東北大学の井上前総長の論文捏造疑惑とは、アモルファス(非晶質)金属研究のパイオニアである東北大学金属材料研究所の増本健教授の門下生として輝かしい実績をもち、アモルファス金属の一種である金属ガラス研究の世界的権威と呼ばれる井上前総長とそのグループが発表した論文に、実験結果、実験データの使い回しがあり、論文そのものがインチキではないのか、というものである。
そもそもの発端である論文捏造を指弾する投書が文科省やマスコミに送られたのが2004年のことであった。既に足掛け10年以上の歳月が流れているが未だに収束していない。当初は全国的なニュースに至らなかったこの問題は2011年3月の週刊新潮に取り上げられたが、折しも直後に東日本大震災が発生し、未だに認知度が高くないうらみがある。
2011年から現在までの間に起きたことは、井上前総長の研究不正を告発した以下の2冊の著書の出版
1)日野秀逸・大村泉・高橋禮二郎・松井恵著『東北大総長おやめください―研究不正と大学の私物化』(2011、社会評論社)
2)日野秀逸・大村泉・高橋禮二郎・松井恵著『研究不正と国立大学法人化の影―東北大学再生への提言と前総長の罪』(2012、社会評論社)
および研究不正の告発者に対する井上前総長の提訴であった。そして1,2審では井上前総長が勝訴した。自民党の元幹部村上正邦氏が、「裁判に勝訴するには100%の証拠ではなく200%の証拠が必要」と嘆いたまさにその通りの展開である。しかし井上前総長と共に告発者を提訴した横山准教授は論文の不備を認め原告を降りている。
この問題について先月末から雑誌「週刊金曜日」で新たな疑惑を含め3回の短期集中の特集記事(まぼろしのノーベル賞 -東北大学“井上合金”事件-)が掲載された。当該記事では、ノーベル賞受賞に備えて準備していたとか、出願時には設置導入されていなかった装置を用いたとされる実験データが特許に記載されている、という新しい話題や疑惑に言及されている。
以下に初回の「週刊金曜日」2015年11月20日掲載記事を添付する。2日続きのノーベル賞受賞や金星探査機「あかつき」の周回軌道への投入に成功とやらで日本の科学技術礼賛に大騒ぎしている日本のメディアが小保方STAP細胞で大いにはしゃいでいたのはつい先日のことである。読者の皆さんには日本の科学技術のいい加減さを知って頂ければ幸いである。更にご興味がある方は告発者のホームページ、井上総長の研究不正疑惑の解消を要望する会(フォーラム):https://sites.google.com/site/httpwwwforumtohoku/ をご覧頂きたい。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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