心」の政治を正すとして、大企業と中小企業、大都市と地方などの格差を是正する「産業構造の改革」をという。
――中小企業を「日本経済の根幹」に位置づけ、中小企業の商品開発、販路開拓、技術支援などの〝振興策〟と、大企業・大手金融機関の横暴から中小企業の経営を守る〝規制策〟を「車の両輪」としてすすめる。
――地域振興策を「呼び込み」型から、地域にある産業や企業など今ある地域の力を支援し、伸ばす、「内発」型に転換する。公共事業を大型開発から、地域循環・生活密着型に転換する。再生可能エネルギー開発に本格的に取り組む。

これでいいのかなあ、という不安がよぎった。
中小企業対策に力が入るのは好いが、日本経済の根幹は否が応でも大企業で、中小企業ではない。大企業は確かに横暴だが、大きな生産力と高い技術、研究機関と頭脳集団を持ち、その傘下にある関連企業、労働者は膨大である。
私はむしろ大企業のありかた対策が先ではないかとおもう。ひとつだけいう。大企業が勝手に国外に投資するのを制度で規制し、そのことで国内の雇用を確保して地域振興策に資することが必要である。
1990年代、大企業の活動が急速に海外に展開しだすと、わが諏訪地方の下請け・孫請け企業も海外に移転し、従業員の若者がそれについてフィリピンなど東南アジアに行った。行けないものは失業した。いわゆる地域産業の空洞化である。大企業の利益は国民の利益に合致しなかった。

アメリカ民主党の大統領候補争いのとき、社会民主主義者を自称するバーニー・サンダース議員は、雇用を海外に移出して利益を上げるのではなく、アメリカ国内で努力し投資し成長するような企業活動がアメリカにとって必要だ。労働者が雇用を失う一方で企業の利潤が拡大する、こんな政策は間違っていると主張し、若者の支持を大いに集めた。
大統領選でトランプがクリントンに勝利したのは、サンダースの指摘したアメリカ経済の苦境、失業問題をそれなりに受止めた宣伝をしたからである。伊藤忠商事の元トップで中国大使を務めた丹羽宇一郎はテレビで、「サンダースが大統領になるくらいならトランプのほうがいい」と発言した。私はこれが日本の大資本の本音だろうと思った。

さて、「決議案」は、中露両国の行動をまさに覇権主義だと非難している。
ロシア・プーチン政権に対する批判は、クリミア併合と、ウクライナ東部での分離独立派武装勢力への支援に向けられている。これを「スターリン時代の覇権主義の復活そのものである」という。
中国批判はまず核問題。中国は核保有5大国の一員として行動し、2015年~16年の国連総会では核兵器禁止条約に背を向けた。これに対して「決議案」は「中国はもはや平和・進歩勢力の側にあるとはいえず、『核兵器のない世界』を求める動きに対する妨害者として立ち現れている」という。
東シナ海と南シナ海問題では、「中国側にどんな言い分があろうと、他国が実効支配している地域に対して、力によって現状変更をせまることは、国連憲章および友好関係原則宣言などが定めた紛争の平和的解決の諸原則に反する」といい、「当然、仲裁裁判所の裁定を無視する態度は許されない」という。
いま日本で、中露両国をこのように批難することは誰でもできる。大事なのはロシアや中国がなぜこうした覇権主義的行動に走るかである。分析のない非難は悪罵にすぎない。

国内政治については、日共は野党勢力の統一政府を熱望している。
そこで「当面は日米安保論争は避ける」という方針だ。「決議案」は、安全保障政策として「急迫不正の主権侵害や大規模災害など、必要に迫られた場合には自衛隊を活用することも含めて、あらゆる手段を使って国民の命を守る」という。――じゃあ、日米安保体制下の自衛隊の尖閣防衛任務を認めるということですね。
これまで日共は、自衛隊を廃止するまでの段階区分をして、日米安保下で自衛隊が存在する段階、日米安保破棄後も自衛隊が存在する段階、国民的合意のもとで自衛隊が解消する段階の3つがあるとしていた。自衛隊の活用は安保破棄後に限るといっていたような気がするが、かなり現実的な考えになったわけだ。これなら保守第二党の民進党との統一政府は可能かもしれない。

以下幾つかの疑問。
①「決議案」では、安保条約の廃棄段階でも自衛隊はなくせない。自衛隊が廃止されるのは、「日本を取り巻く平和的環境が成熟し、国民の圧倒的多数が自衛隊がなくても安心だという段階」まで行かなくてはならないという。これだと「かなりの長期間」自衛隊は存続する。いいかえると違憲状態がいつ終わるかわからない。これを合理化する理論はどのようになるのか。
②目前の問題として、中国の攻勢によって尖閣諸島の実効支配は危うくなっている。しかも北朝鮮が核武装をして、日本海にミサイルを撃ち込むありさまだ。外交交渉の成果が期待できない今日、自衛隊はどの程度の編成と火力でこれと向き合うべきか。
③「まず海外派兵立法をやめ、軍縮の措置をとる」という。海外派兵反対はわかる。だが軍縮は現在即刻やるという意味か、それとも日米安保破棄後か、はては平和的環境ができあがってからか。
④沖縄をどう考えるのか。アメリカの世界戦略が変って沖縄の米軍が削減されたときでも、中国に対峙する自衛隊基地は維持されるだろう。これでは沖縄は永遠に軍事基地の島ということになってしまうが、それでいいのか。
第27回大会までにはあと数ヶ月あるから、それまでにはトランプの外交政策も明らかになるだろう。沖縄をどうするかについて、ぜひ見解を示してもらいたい。

最後に「決議案」が言及していない問題についてのべる。
村の日共の活動家のNが生前、「おれはそう間違ったことをやったつもりはないが、なぜかわが党は大きくならない」と、農家の間に党員が増えないことを嘆いたことがある。彼は60年近い党歴のある人物だった。その場に居合わせた先輩が、「まずは党名変更じゃないか?それに民主集中制をやめることだ」といった。私もこれに賛成である。

党内では「共産党」という党名を誇りとする人は多いだろう。だが党外では、左の人でも「共産党」とか「共産主義」ということばから、暗い冷たいものを感じる人が多い。そもそもこの私がそうだ。戦後を考えただけでも、ソ連ではスターリンの専制政治によって大量の犠牲者が生れ、東欧諸国には何度もの反ソ民衆蜂起があり、毛沢東の誤りで数千万の人が死んだ。
さらに日共は、中国やベトナムやキューバが「市場経済を通じて社会主義へ」進むと見ている。この見解は「日共2004年綱領」の中に示されて以来、一度も修正されていない。しかし、専制政治の国家が市場経済の路線を選択した以上、高度の民主主義が保証された「社会主義」へ進むことはありえない。それはサルがいくら進化してもヒトになれないのと同じである。このような根本にかかわる思想を改めないかぎり、新しい日共を人々に印象づけることはできないだろう。
日共はいまも、中央集権的組織原則を維持している。党内の議論は公開されないし、支部間の議論も禁止されているから、党員は新聞「赤旗」に書いてあることしかいわない。この秘密主義、統制主義には、無知の大衆を導くというエリート意識がいまもって生きているのを感じる。
私は日共が現実的政治勢力としてもっと大きくなるためには、党名を改め、党内での自由な討論だけでなく、党外からも批判や叡智を集められるような、たとえばネット上に広場をつくり、ときどきの問題について誰もが討論に参加できるような組織になるべきだと思う。

いいたいことはいっぱいあるが、今回はこれまで。

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
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