NHKの内情と外圧について最も詳しく、メディアと権力の関係を一貫して追求してきたジャーナリスト・研究者の松田浩さんが、「宿痾の視覚障害に悩みながら視力のあるうちに、その締めくくりとして書いた」(あとがき)全面改訂版を出した。副題は「危機に立つ公共放送」、帯では「「政権による”乗っ取り“作戦」。
本書が松田さんから届いた翌日の1月8日、朝日新聞朝刊第2社会面に、小さなしかし笑えない記事があった。「政治家のネタ、NHKで没―爆笑問題『全部ダメ、腹立った』」
短い記事なので全文採録しようー
「お笑いコンビの爆笑問題が7日未明に放送されたTBSのラジオ番組『JUNK爆笑問題カーボーイ』で、NHKのお笑い番組に出演した際、事前に用意していた政治家に関するネタを局側に没にされたことを明らかにした。
出演したのは3日に放送された『初笑い東西寄席2015』。ラジオ番組によると、放送前に番組スタッフに対して、『ネタ見せ』をした際、政治家のネタについてすべて放送できないと判断されたという。
番組の中で田中祐二さんは『全部ダメって言うんだよな。あれは腹立ったな』と話した。太田光さんは『プロデューサーの人にもよるんだけど、自粛なんですよ。これは誤解してもらいたくないんですけど、政治的圧力は一切かかってない。テレビ局側の自粛っていうのはありますけど。問題を避けるための』と話した。
NHK広報部は朝日新聞の取材に、『打ち合わせの中身に関することについては、普段からお答えしていません』としている」
最近、NHKニュースが、まるで安倍政権の広報放送じゃないかと思うほど、実質のない内容の繰り返しが目立って多くなった。「クローズアップ現代」は相変わらず誠実に制作しているとは思うが、政治に直接かかわるテーマがほとんどなくなり、つまらなくなった。爆笑問題が見抜いたように、「自粛」なのだろうか。制作現場が「自粛」させられているのだろうか。
安倍政権が、NHK会長の任免権をもつ経営委員会のメンバーに、「安倍晋三総理大臣を求める民間人有志の会」代表幹事をつとめた長谷川三千子埼玉大教授ら、首相と思想的、政治的に極めて近い立場をとる4人を任命し、経営委員会が籾井勝人氏を会長に任命してから1年。籾井氏の発言についてはNHK内外から厳しい批判が巻き起こり、籾井氏自身も放送法を尊重し、損なうような介入を行わないことを、再三表明せざるを得なかった。
だが、安倍首相に送り込まれた籾井会長と経営委員たちが、放送内容に干渉することを諦めるとは、とうてい思えなかった。これまで自民党が繰り返しては一部が明らかになったように、NHKの番組制作者を呼びつけて露骨に要求するようなことは、籾井発言が大問題になった後だけにできないだろうが、それならばどのように介入してくるのか。それに対して、NHKで働く職員たちと、視聴者たちは、どのように戦っていくべきなのか、それは、いま、どのように行われ、広がっているのだろうか。松田浩さんが本書で詳述し、提言している内容に学ぶことは多かった。
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
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