民主国家で最悪の秘密保護法 ―日本を傷つけた安倍政権―

著者: 坂井定雄 さかいさだお : 龍谷大学名誉教授
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幅広い人道活動や民主化支援を続け、国際的に大きな発言力を持つ、米国の有力財団オープン・ソサエティ(ジョージ・ソロス会長)は、日本の国会が特定秘密保護法案を強行採決した6日、同法が、国民の知る権利を制限する法律の国際的基準をはるかに下回る、民主国家では最悪の秘密保護法だと厳しく批判する見解を記者発表した。
一方、米国務省の副報道官は「情報の安全は、同盟関係の協力で決定的な役割を果たす」と歓迎を表明しながらも、「表現や報道の自由などの価値を共有することも、同盟の基礎だ」とクギを刺した。
 これに先立ち国連の人権保護機関のトップ、ピレイ人権高等弁務官は2日、ジュネーブで記者会見し、「政府が不都合な情報を秘密として認定するものだ」「日本国憲法や国際人権法で保障されている表現の自由や情報アクセス権への適切な保護措置が必要だ」「国内外で懸念があるなかで、成立を急ぐべきでない」と発言している。
秘密保護法の強行採決により、世界の民主国家のなかで日本は、国民の重要な権利を最も軽視し、政府が秘密裏に推進する危険な政策や外交などを国民がチェックできない国、国際的な基準を無視する国になる、と米国を含め世界がみなすことになりかねない。安倍政権は平和国家、民主国家としての日本の国際的イメージをひどく傷つけた。
 秘密保護法にたいする重要な国際世論の一つとして、オープン・ソサエティの記者発表文を以下に紹介したい。
  
2013年12月6日 オープン・ソサエティ財団
プレス発表
国民の正当な権利を脅かす日本の秘密保護法
(ニューヨーク)オープン・ソサエティは6日、同日、日本の国会が採択した新しい秘密保護法の諸条項について深い懸念を表明した。
 同財団の上級法律担当者サンドラ・コリヴァーは、この新法は、国民が国家安全保障と国防に関して知る権利について、厳密な限界を規定している国際的基準をはるかに下回っている、と指摘した。
「この法律は日本の逆もどりを示す一つのステップである」「国民の正当な権利を脅かす、秘密の基準を提案している」コリヴァーは述べた。
 米政権3代にわたって国家安全保障の要職を務めた、当財団の上級顧問モートン・ハルペリンは「21世紀にすべての民主的政府が検討した秘密保護法の中で最悪の法律だ。それとともに、市民社会や世界の専門家たちの見解を十分聴いたり、討議することなしに立法化したスピードにも、同様な懸念がある」と述べた。(訳注:ハルペリン氏は、ジョンソン政権の国防次官畝補代理、ニクソン政権の国家安全保障会議委員、クリントン政権の大統領特別顧問、国務省政策企画本部長などを歴任)
 国連の、表現の自由に関する特別報告者フランク・ラリューは、「この法律は、秘密を非常に幅広く、あいまいに規定しているだけでなく、内部告発者や秘密を報道するジャーナリストに対して、厳しい脅しを含んでいる」と懸念を表明した。

この新法には以下の条項を含んでいる。
・防衛大臣が「日本の国防上、秘密にすることが特に必要な」機密情報を保持する権限を劇的に拡大する。新法はこの権限を、国防、外交、指定危険活動、テロ防止を含む数項目のあいまいな、幅広いカテゴリーに拡大する。
・秘密情報の指定権限を持つ政府高官は、防衛省から各省庁に広げられる。
・秘密情報の暴露への最高処罰は、2001年制定法の5年の刑から10年に強化される。
秘密指定を再検討するための、政府や裁判所から完全に独立した行政機関についての規定がない。
・秘密情報の暴露による国民の利益が、損害より大きかった場合の「国民の利益優越」条項がない。それは、国民の大きな利益になる情報を暴露した人物は、暴露による国民の利益が、実際に生じた損害よりも大きければ、刑事処罰の対象としない条項である。
 これらのすべてにわたって、この新法は、国家安全保障と知る権利に関するツワネ原則に示された国際的基準と最良の慣行に、大きく劣っている。(中略)
 安倍晋三首相は、米国モデルの国家安全保障会議(NSC)創設のために、強力な秘密保護法が必要だと繰り返し断言している。日本の新聞は、米当局者が秘密保護制度を厳しくするよう圧力をかけたと報じている。
 しかし、秘密保護についての決定において一般国民の利益を考慮する、数か国の米国の緊密な同盟国では、秘密情報の無許可暴露に対し最高5年以下の罰を定めているだけで、秘密指定は日本より少ない省庁にのみ許され、秘密指定について裁判所か他の独立機関への異議申し立てができる制度がある。(後略)
 (訳注)オープン・ソサエティ財団:著名な投資家で、慈善活動家のジョージ・ソロス現会長が1979年に設立した米国の財団。旧ソ連や東欧の反体制活動家の支援のはじめ、「開かれた社会」をモットーに、国際的な民主化支援、人道支援活動を続けて、国際的に大きな発言力を持っている。最近では6月、同財団の呼びかけで、国家安全保障と国民の知る権利の保障を調整する指針のための重要な国際会議が、南アフリカの首都ツワネで開催された。国連、欧州安全保障協力機構、米州機構、22の組織や学会など、70以上の国からの500人以上の安全保障、情報、外交、人権など諸分野の専門家が参加、14回の会議を経て、合意をまとめ、「ツワネ原則」を呼ばれる指針を採択した。(了)

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