欧州難民問題の現在(1月19日)

著者: 盛田常夫 もりたつねお : 在ブダペスト、経済学者
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 冬期を迎えても、ギリシア-マケドニア-セルビア-スロベニア-オーストリア-ドイツを経由する難民の流入は衰えを知らない。毎日、1000名をはるかに超える「移民」・「難民」が、欧州へ向かっている。

大晦日の暴力事件
 欧州の主要都市は、大晦日に、テロ攻撃を警戒して、厳重警備が敷かれた。ミュンヘン駅は数時間にわたって立ち入りが禁止され、ウィーンでもステファン広場を中心に、厳重な警備が敷かれた。幸い、銃火器を使用したテロ事件は起きなかったが、多くの主要都市で、新年を祝って街の中心部に集まった人々を狙った、暴力事件が多数発生した。その暴力事件を惹き起こしたのは、すでに欧州に在住する北アフリカや中東からの移民や、昨年来欧州へ渡り、難民申請をしているシリア人などの中東からの「難民」の若者だったと報道されている。

mt1ケルン駅前から聖堂の階段へ続く地帯の様子(関連ビデオは以下のサイトを参照されたい。https://www.youtube.com/watch?v=oPfHBsq4oSw

そのなかで、もっとも大規模だったのは、ケルン駅とケルン大聖堂に挟まれた比較的狭い地域で発生した窃盗、婦女暴行、花火による火傷である。強姦事件は2件だと報道されている。1000名程度と推定される移民・「難民」の若い男子が集まり、花火を広場に集まった人々に発射したり、女性を集団で囲み性的嫌がらせを行い、所持品を奪ったり、花火をコートに投げ込むなどの所行が集団的に行われた。ケルン駅構内が移民・「難民」で溢れかえり、身動きできない状況が作られた。駅前広場から聖堂へ抜ける狭い通路でも、嫌がらせや暴行事件が発生した。警察に寄せられた被害者からの訴えは、500件を超えると報道されている。
規模は小さいが、ハンブルグでも、ライプツィッヒでも同種の事件が起き、さらにヘルシンキ、ザルツブルグ、カルマールでも事件勃発が報道されている。

mt2ケルン大聖堂横で警察の取り調べを受ける実行者

 

mt3

ケルン駅構内の様子。中東系の人々で溢れかえっている
 これらの同時多発の暴力・窃盗事件は相互に連絡を取り合って行われた可能性があり、警察・治安当局はこの情報を、テロ多発情報として捉えた可能性がある。しかし、実際にはテロではなく、集団的な窃盗・暴力事件が同時多発的に惹き起こされた。

事件の隠蔽
 ケルン警察と公営メディアはケルン事件を丸3日にわたって公にしなかった。事件が明るみに出た1月4日、ケルンの女性市長は「男子との距離を腕1本分空けておけば、痴漢被害に遭うことはない」と表明して、女性団体から猛反発を受けた。以後、被害届が次々に出され、ケルン警察署長は、「事件処理の不手際」で辞職することになった。
 現在、ドイツでは政府の難民政策への批判や、政策実行に不都合な事実の報道を控えるという自主規制が効いている。それが警察や報道機関の姿勢に顕著に表れている。もちろん、それは政治家からの強い圧力によるものである。
パリ・テロ事件が起きた直後も、トゥスクEU大統領もユンケル欧州委員会委員長も、即座に「テロを難民問題と結びつけてはならない」と話したように、不都合な事件と難民受入れを結びつけることは、欧州の難民受入れ政策に反する。こういう意識が、欧州の政治家を支配している。
 さすがにメルケル首相は、ケルン事件を放置すれば、重大な政治的結果をもたらすと考えたのだろう。1月4日、ケルン事件を非難し、「法改正を行い、量刑に関係なく、有罪判決を受けた刑事事件の難民被告は、国外送還とする」という強い態度を打ち出した。しかし、直近の世論調査では、難民の大量引受け以後も50%を超えていたメルケル首相の支持率は、30%強にまで落ちている。
 移民・難民のドイツの入り口になっているバイエルン州の小さな町は、学校の講堂を難民キャンプに使っているところが多いが、さすがに難民の流入対応に耐えきれなくなった町の区長が、難民をバスに乗せて、ベルリンの首相府に乗り付けたと報道されている。連邦政府の政治家は、脳天気にも、「ドイツは百万人程度の難民を引き受けるのに何の問題もない」と豪語しているが、移民・難民に直接対応している部署や人々の間には、連邦政府への強い不満が蓄積している。津波や原発汚染から避難した人々が多数発生しても、自分の身近にいなければ、無責任な言動になりがちである。それと同じである。当事者と傍観者では、ものの見方や感じ方に雲泥の違いがある。

国境管理・検問の再開-シェンゲン条約の一時停止
 年初からドイツは経済移民と認定された人々をオーストリアへ送り返し始めた。その数は1日200名ほどだという。これに対応して、オーストリア政府は1月17日から、スロベニア国境とハンガリー国境で検問を再開して、違法な入国を阻止することになった。オーストリア政府は、今後、オーストリアでの難民申請を行う者以外は入国させないという立場をとっている。したがって、経済移民はもちろん、オーストリアを経由して、ドイツあるいは北欧諸国への通行を希望する難民は、オーストリアへは入国させないという。
 これが完全実施されれば、早晩、スロベニア政府もまた、クロアチア国境の検問管理を実行することになりそうである。
 さらに、ドイツ連邦政府運輸相(CSU)は、これ以上の難民受入れを制限するために、ドイツの国境検問の再開を主張し始めた。すでに、デンマークとドイツ国境、デンマークとスウェーデン国境では、入国管理が再開されている。
 このように、EUは押し寄せる移民・難民に有効な対応策を打ち出せないまま、個別に国境管理を導入することで、当座の乗り切りを図ろうとしている。しかも、それらの措置は皆、すでに9月にハンガリー首相オルバンが提唱したことだが、当時は、一斉に「難民排除の偏狭な民族主義」として非難されたものだ。Das Spiegelの国際インターネット版には、いまだに難民に足を上げる女性カメラマンの写真が掲載されている。これが事実と異なる作り話であることは、何度も報告した通りである。

欧州旅行者への注意
 欧州ではどの都市も、日中でも繁華街の小さな路地に入ったり、あるいは夜間に大勢の人混みに入る場合には、細心の注意を払うことが求められる。移民・難民が増えている現在、主要駅周辺の広場や路地に不用意に入り込まないことだ。これらの地帯は都市の中でももっとも犯罪が起きやすい場所である。駅構内の置引きは日常茶飯のことだが、路地では所持品を強奪される被害に遭う可能性がある。とくに女性は気を付けなければならない。
 以下のサイトで見ることができる女性ジャーナリスト暴行の様子は、現在、YouTubeではケルン事件としてアップロードされているが、実際にはすでに2011年にYouTubeにアップロードされたもので、その時にはエジプト・カイロのタリール広場での事件として紹介されたものである。いずれにしても、不用意に、リスクのある場所に迷い込めば、このような事件に巻き込まれることを心得ておくべきだ。
このビデオは、地下鉄構内に当該の女性ジャーナリストが、十数名の男性に連れ込まれる様子を撮影したものである(https://youtu.be/KKu6Y7FtgF4)。

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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