民進党よ、代表選を理念創出の場に!

著者: 田畑光永 たばたみつなが : ジャーナリスト
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暴論珍説メモ(150)

 民進党の代表を選ぶ選挙が行われる(9月2日告示、15日投開票)そうである。これまでの岡田代表がなぜここでやめるのかを私は知らないのだが、それはこちらの怠慢と認めた上で、いったいあなた方は何のために代表選挙をするのですかと聞いてみないわけにはいかない。
 というのはほかでもない。選挙となったのに、蓮舫参院議員が名乗りを上げた後、誰もその後に続かず、無投票で新代表が決まりそうな雲行きとなったところで、前原元代表が立候補することになって、なんとか形がついたという有様に驚くからである。
 蓮舫氏といえば、私の記憶には民主党政権発足直後に話題なった事業仕分けのイベントでスパコンの開発について「なぜ1位にならなければいけないのですか、2位ではだめなのですか」という質問をしたということぐらいしかない。いつの間に無競争で党首に選ばれるほどの大物に成長したのかと不思議だったが、どうもその後の報道を見ていると、人格識見ではなく、その派手なイメージが選挙に有利だから党首にかつぐのに適当だということが支持される理由と知った。
 その蓮舫氏は8月23日、日本外国特派員協会に呼ばれたが、何を話したのかは伝えられず、ただ岡田現代表について「本当につまらない男だと思う」と言って笑いを取ったことだけがニュースとなった。売れないお笑い芸人がテレビのバラエティ番組で過激なことを口走って人目を引こうとするのと同じ手口だ。その発言に続けて、氏は「人間にはユニークさが大事、私にはそれがある」と付け加えたそうだが、人さえ集められれば、それが政治家の力と信じているらしい思い上がりには、ただただ脱帽するしかない。
 さて、その蓮舫氏の「政治力」に前原氏が立ち向かうことになって選挙の形が整ったのだが、そうなると今度は民進党内の複雑なグループ関係が両氏にどうつながるかがメディアの解説のテーマとなり、両氏の考え方、政策理念といったものはさっぱり話題になっていない。せいぜい野党共闘のあり方、つまり頭数の増やし方をどうするかで2人はどう違うか、といった程度である。
 だから聞きたいのだ、あなた方は何のために代表選挙をするのですか、と。
 民進党はとにもかくにも、現在は野党第一党である。もし自民党内閣が何かのきっかけで総辞職でもするような事態となったら、とりあえず政権運営にあたる可能性のある政党である。また民進党議員のかなりの部分は、前身の民主党時代に3年ほどではあるが、実際に政権与党を経験もしている。
 であれば、今こそ少数野党であっても、次の衆議院選挙では政権を奪還する気構えで日々を精進してもらわなければ、たんに多額の歳費を国民から受け取って、時々政権に向かって野次を飛ばしているだけの遊民の徒に過ぎなくなってしまう。
 なんでこんな嫌味を言うのか。民主党のそもそもからして、いろんなところからの人間の寄せ集めでできたこの党には理念というものがないのだが、今ではその状態に安住して、統一した理念を持とうとする努力さえすっかり放棄してしまっている。そして表に出てくる動きはなんとかして、今、バッジをつけている人間の数を増やして政権に近づきたいということだけである。
 今はそんなことをしている場合ですか、と言いたい。世界は急変しつつある。ついこの間まで正義であったはずのグローバリズムを否定して、排他的な国家主義を堂々と唱える声が地球上のあちこちから聞こえてくるようになった。むしろグローバリズムの本家であったアメリカやヨーロッパの国々がその声の震源地である。
 この変化の根は深い。2008年のリーマン・ショックで揺らいだ世界経済は今なお立ち直っていない。主要先進国はどこも金利を徹底的に下げて(マイナス金利まで普通になった)、資金を市場にばらまいているが、仕事のない人間は一向に減らない。イギリスがEU離脱を決めたのも「仕事をよそ者に取られる」ことが大きな理由の1つであったし、アメリカでバーニー・サンダースがあそこまで支持を伸ばしたのも若者に十分な仕事がないからだ。ドナルド・トランプが突けこんだものも勿論それだ。今や議論は資本主義そのものの命運にまで及んでいる。
 アジアでは中国の自国主義がこのところ際立ってきた。これはなにも習近平の性格の故ではなくて、やはりリーマン・ショックの後遺症と言っていい。あの頃、中国は世界経済の救世主を気取って、インフラ投資の大盤振る舞いをやった。そのつけが今や膨大な製鉄設備や無数の空きビルとして中国経済の重石となっている。来年秋で党総書記としての1期目5年の任期を終える習近平はどこかで国威を発揚しなければ、「中華の夢」の復興を自らの使命として高く掲げた手前、格好がつかない。それどころか政権維持さえ危うくなる。困ったことだが、それが南シナ海での傍若無人の振る舞いの根源である。
 その隣りでは、傍目には今や崩壊の道に進み始めたかに見える北朝鮮の金正恩体制がひたすら軍事挑発を続けている。何をしでかすか分からない危うさが増しつつある。
 こういう世界の変化に安倍政権はいかに対処しているか。別に確たる理念を持っているわけではないことは明らかだ。デフレ脱却を唱えて、欧米と歩調を合わせて金融の「異次元緩和」を続け、市場にカネをだぶつかせ、後先も考えずに、すでに危機的な財政からも結構ばらまいている。その上、大事な国民の年金積立金を株に突っ込んで、この1年3か月の間に積立金総額の約8%、10兆円以上も損を出してしまった。
 しかし、アベノミクスなる「金融だのみ」の小手先芸ではデフレ脱却はできない。政府は失業率が下がったというが、企業が正規社員を減らして非正規労働者に置き換えるのを放置し、それが全体の4割にも達する状況では、消費全体が盛り上がるはずがない。いくら銀行にカネを回しても、肝心の消費が冷え込んだままでは、その一部が株式市場に流れることはあっても、経済を活気づけようにもカネの行き場がないのが現状だ。
 要は所得の分配率の問題である。安倍政権は「同一労働同一賃金」を掲げて、非正規労働者の待遇改善を唱えているが、果たしてどこまで本気でやるつもりか。
 そんな安倍政権の支持率が一向に落ちないのは、中国や北朝鮮の行動に待ってましたとばかりに強硬な態度で対応しているからである。アベノミクスはいつまでやっても成果は出ないが、一方で冷戦思考から一歩も抜け出していない安倍流外交がヨーロッパで極右政党がもてはやされる最近の風潮にマッチして、支持率を稼いでいるのだ。
 ということは、日本ではフランスの国民戦線のような政党がすでに政権を握ったと同じ状況が生まれているということになる。だとすれば、この時代状況をどう考え、どこに進路を見出すかは、野党にとっては喫緊の課題ではないか。それをせずに、野党共闘の範囲をどこまでにするか、といった目先の選挙戦術にしか目がいかないような野党にはなんの期待も抱けない。
 今からでも遅くない。少なくとも今度の代表選の立候補者は、この時代をどうとらえるかについて自らの考えを明らかにしてほしい。グループの利害など大した問題ではないのだから、そんなものはこの際捨てて、精一杯青臭い議論を戦わせて、われわれに見せてもらいたい。その結果、党が分裂するなら分裂すればいいではないか。
 政権党は権力が手元にあるだけに冒険はできない。時代の風を正面から受けて、新しい理念を求め、それを示せるのは野党の特権である。真面目な話、そこから新しい政権への道も見えてくるのではないか。

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
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