前報で紹介した「週刊金曜日」の三宅勝久氏による連載「東北大学“井上合金”事件」が完結した。
井上前総長がノーベル賞を狙っていたことは全く知らなかったが、東北大学のその筋の関係者は受賞の際の記者会見場を毎年押さえていたというからかなり本気だったらしい。最近我が国のノーベル賞受賞者が増え日本の自然科学研究は世界に冠たるものだぜ、とエバってやりたいところだが、ある程度の年齢の方ならベトナム戦争時に「北爆される方にも理由がある。」と宣ったという我が国の総理大臣S氏が平和賞を受賞したときから、「ノーベル賞はそもそもインチキ臭い」としっかりインプットされている。これはけっこうしぶとくインストールされていてなかなか消えない。だから今回の井上前総長の騒ぎも「あっ、そう」で済まされることではある。東北大震災の復興と同じくらい必死に受賞を狙っていたとは、悪い冗談で済まされるものだかどうだか、全く呆れた話しだ。
しかし冗談と笑ってばかりもいられない。研究不正調査は何回やっても「結果シロ」だし、金属学会も素知らぬ振りである。調査委員会は前総長派で構成されていたし、日本金属学会会長は東北大系ではなく東大系の人だが小保方STAP細胞事件で理化学研究所改革委員会委員長として登場し週刊金曜日の連載でも報じられている東北大学総長選考会議議長の岸輝雄 東大名誉教授の弟弟子筋だから、これまた追及を期待できそうにない。古い人なら金属の学界ではかねてより東北大系と東大系が人事や研究で反目していた歴史があったことを知っているが、1980年代後半に将来における日本の大学での冶金学・金属工学・材料学の学問体系と教育のありかたを模索していたあたりからその敷居は低くなったようである。これら一連の動きは山崎豊子さんの「白い巨塔」で財前浪速大学教授を露骨に庇った船尾東都大学教授の姿と重なって見えてしまう。結局のところ、みんなで庇い合う構図はずっと続いていて、これからも続くのである。しかも今回の連載で名前が登場した先生方はいずれも日本の金属研究を世界のトップに押し上げた、いわば日本のトップレベルの頭脳集団であるところがこれまた悩ましいところだ。
結局、今回の“井上合金”事件に限らず、我が国の「みんな主流派で異端の意見には頬かむり」の構図に根源がある。みんな主流ということは、流れに乗れれば超安全な極楽浄土の住人の資格保持者となれることで、そこから外れる異端者は積極的に疎外、排除されるだけ、ということだ。一億総活躍社会の前に一億総主流派社会があるわけだ。
“井上合金”事件の張本人、井上前総長とそのお友だち北村事務局長が、東北大から腐乱大学と呼ばれているらしい城西国際大学にお土産付きで就職したとは、それこそ稲川淳二の怖い話にでも出てきそうなことで、気が付けば利益共同体としての総主流派ムラ社会構造に我が国全体がズブズブ浸かっていたことが良くわかる例証である。
そのズブズブの中にあって敢えて異議申し立てを行った東北大学の先生方や協力者(そこには表に出てはいない数多の先生方がいるはずだ)の腹立たしさと無念さが良く伝わって来る。頬かむりニッポンがブクブクニッポンにならないことを祈るのみである。
最後に前報同様、「週刊金曜日」掲載の第2回目と3回目の記事を添付する。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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