――八ヶ岳山麓から(233)――
民進党の代表選挙がはじまった。だが、8月22日の共同記者会見はあまりぱっとしなかった。
枝野、前原両氏とも自民党とここが違うというところをどーんと前面に出して論戦するという姿勢がなかった。メディアの報道にも責任があるかもしれないが、違いばかりが目立って、憲法改正、安全保障とりわけ沖縄の辺野古問題、対北朝鮮問題、社会保障政策、教育政策、アベノミクスに代る経済政策など国民が関心をもつ分野での具体策がなかった。
民進党が今日国民に信頼されなくなったのは、民主党政権時代の失政に原因がある。いまや、だれが民進党代表になっても、国民は民進党が自民党に代わる受け皿になるとは思っていない。その原因の一つは、あなた方が民主党政権時代の失政を分析し反省し、それを国民に明らかにして謝罪することがなかったからだ。
沖縄米軍基地問題で鳩山内閣の方針がずるずる後退したとき、枝野・前原両氏はどんな態度だったか。どうすればよいと思っていたか。また尖閣近海で中国漁船を拿捕した時の前原の「粛々と裁判をやる」といった発言とその後船長の釈放というみっともない措置、東電福島第一原発事故の時の放射能汚染の実態隠し、「人体に直接の影響はない」と繰返した枝野氏の対応、石原慎太郎氏に振り回された野田氏による尖閣国有化など。あれで良かったのか悪かったのか。あのときは両氏ともに責任ある地位にあったのだから、ちゃーんと説明してほしい。
我々は安倍晋三極右内閣にかわる政権を求めている。
安倍政権は数の力をたのんで国政を私物化してきた。森友・加計の「学園問題」はたしかに安倍政権の支持率低下を導いた。だが、それは世論が極右政治の危険性を見抜いたからではない。権力者による身内びいきに対する一時の反感だ。どうせ自民党は少々の化粧直しをして出直し、有権者は再び彼らを支持するのだ。安倍首相の発言が少しばかり軟化したからといって油断はならない。
東京都知事選では小池百合子氏が大勝し、我々は惨敗した。都議選では「都民ファースト」が大勝し、自民党と民進党が惨敗した。共産党は都議がたった2人増えたのを「勝利」と喜んだ。だが、おもてには出なかったが、都議選の結果は護憲派の大敗を意味している。このままでは9条改憲の危険が現実味を帯びる。
その憲法改正問題では、前原・枝野両氏ともに憲法論議はやってもいいが、違憲の安保法制をそのままにした状態で改憲をいまやる気はないという。9条1項、2項を残して自衛隊を明記するという安倍首相の提案に対し、両氏とも集団的自衛権の行使を認めた安全保障法制は憲法違反、いま9条改定したらその安保法制を容認したことになるとした。
それはそれで結構な話だが、両氏ともゆくゆくは現行憲法を改定するつもりらしい。そうなら、どんなところをどう改定するのか、安倍首相の思い付き改憲案や自民党の復古調改憲案との違いを明らかにして、自民党に代わる選択肢を示してもらいたい。
野党共闘では、枝野氏は継続としたが、前原氏は「衆院選は政権選択選挙だから、理念・政策が合わないところと協力するのはおかしい」といった。だが、理念・政策が異なるからこそ共闘の意味があるし、そのための話し合いが必要なのではないか?
共闘をするかしないか、どちらが民進党にとって有利かは、だれが考えてもはっきりしている。さきの参院選のとき、長野県では民進党候補の杉尾秀哉氏を野党統一候補としたが、このとき選挙運動の手となり足となったのは共産党だ。私の村でも年寄りが多いとはいえ、共産党は奮闘した。彼らなしに杉尾氏の当選はなかった。いわば共産党は、自民党にとっての公明党・創価学会のような存在だった。
民進党の若手衆院議員5人が8月23日、国政選挙での共産党との共闘を断ち切ることなどを求める声明文をまとめ、両陣営に届けたという。民進党が頼りにする連合が反共産党だからかもしれないが、労働者の味方だか敵だかわからない労組がどの程度選挙運動の手足になれるか、頭を冷やして考えたらどうか。
共産党は、いまでこそ平和憲法の擁護を叫んでいるが、40年だか50年前には日米安保の廃棄と、それに代わる中立武装を称えていた。つまり自民党の解釈改憲をあまりに姑息だと批判して、将来憲法を改正し自衛に限定した最小限の軍隊をもつべきだといっていたのだ。これだと前原氏の防衛論ともかみ合い、話合いによっては選挙の時だけでも手をつなぐ相手になるのじゃないか。
共産党だって、そういう立場をとっていた時期もあるのだから、(まとまるかどうかは疑問だが)民進党が改憲案を出して来たら、頭ごなしに拒否しないで、まともに冷静に議論して欲しいと思う。民進党も共産党も野党指導者は、安倍政権を倒したかったら悪魔とでも手を結ぶ度胸がほしいところだ。
アメリカでは、明日何を言いだすかわからない男が大統領になった。トランプの登場以来、日米同盟はあちらの方から危うくなっている。なにしろアメリカ第一主義だからあてにしていては、はしごを外される危険がある。
そのうえ、この秋の中国共産党19回大会で習近平独裁体制が強化されたら、中国は攻勢に出る。なぜなら「習近平思想」はいまのところ中身がないから、それを充填するために、南シナ海でも東シナ海でも中印国境でも、やれるところでは小競り合いでも占拠でも何でもやる。そしてそれを「習近平思想」による成果というに違いない。尖閣近海では南シナ海並みの緊張が生まれることを覚悟しなければならない。
そのとき日本は中国とどうむきあい、どう共生していくか、確固とした方針をもたねばならない。自民党伝統の日米安保の強化をいうだけでは間に合わない。前原・枝野両氏ともアジアの平和をどう築くかについて、自民党との違いをぜひ示してもらいたい。
以上、民進党は頼りにならないと思いつつも、すこしでも早く極右権力私物化政権の退場を望むがゆえの、民進党への期待であり願いである。
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
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