◆2012.12.17 選挙結果が出ました。つのる政治不信・政党不信による、厳しく重大な政権選択です。総選挙は政権与党民主党の惨敗、自民・公明が3分の2を持つ絶対安定多数の安倍晋三新政権確実、日本維新の会の改憲キャスティングボード、日本未来の党・共産・社民は脱原発を争点化できず敗退。都知事選挙も、国政選挙に巻き込まれて、猪瀬新知事の大量得票での誕生へ。本サイトとしては、残念な審判です。それにしても、小選挙区での自公と民主の盛衰は鮮明です。得票4割で議席8割を独占、膨大な死票が出ました。比例区での投票行動をみると、自民党の支持率が大きくあがったわけではありません。前回風を吹かせた民主党への期待が完全に冷えて、民主党を離れた大量の票は、さまざまな党に漂流したようです。いや投票率が10%も下がって戦後最低59.32%ですから、投票そのものをためらったようです。ある程度予想はできましたが、マスコミの設定した景気回復や政権運営の土俵にのみこまれ、原発も憲法も大きな争点になりませんでした。絶望からの選択だったことは、福島県の投票率が前回比15%低下だったことが、如実に示しています。信濃毎日新聞社説「自民圧勝 9条と脱原発が心配だ」が、偽らざる庶民の感覚でしょう。
◆ 民主党は、前回選挙で支持を受けたマニフェスト公約のほとんどを果たせず、マニフェストとは真逆の消費税増税くらいしか実行できなかったのですから、野田政権敗退は明確な国民の審判です。現職閣僚軒並み落選の無残です。そればかりでなく、東日本大震災・福島第一原発事故に際しての情報隠し・危機管理不能が尾を引きましたから、原発事故「収束」を宣言し大飯原発再稼働を認めたままでの選挙用「脱原発」ポーズが、信用されなかったのは当然です。民主党は、参院第一党の議員88人が残り、衆院57人より多くなります。すぐに新代表を選ばなければならないでしょうが、この審判が何を意味したかをしっかり分析・反省し、辛うじて保った野党第一党の旗幟を、「原発ゼロ」の方向で鮮明に示してほしいものです。もっとも自民・公明への325議席は、あまりに大きな小選挙区効果です。維新の会54議席を加えれば、絶対的な改憲発議可能勢力です。選挙結果を見ての政党再編第二幕が進み、来年夏の参院選まで続くでしょうが、脱原発・護憲勢力にとっての教訓は、原子力や憲法という世紀的で基本的な争点について、政党レベルの合従連衡では足りず、市民社会レベルでの橋頭堡が必要だということでしょう。東京都知事選で石原後継である猪瀬直樹候補に投じられた433万票、かつての「戦後革新」の末裔社民党の凋落は、護憲派・戦後民主主義派の高齢化と先細りを示しています。官邸前金曜デモの若者たちやウェブ上の非核の声を、どうネットワークにしていくのか。かつて清水慎三・花崎皋平さんらが提唱した「社会的左翼」、社会的なバリケードの再構築です。
◆ しかし得票4割で議席8割の小選挙区効果や第3極乱立は、対外的には弁明にもなりません。北朝鮮ミサイル発射や中国との尖閣問題が自民党や維新の会への投票に及ぼした「右傾化」効果は否定できませんが、19日に大統領選投票を控えた韓国では「日本政治が右向け右」「過去に逆戻りした日本」、中国新華社は「日本よ、どこへ行く」、英国BBCは「日本は右に大きく舵を切った」、先に脱原発を果たしたドイツでは「強硬派がカムバック」、国際的には結果がすべてです。そのなかで重要だと思われるのが、アメリカの対日政策に関わるマイケル・グリーンの自民党勝利を見越した投票直前のコメント、「安倍氏の政権復帰は、外交政策に関して断固としたタフな姿勢を支持する幅広い声を示す」「民主党の経済政策と、左派の広範な反米政策は支持を失った」、更に直截に「民主党政権は左派の最後のあがきだった」「総選挙が『左派』に最後のとどめを刺す」。典型的なワシントン「知日派」=ジャパン・ロビー官僚の評価です。ただ、ここからアメリカ・オバマ政権、ましてやアメリカ市民が日本の選挙結果を歓迎したと短絡してはいけません。アメリカ国内にも、「ジャパメリカからチャイメリカへ」の大きな流れのなかで、さまざまな日本観の分岐があります。この点は、孫崎享さん『戦後史の正体』(創元社)評価にも関係しますので、22日明治大学での現代史研究会でも触れるつもりです。
◆総選挙当選者の一覧を見ていて気になったこと。米英の大学・大学院を最終学歴に掲げた議員が、30人近くになります。投資顧問会社や商事会社の海外勤務経験を加えれば、もっと多いでしょう。かつて国会議員の供給ルートとして、地方議会から国会へ、官僚・労組役員から議員へが言われた時代がありました。「55年体制」崩壊後、2世・3世の世襲議員と松下政経塾出身議員が話題になりました。今回も世襲や政経塾は続いていますが、特に自民党・維新の会・みんなの党の若手議員に、アメリカ大学・大学院卒をアピールする新人がみられます。そこで身につけたアメリカ風合理主義・マネージメント・IT技術・リーダーシップは、確かに選挙でも行政運営でも役に立つでしょう。マイケル・グリーンの強気は、どうもこうした影響力をバックにしているように見えます。孫崎さん『戦後史の正体』の、日本におけるアメリカ研究への奨学金・留学機会提供への着目は慧眼です。それが「対米追随」の土壌になるとすれば、直接的な外交交渉での「自主」度ばかりでなく、こうした留学経験・勤務体験・認識枠組・思考パターンを通じてのソフトパワーが、日本政治に浸透する効果にも注目すべきでしょう。次回、新年更改で、じっくり考えてみます。
「加藤哲郎のネチズンカレッジ」から許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
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