核依存・軍事化への社会的バリケードを!

著者: 加藤哲郎 かとうてつろう : 一橋大学名誉教授・早稲田大学客員教授
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 ◆2017.3.15  東日本大震災・福島原発事故から6年目の3.11を、東京で迎えました。これまで3.11 は外国にいるか、東北被災地をまわる旅が多かったのですが、今年はテレビ等で「復興・再生」の現在を見ることにしました。まず気になったのが、「東日本大震災6周年追悼式」における内閣総理大臣式辞 、すでに福島県知事も「違和感」を表していますが、「震災」はあっても「原発事故」は出てきません。「今なお12万人の方が避難され、不自由な生活を送られています」のなかの8万人が福島県民であり、しかもそこには、原発周辺市町村から 災害公営住宅等に入居した2万4000人が含まれていません(NHK調査)。明らかな「原発被災者」はずしで、飯館村ほか放射線汚染地域を「避難指示地域」から解除し、「自主避難者」に対する支援を打ち切るための「復興」強調です。東京が1mSvなのに、なぜ福島は20mSvで「安全」なのか、説得力ある説明はありません。除染もまだまだで、現地は黒い汚染土袋だらけです。そこに、今村復興大臣は「ふるさとを捨てるのは簡単だが、戻ってとにかく頑張っていくんだという気持ちをしっかり持ってもらいたい」と脅迫まがい、国家による棄民策です。

福島第一原発の廃炉への道も、深刻です。住民への帰還奨励・安全宣伝とは裏腹に、メルトダウンで溶け落ちた核燃料(燃料デブリ) の所在さえわかっていないのです。毎日 6000人の作業員を投入しても、まだ出口は見えません。被ばく労働者は増えるばかりです。そこには、暴力団などブローカーがからみ外国人労働者も投入されています。除染作業には、バングラデシュの難民申請者も入っていました。この間のテレビで一番印象的だったのは、福島からのニュースではありませんでした。1986年のチェルノブイリ原発事故後に作られた石棺が老朽化し、その全体を覆う巨大シェルターが 世界の技術者の手でなんとか組み立てられ、辛うじて放射性物質の拡散を封じ込めて原子炉解体の入り口にたつまでの、長い長い物語でした。費用も要員も膨大で、百年単位のプロジェクトです。福島の将来の困難を暗示し、また原発再稼働を認めた日本政府の無責任を示唆するものでした。

いや国内原発再稼働ばかりではありません。安倍内閣は、「アベノミクス」失敗を糊塗する一環として、原発軍事技術輸出の外交を進めてきました。その国策の最先端を行くはずだった東芝・ウェスチングハウスが、フクシマ後の世界的な脱原発・安全規制強化の流れを読み切れず、東証上場廃止、企業縮小・解体の危機。TOYOTA, SONY に次ぐ日本の多国籍企業TOSHIBAブランドが、SHARPに続いて風前の灯です。DENTSUPANASONICも過労死企業になりましたから、日本経済全体の信用にも大打撃です。東芝は中国浙江省の原発も手がけ遅れていて、その損失見込はまだ計上されていません。フクシマの元凶GEと組むHITACHIも、落ち目のフランス・アレバと組むMITSUBISHIも、TOSHIBAの運命は明日は我が身かもしれません。先月まで滞在したドイツから見れば、フクシマ後の日本の核エネルギー依存・核技術輸出、プルトニウム蓄積は、亡国への道です。

日本政府や多国籍企業は、原発事業を捨てて、軍事技術に生き残りの方途を探る可能性もあります。フクシマ廃炉以前にそうした方向が強まれば、日本の科学技術・大学等高等教育機関の全体が、動員されるでしょう。日本学術会議軍事研究禁止決議を継承するのは当然ですが、「大学等の研究機関」の自主性・自律性のみでは、核軍事国家への道は止められません。かつての1950年決議、67年決議は、野党のみならず労働組合運動・学生運動など社会運動の支えがあり、民間の科学技術労働者へも道義的拘束力をもちました。 いま、労働組合「連合」の反対最大野党民進党が原発ゼロに踏み切れず学生「連合」組合員の中でも自民党支持が多いもとでは、学術会議決議の影響力は限られます。軍事化への社会的バリケードを築かなければ、「いつかきた道」です。とりわけ好戦的なアメリカ大統領が核のボタンを握り、日本政府がそれに全面的に依存しているもとでは。

米国トランプ大統領の世界政策に従属し、日本で軍事化を指揮するのは、安倍首相と稲田防衛相です。大阪・森友学園への国有地払下げに発する疑獄事件は、愛媛県今治市への加計学園・岡山理科大学獣医学部誘致疑惑に広がり、森友学園のトリックスター籠池理事長の「しっぽ切り」が裏目に出て、稲田防衛大臣の進退問題につながりかねない勢いです。しかし本丸の安倍首相・官邸、財務省・理財局(迫田佐川理財局長、麻生財務大臣)はこれからです。本15日の外国人特派員協会での籠池証言を聞いてから更新しようと思ったのですが、突然の延期です。籠池氏は「事件が勃発して、財務省のほうから『姿を隠しといてください』と、言うから! おおそうなんか、と。僕はなんにも悪いことしてへんけど、それだったら隠そかと、10日間雲隠れしてた」と証言していますから、また財務省官僚と首相官邸官房機密費が動いたのでしょう。この間、戦後占領期における731細菌戦部隊の隠蔽・免責・復権過程を追ってきましたが、こうした情報操作は、権力の常道です。私の731部隊の本は、『「飽食した悪魔」の戦後』(仮題)として、5月に刊行されます。

国民の生命に関わる防衛大臣の虚偽答弁は、ようやく世論を動かしはじめました。首相の感情的答弁の内容も、変わっ(チラシ)(3・24)東京都庁前緊急アピール行動:小池知事、原発事故避難者への住宅支援強化を早急に取組んでください C6nxTJxVsAESo6Lてきています。文部科学省は、首相や防衛相のイデオロギーに合わせて、「教育勅語の内容の中には……、夫婦相和し、あるいは、朋友相信じなど、今日でも通用するような普遍的な内容も含まれているところでございまして、こうした内容に着目して適切な配慮のもとに活用していくことは差し支えないものと考えております」と答弁し始めました。情報戦です。国会での野党の追及、メディアとジャーナリストも、世論の追い風を受けています。社会運動も動き始めました。水に落ちた犬は打て! ただし、本丸への射程をはずさず、社会的バリケードを厚くする方向で!

初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
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