◆ 2022.2.1 オミクロン株によるコロナウィルス感染が爆発的に広がり、第6波の蔓延真っ盛りです。1月末に国内新規感染者一日8万人を記録し、まもなく10万人の日が来るでしょう。世界は先月3年目で3億人突破と書きましたが、それがすでに3億6千万人突破、1月最後の1週間で2500万人増ですから、20世紀最大のパンデミック、「スペイン風邪」の5億人に近づいています。デンマークで流行るステルス・オミクロンが日本でも確認されており、インフルエンザや花粉症の重なる季節に、再び医療崩壊です。
◆ 何より驚くべきと言うか、嘆かわしいというべきか、第5波の収束後に十分準備期間があり、「聞く力」の内閣に代わってPCR無料検査も拡大したはずだったのに、いざ予想されていたオミクロン株感染爆発が始まると、PCR試薬ばかりか抗原検査キットも不足し、治療・入院以前の検査そのものができない窓口での医療崩壊、ついには濃厚接触者追跡もクラスター潰しもあきらめ、自宅療養者という名目の棄民26万人、その何十倍の検査難民発生の事態です。政府も「専門家」も信用失墜で、普通の国なら「ジェネレーションレフト」まで行かずとも、若者の抵抗と街頭デモでしょう。ワクチン接種3回目もOECD最下位で、コロナ以外の治療・手術も難しいまま、「自分自身で健康管理」という自己責任論の横行・跋扈です。
◆ 2年前に拙著『パンデミックの政治学』(花伝社)で示した日本の感染政策の基本的問題が、ほとんどそのまま受け継がれ、安易な後手後手の対症療法ばかりで、この国の経済・政治ばかりでなく、医療の後進国化を世界に顕わにしています。普通の国並みの、いつでもどこでも繰り返しのPCR検査が行われていれば、おそらく無症状を含む感染者数は厚労省ー感染研ー保健所ルートの公式発表の数倍以上、期末や入試を控えたこどもたちの休園・休校状況から推定すると、10倍になるかもしれません。すでに一昨年から韓国の新聞等が指摘していましたが、検査もまともにできない日本の感染者数は信用できません。「アベノミクス」のためにかさ上げされたGDPや、賃金・労働時間統計と同じように、政権交代後に改めて精査すれば、東京オリンピック強行や電通・パソナ中抜きのために仕組まれた「パンデミック政治経済」のからくりが、明らかになるでしょう。 知的自己防衛が必要です。
◆ こうした問題を、昨年も書物でまとめる予定でしたが、世界も日本もパンデミックの延長戦が続き、もっぱら毎月の市民向け講演等で、新たな問題を思考し論じる流れが続きました。活字では、3月の講演をもとにした.NEW「「日本のコロナ対応にみる731部隊・100部隊の影」、昨年末に発表した『戦争と医学』誌第22号への寄稿.NEW「戦前の防疫政策・優生思想と現代ーーパンデミックの中で考える」にまとめてありますが、多くは参加者を制限した予約制対面講演で、それをyou tubeに入れて皆さんに届けるかたちで、発信してきました。
夏から始めた市民向け連続講座ほか、1月の二つの講演も、すでにyou tube 映像になっています。原稿なき口頭講演では、時に数字や人名の誤りなどありますが、ご関心のある方はどうぞ。
●東京オリンピック・パラリンピック強行との関係、
https://www.youtube.com/watch?v=01gt8vWDJ1A&t=7s
●映画「スパイの妻」から見たパンデミック、
https://www.youtube.com/watch?v=smgAbMjmfRM
●731部隊・100部隊から「ワクチン村」へ。
https://www.youtube.com/watch?v=cJhMbXRZ7G4&t=3236s
.NEW●2020年永寿総合病院クラスターから見えた731部隊の影は戦時インドネシアの人体実験につながる、
.https://www.youtube.com/watch?v=z3Z25-FnLT8
.NEW ●「新・1940年体制」ともいうべき国家安全保障、治安・経済政策に従属した日本の感染対策、
https://www.youtube.com/watch?v=3aqXTdIxQmE
◆ 前回、「無知学」agnotology という学問を紹介しました。日本の統計改竄、公文書廃棄・改竄等をあばくのもそのひとつです。それは、学問ばかりでなくジャーナリズムの使命ではないか、という人に、映画「新聞記者」をお勧めします。藤井道人監督の劇場版は、加計学園問題を示唆するストーリーや内閣情報調査室の迫真の描写など、すぐれた演出で、数々の映画賞を受賞しましたが、同じ監督のNetflix版も、豪華キャストに、森友学園スキャンダル、赤木俊夫さん自死事件を彷彿とするストーリーで、見応えがあります。 「無知学」agnotology は、狭い意味での学問に閉じ込める必要はないようです。映像、コミック、詩や短歌・俳句、風刺画や川柳、もちろん文学を含むあらゆる文化資源を動員して、真実を探っていく、知的自己防衛の試みでしょう。本サイトも、そうした一翼でありたいものです。
◆ その観点から、久方ぶりの読書案内。まずは「無知」を作り出す権力の技術を、安倍・菅内閣で最先端にいた北村滋の初めての著書『情報と国家』(中央公論新社)から学びましょう。収録専門論文の初出では地の文だった「大東亜戦争」に、この一般向け書物ではカッコがついていました。早速の偽装です。こうした日本のインテリジェンスを歴史的に見るには、リチャード・J・サミュエルズ『特務』(日本経済出版)が有益です。私や上昌広さんと共に、眼前のパンデミックに731部隊や旧内務省の亡霊を見出す眼は、山岡淳一郎『コロナ戦記』(岩波書店)、「選択」編集部『日本の聖域ザ・コロナ』(新潮文庫)など。より長いスパンでは、林博史『帝国主義国の軍隊と性』(吉川弘文館)、井川充雄『帝国をつなぐ<声>』(ミネルヴァ書房)、鄭栄桓『歴史のなかの朝鮮籍』(以文社)、芝健介『ヒトラー』(岩波新書)、田嶋信雄・田野大輔編著『極東ナチス人物列伝』(作品社)、市川浩『核時代の科学と社会』(丸善)など。こうした問題を解く手法と思想を、ナディア・ウルビナティ『歪められたデモクラシー』(岩波書店)、野原慎司『戦後経済学史の群像』(白水社)、山室信一『モダン語の世界へ』(岩波新書)、八木紀一郎『20世紀知的急進主義の軌跡』(みすず書房)、中野慶『岩波書店取材日記』(かもがわ出版)、大窪一志『相互扶助の精神と実践』(同時代社)、バーリン『反啓蒙思想』(岩波文庫)などで。まだまだありますが、ステイホームと自粛で浮いた時間と空間は、「無知からの脱却」への貴重な公共圏です。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye4888:220202〕